農産物を長持ちさせるApeel Sciencesはフードロス問題に一役買う

自動運転車ロボティックパーソナルアシスタントがありふれたものになりつつある時代にあって、持続可能な食物供給や流通といった基本的需要を満たす必然性は過去のものと考えているかもしれない。しかし実際はそうではない。

国連食糧農業機関(FAO)によると、毎年、食糧用に栽培された食物の3分の1にあたる13億トンが失われたり廃棄されたりしている。米国のような工業化された国々では、結果として毎年6800億ドルの経済損失となっている。冷却システムのような標準インフラが整っていない国々でも同様に3100億ドルの損失となっている。

毎年何十億トンもの食糧が廃棄されているが、その大多数を占めるのが必須かつ栄養も豊富な果物や野菜、根菜類(ジャガイモやニンジンなど)で、毎年45%が廃棄されている。

フードロスの要因はいくつかあるが、米国においては“賞味期限”や“販売期限”がしっかり規則化されず、結果として気まぐれな消費者がまだ食べらるものを廃棄するようなことになっている。また、十分に工業化されていないような国々では冷蔵・冷凍の物流が十分でなかったり、あるいはそもそも存在していなかったりする。

こうした問題の要因は食品が簡単に腐ってしまうということにあり、これは陳列棚に置く期間と直に関わってくる。だからこそ、Apeel Sciences はこの分野に参入した。

カリフォルニア拠点のこのスタートアップは、農産物の鮮度を保ち、腐敗を遅らせる植物由来の物質を使って食品ロス問題に取り組んでいる。この物質では農産物に第二の皮をつくることになるのだが、使うにはApeelの保存パウダーを水で溶いて、それを生産物にスプレーするだけだ。

創立者でCEOのJames RogersがApeel Sciencesの設立をひらめいたとき、彼はカリフォルニア大学サンタバーバラ校で材料工学での博士号を取得しようとしていた。錆という、すでに科学の力で解決された問題を分析することで食品腐敗の解決策を見いだすことができると確信した。

「食品をダメにする要因は水分の減少と酸化だ」。RogersはTechCrunchに対しこう説明した。「この事実は、カーネギーメロン大学で冶金研究者として鉄について研究していたころのことを思い出させる」。鉄もまた腐敗しやすい。というのも、鉄は錆びるからだ。大気中の酸素に反応しやすく、それゆえに用途に制限がある。しかし冶金学者が鉄の表面を物理的に守るためにほんの少しの酸化バリアを施した。それがステンレススチールだ。

Rogersは、同様の手法で農産物の腐敗を遅らせることができないだろうか考えるようになった、と話す。

「新鮮な農産品の表面に薄いバリアをつくることで腐敗を遅らせ、これにより食糧飢饉に対応できないだろうか」。

Apeelは、ビル・ゲイツ、メリンダ・ゲイツ夫妻の基金から10万ドルの支援を得て2012年に正式に設立された。保冷インフラが整っていない発展途上国での収穫後の農産物のフードロスを削減するのが目的だった。この問題に取り組むために、Apeelはケニアやウガンダといった国の農家が、保冷することなしに鮮度を維持したまま農産物を消費者に届けられるよう、セルフまたはハイブリッドの物流システムを構築した。

Apeelにとってはアフリカや南アジアが基盤だが、その一方で米国の農家ともパートナーシップを結び始めた。今年の5月と6月には、初めてApeelを活用した農産物のアボカドが米国小売のCostcoとHarps Food Storeの店頭に並んだ。

Apeelの農産物は遺伝子組み換えではないため(その代わり植物由来)、店頭で商品に特別な表示をする必要はなが、Rogersによると、Apeel農産物の入れ物にはそうしたことを表示しているという。

「我々はDNAレベルで操作をしているわけでもなく、遺伝子組み換えを行なっているわけでもない。しかし、消費者に対して真摯でありたいし、消費者にそのラベルに気づいてほしい。というのも、消費者がそのラベルに気づくことで、購入する農産物が高品質で長持ちし、廃棄することが少なくなるものであることを認識してもらえるからだ」。

Apeelによると、Harps Food StoreにApeelのアボカドが並ぶようになってから、Harps Food Storeのアボカド分野の利ざやは65%増加し、売上も10%アップした。

こうした成功例を経て、ApeelはViking Global Investorsが主導し、Andreessen HorowitzやUpfront Ventures、S2G Venturesが参加したラウンドで7000万ドルを調達した、と7月に発表した。

RogersはTechCrunchに対し、調達したこの資金をフードロス撲滅のための新たな手法の開発や研究に使う、と明らかにしている。モモやウメ、アンズといった核果類やアスパラガスに使用するスプレイもその中に入っていて、これまで同様に自然由来のものを模索する。「フードロスを解決するためにどんな物質を使えばいいのか特定し、そうした物質をどう抽出して人の役に立つようなものにするのかということを、自然のエコシステムから学ぶというのが我々の使命だ」と語っている。

イメージクレジット: Apeel Sciences

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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