こんにちは、TechCrunch Japan編集長の西村賢です。いま、TechCrunch Japanではスタッフを募集しているのでお知らせさせてください。
シリコンバレーで始まったブログメディアとして、米国の東西海岸の2拠点を中心に世界中に70人以上のライターがいるTechCrunchですが、その日本版であるTechCrunch Japan編集部は日本のスタートアップエコシステムとともに発展してきました。TechCrunch Japanをご覧いただいている読者の方の中には、最近日本人の名前のライターが増えているのにお気づきかもしれません。
今回募集しているのはフルタイムで編集部で一緒にメディア作りをしていけるチームメンバーです。TechCrunch Japanで書いてみたいというお声がけ(売り込み)を良く受けるのですが、いま求めているのは単発とか不定期の外部ライターとか寄稿者ではありません。基本的には東京・外苑前のオフィスに来て、取材・執筆したり、イベント関連の事業に取り組める人です。編集部スタッフの中にも週に3日だけ来るパラレルキャリアの人もいるのですが、今回の募集はいわゆるフルタイムです。
そもそもTechCrunchって?
TechCrunchは2005年にシリコンバレーのど真ん中でマイケル・アリントンというアクの強い個人ブロガーが淡々と書き始めたスタートアップ情報の個人ブログが始まりです。ドットコムバブルが弾けた余波で市況は良くないものの「Web2.0」という言葉が生まれたころで、次々と面白いスタートアップが出てくる時期でした。伝統的なメインストリームのメディアが、まだシリコンバレーの新しい企業群に目を向けていなかった時代です。伝統メディアの記者なんて全然なにも分かってないよ、オレのほうがよほどリアルで面白い記事が書けるぜ、と言って弁護士だったアリントンがスタートしたのがTechCrunchです。
DropboxやAirbnb、Uberと次々と話題のスタートアップ企業が登場するにいたって、TechCrunchは徐々に注目を集めました。実はUber創業者のトラビス・カラニックは日本に来たことがありますが、それはTechCrunch Tokyoというわれわれが秋に東京・渋谷で開催しているイベント登壇が目的の1つだったりします。TechCrunchが大きく注目を集めたのはGoogleによるYouTubeの巨額買収のスクープです。これを最初に報じたのがアリントンでした。やがてアリントンの元に個性的なブロガーが集まって成長し、TechCrunchはテック系ニュースではメインストリームのメディアに負けない知名度とトラフィックになりました。
2010年9月にTechCrunchはAOLに買収されました。買収額は2500万ドルから4000万ドルと言われています。AOL傘下に入ったことでTechCrunchはビジネスとして安定します。TechCrunch Disruptというイベントを毎年サンフランシスコとニューヨークで開催していますが、20〜30万円と比較的高額のチケット代にもかかわらず、合計すると7000〜8000人が足を運ぶイベントになっていて、これが収益基盤の1つとなっています。個人ブログからスタートしたというのが嘘のように、現在は大規模かつ有機的にビジネスもチームも回っています。TechCrunch自体、スタートアップだったのです。
これからTechCrunch Japanをどうするのか
実はアリントンがブログを書きはじめた頃、たまたま彼の近くにいた日本人がいました。西田靖さんという、トランス・コスモスでシリコンバレー投資を担当されている方です。西田さんが直接アリントンに日本語への翻訳許可をもらって、ぽつぽつ記事を翻訳し始めたのがTechCrunch Japanの始まりです。当初TechCrunch Japanは翻訳記事主体の「シリコンバレー発メディア」としてやっていましたが、じょじょに国内をカバーする記事も増えました。
日本ではAOL Japan傘下に入るまでに紆余曲折がありました。リーマン・ショック後にはTechCrunch Japan閉鎖の危機もありました(このときは当時主力ライターで現在THE BRIDGEの共同創業者でブロガーの平野武士さんの活躍で閉鎖を免れました)。やがて私の前任である西田隆一さん(現在はB Dash Venturesでキャピタリストとして活躍)が編集長となって、さらに日本のスタートアップ企業やテックビジネスの動向をカバーしはじめました。ちょうどソーシャルゲームが大きく伸びた時期です。ライブドア・ショック以降に冷え込んでいた起業熱も、国内での学生起業プチブームや、複数の国内アクセラレーターの立ち上げとあいまって盛り上がりました。
西田編集長時代からスタートした「TechCrunch Tokyo」というスタートアップイベントは今年で7回目。国内最大級といって良い規模に成長しました。参加者規模では600人程度だったものが2000人を超えて約3倍となり、TechCrunch Tokyoに登壇したスタートアップ企業の累計資金調達額はゆうに300億円を超えています。
一方、オンラインのコンテンツも翻訳記事に加えて日本でも独自の取材記事を掲載数を増やしています。2013年頃と比べてページビューも3倍近くに増えています。今は国内記事の割合は全体の2割程度ですが、もっと日本国内の起業家やスタートアップ企業に光を当てたいと考えています。そのためのメンバーをさがしています。
