アーティストとファンを繋ぎ安定した収益化を支援するPatreonが、大規模な資金調達を行った模様、評価額は4億5000万ドルか

アートが共有され、無料でストリーミング配信されるこの時代に、Patreonはコンテンツ制作を職業へと転換するという新しい希望を与えてくれる。このサービスは、イラストレーター、コメディアン、ゲームメーカー、そしてミュージシャンたちがPatreonを使用して、ファンたちからの自身の作品に対する特別アクセスと引き換えに、サブスクリプション方式で月々お金を払ってもらうというものだ。取引に際して、Patreonが徴収する手数料は、わずか5%に過ぎない。

5万人のクリエイターが登録されており、100万人のサブスクライバーたちが、コンテンツを早期に独占的に見るために月平均12ドルを支払っている。その結果Patreonは、2017年には1億5000万ドルをクリエイターに支払っている。これが意味することは、規模は倍増しているものの、Patreonは750万ドルしか収益を挙げていないということだ。

しかし投資家たちは、もし十分な数のアーティストがサインオンして、ファンを惹きつけることができれば、Patreonは新しいクリエイターエコノミーの柱として成長することができると考えている。TechCrunchは、3つの情報源から、Patreonが大規模なシリーズC資金調達ラウンドを終了したことを知った。そのうちの2つの情報源によれば、スタートアップの価値を約4億5000万ドルと評価し、Index Venturesが主導役ではないもののラウンドに参加していたと語った。Patreonはこの件に関するコメントを拒否した。

得られた現金は、クリエイターたちのマネタイズを助ける他の大きなプラットフォームたちと、競い合う筋肉を付けるために使われるのだろう。そうした競合相手には、YouTubeやFacebookの新しいオリジナルビデオのためのWatchタブ などが含まれる。YouTubeとFacebookはアーティストたちに訴求する巨大なユーザーベースとチームを持っているが、彼らはクリエイターたちのコンテンツを使って得た広告収入の55%しか作者に対して支払っていない。Pateronが95%を支払うことを、またファンからの直接的な支払いは、広告の視聴によるものよりも何倍も多い収入をもたらすことが、マーケティングを通して認知されれば、Patreonは広く受け容れられるだろう。

クリエイティブ層への資金提供

音楽家でビデオ作家のJack Conteは、作品から十分な収入を得ることに苦労してきた、またKickstarterのような一度切りのクラウドファンディングプラットフォームのプロジェクトでは、アーティストが創作に集中するために必要な資金が得られないこともわかった。そこで彼は「2013年に、クリエイティブ層への資金提供をミッションとするPatreonを共同創業した」と、先の6月に語ってくれた。「 広告だって?それだと十分じゃないんだ。アートを支える財政的な仕組みの中で、消費者からの支払いが、より大きな部分を占めなければならない」。

Patreonは、Thrive Capitalが主導した2016年1月のシリーズBまでに通算4710万ドルを調達していた。シリーズBにも参加したIndexはシリーズAにも参加していた。しかし大量の資金注入はプラットフォーム内のクリエイターたちの信頼度を押し上げることになるだろう。もし彼らがPatreonの資金がすぐに尽きることはないと知っていれば、おそらくプラットフォーム上の長期的なサブスクライバーの獲得に、より熱心に動いてくれるだろう。

より深いポケット(潤沢な資金という意味)は、Patreonがクリエーター用のボーナスツールスイートを開発することを可能にし、その一部に対して更に課金することもできるようになるだろう。「私たちのプロダクトへと注ぎ込むことのできる、新しい収入源を生み出す機会は色々考えることができるね」とConteは私に請け合った。彼は、例えばイベントチケットや商品を販売すること、クリエイターがファンの動きを理解してコミュニケーションすること助けるといったことを口にした。これによって、iTunesやSpotifyに比べると、わずかなものに見える5%の手数料の上に、Patreonの取り分を増やしていくことができるだろう。

イラストレーターのWLOPは、Patreonにおけるサブスクライバーたちにウォーターマークのない4Kサイズのアートを提供している。

その利点として、Patreonはプラットフォーム上でどのような種類のコンテンツが収益化されているかについては、比較的寛大だ。エロティックな絵画、アダルトゲーム、マリファナ関連のニュースやエンターテインメントなどは、みなPatreon上でサブスクライバーたちを魅了している。これらの多くはそもそもFacebookやYouTube上では許可されていないし、PewDiePieのスキャンダルを受けたYouTubeの厳しい広告規制(黙示録apocalypseにかけてadpocalypseと呼ばれている)の対象になるものや、今週発表されたFacebookの新しいルールに抵触するものから、広告収益を得ることもできない。

政治評論家集団のChapo Trap Houseは、Patreonで月に1万8000ドル以上の収益を得ている

しかしこれは両刃の剣だ。Patreonは、右派の政治評論家たちが差別的な発言を通じて資金を調達していることを知っている。それはオルタナ右翼クラウドファンディングサイトHatreonのようなものの誕生につながる。より多くの資金はより多くの注目を集めることになり、Patreonは「汚らわしいものを排除した自由スピーチ」という厳しい綱渡りを強いられることになるだろう。その自らの規則の中で何が正確には許されるのかを決め、そしてその規則を運用していくことはとても難しそうだ。

これまでのところPatreonは、資金提供先の新しいクリエイターを、ユーザーが発見することには、あまり力を注いで来なかった。すなわち、その収益を伸ばしアーティストを支援するための大きなチャンスがあるということだ。しかしそれはまた、課題も生み出すことだろう。Patreonは既に人気のあるクリエイターをどれほど増やすべきだろうか?(おそらくそうした人たちはサイトを占有するかのように目立つかもしれないが、より大きなコンバージョン率を期待することもできる)。また誰にスポットライトを当てるべきかの決定をサイトが行なった場合、もしそうしたクリエイターたちが他人を傷つけた場合には、Patreonを脆弱なものにしてしまう。

しかし、それらはミッションとしてもビジネスとしても、リスクを取るに値するものだ。コンテンツの配信はオンラインで行われている。ビデオ制作者やIndiegogoの発明家であるクリエイターたちは、安定した収入源を求めているのだ。広告プラットフォームは限定的で、しみったれていることが明らかになり、何より十分な現金を手に入れることができない。自動化は古い職業を脅かす。インターネットはニッチなアーティストとニッチな観客をつなぐことができる。また、好きなクリエイターとの間に絆を築く新しい方法によって、消費者は自分が好きなアーティストへのアクセスを増やす意欲がますます高まっていく。

Patreonはこうした流れのまさに中心に存在している。すべてのアーティストが飢えなければならない訳ではない。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。