先日、銀座の某ブランドカバン店に入って特定商品を探していたら、誰も店員が声をかけて来なかったのに驚いた。ネットで見て欲しいカバンは決まっていて、いかにも「探している」という素振りをしていたのに、その顧客(私)に声をかけないってもったいなくない?
まあ声をかけられてメンドくさいと思う人も多いだろうし、対人コミュニケーションなんて面倒と思うギークなら、そもそも店舗に足を運ばないとかもあるのかもしれないけど、リアルな店舗では、ふつう絶妙なタイミングで顧客に声をかけてコンバージョンレートを上げるわけである。「買いそうな顧客」を見分けるのだ。
同じ棚の前を何度か行ったり来たりとか、特定商品の前で腕組みするなんていうのは明らかに購買意欲アリのサインだ。「表示価格より、お安くできますよ」とかなんとか囁きかけるべきなのだ。
それと全く同じことを、モバイル向けECサイトで実現するのがpopInが開発した新マーケティング・ツールの「popIn Action」だ。popIn Actionの最初のリリースは10月のことだが、今日新たな機能をリリースして、popInがいうECサイト上での「One to oneマーケティング」ツールがほぼ実現できたという。
popIn Actionの「リアルタイムオファー」は、絶妙なタイミングでの声がけを、ネット越しに半自動で行うツールだ。スマフォで買い物をしているユーザーの行動を見ていて、どのぐらいの頻度で同じ商品アイテムを閲覧したかによって「購買意欲」をリアルタイムで判定。一定以上の購買意欲を持っているユーザーに対して、画面上に時間限定の「10%オフ」といったクーポンを提示することができる。購買意欲の判定に使うのは、商品の訪問履歴、お気に入り登録情報、流入経路、カートの情報など。
従来、こうしたECサイト上の最適化やマーケティングは専門の担当者が各種指標を見ながら行っていたが、popIn Actionが新しいのは、そうした専属マーケターや特殊な仕組みを用意しなくても導入できることだ。popIn代表取締役の程涛氏によれば、「2週間のうちに3回接触したとか、短時間で2回接触したらオファーすると売上が上がる、といったノウハウは中小のECサイトにはない」といい、popIn Actionでは、ここの部分を「購買意欲判定エンジン」として実装。各種実店舗のデータから統計モデルを作って「買いそう」という判定を自動化しているのだという。
「買いそう」を判定するのはカンタンな話ではなく、例えばユニクロで靴下を買うときには何度も棚の前を行ったり来たりしないし、ECサイト上でも、多くの人は割と気軽にカートに放り込むだろう。一方、腕時計やカメラなどの高額商品は逡巡もするし、1週間ぐらい何度も同じページで写真を眺めたりもするかもしれない。popIn Actionは、こうした違いについても統計モデルで対応できるとしていて、こうしたアルゴリズミックなアプローチが既存大手アドテクサービスとの違いだと程氏は話す。購買意欲は時間とともに下がるが、実はかなりダイナミックに変化しているものだという。これを最大100点の単一指標にして、例えば50点以上を購買欲アリと判定するロジックがpopIn Actionのコアにある。利用するECサイトに対して直接この数字を見えるようにはしていないが、アクションを仕掛けるべきユーザーをECサイト運営者のダッシュボード上にリストアップして表示し、対応するアクションを定義できるUIを提供する。割引クーポンのオファーも1つだが、そのほかにもバナーや特定広告の表示といったアクションも定義できる。
popIn Actionではもう1つ、「パーソナライズド広告」が利用できる。結局のところ、購入を迷う人はECサイトを離脱して別サイトへ行ってしまうのが普通だ。このとき広告ネットワークを使って、ほかのサイト上でもユーザーが閲覧した商品の広告を出す、というのがリターゲティング広告だ。このリターゲティング広告を個別ユーザーに対して打つことができる。
通常の10倍の効果があると言われるリターゲティング広告だが、すでに大手サイトやECサイトでは採用済みで、popIn Actionが狙うのは、まだ導入できずにいる、もっと小さいECサイトだ。国内でリターゲティング広告のシェアトップはCretioだが、中小ECサイトには導入のハードルが高いのだという。例えば、商品データをCSVでCretio側にアップロードする必要があるなど導入コストのために大手EC以外は採用できないことがある。popIn Actionはこの問題をスクレイピングで解決する。popIn Actionの利用はJavaScriptのコード片を追加するだけで設置でき、商品データを事前に広告会社にアップロードする必要もない。
2013年末リリースのpopIn Actionでは、対象をモバイルEC、かつHTMLに限定した割り切りがミソ。「すでに25〜50%の売上がモバイル。リアルタイムオファーやパーソナライズド広告はスマフォのほうがやりやすい」(程氏)。既存ECコンテナに対応することで、95%の精度で商品名、写真、価格の3つを抽出できるのだという。例えば、商品画像は画面に対する表示面積などから判定する。楽天市場などが典型だが、PCのECサイトは画像やテキストなどの要素が大量にあって、スクレイピングに向かないので、モバイルECサイトならではのアプローチだ。
popIn利用はスマホサイトの月間訪問数5000未満の場合は無償。5000〜10万で月額980円のプレミアムプラン、10万以上の場合は従量制課金などとなっている。現在popInではECコンテナ大手と連携を進めていて、現在手作業によるコピペが発生してしまうクーポンコードの連携などを自動化していく予定という。
popInは東京大学エッジキャピタルの支援で設立した東大発ベンチャー企業。当初はWebページ内検索や、大手メディア向け検索エンジンの開発、関連記事表示などの技術を手がけてきたが、アドテクベンチャーのFreakOutと協業する中で、今回のような仕組みに至ったという。