日本でTechCrunchをやるべき理由
TechCrunchの軸足はVC投資モデルによる「起業/スタートアップ」にあります。
起業家がリスクを背負ってテクノロジーを活用した事業を起こす。このときVC投資という社会技術を使ってレバレッジを効かせる。資本市場やM&A市場の成熟とあいまって、アメリカでは非常にうまくイノベーションを引き出すサイクルが回っているようにみえます。同じことが日本でも少しずつ起こり始めています。そうやって起業やイノベーションが増えれば20年にわたって停滞している日本経済も元気を取り戻すのではないか。TechCrunch Japanではシリコンバレー型のVC投資モデルは日本にとっても重要だと考えていて、だからこそ日々どの会社がいくら資金調達をしたということを優先して記事にしているのです。インパクトのあるイノベーションを観察するとき、スタートアップへの投資意思決定ほどに重要なシグナルはありません(もちろんVC投資のモデルが起業の全てではありません。顧客に愛され、着実に信用と売上を積み上げるスモールビジネスは、また別の起業の成功モデルです。これを否定する気は全くありませんし、外部資本を入れずに成功する起業家がいるのは事実です)。
イベント主催を7年続けていることもあって、今では日本国内のスタートアップ企業の資金調達やM&Aのニュース記事の波及力では、どのメディアにも負けていないと思います。日本のベンチャー投資は年間2000〜3000億円とGDPや人口規模から考えると小さく、「経済界」や「IT業界」のメインストリームから見れば傍流のように見えるかもしれません。でも、いずれメインストリームのほうがこちらにやってくると私は信じています。少なくとも、「これがいずれ世の中の当たり前になる」と信じてメインストリームからあえて飛び出して起業する、勇気と志のある賢い人たちの姿をみるのが私はとても好きなのです。国内だけで14兆円の市場規模がある「IT業界」よりもスタートアップ・エコシステムのほうに私は未来をみています。
VC投資というモデルをもっと日本に広めることをメディアの立場から支援する仕事をTechCrunch Japanでしたい。私はそう考えて4年前に西田さんから編集長を引き継ぎました。まだ世に出ぬ起業家たちに会いに行き、彼ら彼女らが世の中を変える様を伝えたいのです。TechCrunch Japanにジョインする前の2009〜2010年頃、私はシリコンバレーでY Combinaorの創業者たちに連続してインタビューする機会を得ました。そのとき以来、どうやったら東京にこうしたエコシステムが生まれるのだろうか、とメディアの立場で考え続けています。
米TechCrunchが今やテクノロジー特化メディアのメインストリームとなったように、日本のTechCrunch Japanでもスタートアップばかりでなく、カバー範囲を広げて立体的にテックビジネスのトレンドが分かるメディアを作っていければと考えています。法人ユーザーがITをどう使うかという「エンタープライズIT」の媒体はありますが、これは「ITを使う」話です。役職でいえばCIO。これはオールドエコノミーです。デジタルやネットにネイティブでない企業はシステムを外注したり外部調達するしかありません。時代は変わろうとしています。最初からCEOやCTOがビジネスの根幹をデジタルで作る。そういうテクノロジーでビジネスを作っていこうという「ITで作る」人たちが読むべきメディアを作っていきたいと思っています。そういう意味では対象読者はスタートアップ界隈のプレイヤーだけでなく、テクノロジーを使ってビジネスを作り、そのことで日本社会や世界の人々の暮らしを良くしようという前向きな人すべてです。今やネットやソフトウェアが変容を迫っていない産業や業種はないのですから。
長くなりました。そんなわけで、フルタイムで主に国内のテック系ビジネスの情報を追いかけるスタッフを以下の通り若干名募集します。
求めているスキル
- 日本語と英語
- VC投資モデルを中心としたイノベーション、そのエコシステムに強い関心があること
- ビジネスとテクノロジーの知識があること
- 人の話を聞くのが好きであること
- 取材スキル一般
良く聞かれることなので先に答えておきますが、ライター経験の長さは問いません。書ける人は少し慣れれば書けますし、いろんな文体を許容できるのがブログメディアの良さです。それに、文章力よりも関連知識や好奇心のほうがよほど重要です。英語については読むのに困らないのがベースラインです。イベント運営やパネルディスカッションのモデレーションなら任せろ、というスキルも歓迎です。TechCrunch Japanはオンラインとオフラインの両輪で走っていて、イベントビジネスは重要な柱です。リスクを取って起業した人に光を当てるという意味ではオンラインの記事も、オフラインのイベントも同じ趣旨です。
TechCrunch Japanで仕事することについて詳しく話を聞いてみたい人は、 tips@techcrunch.jp までタイトルに「フルタイムスタッフ応募」という文言を入れてメールで送ってください。ご応募いただく場合、フォーマットは問いませんが、履歴書、職務経歴書、これまでに書いた記事の中で代表的なものを3つ添えてください。応募の秘密は厳守します。応募期間は6月17日土曜日まで。給与については応相談。メディアでの経験豊富な方からのご応募もお待ちしています。