がんを専門とする計算病理学スタートアップのPaigeがシリーズB投資で75億円を調達

Memorial Sloan Kettering Cancer Center(メモリアル・スローン・キャッターリングがんセンター、MSK)から独立し2018年に創設された(未訳記事)スタートアップのPaige(ペイジ)は、AIを使ってがん病理学の理解を深め、高度ながん研究と治療に貢献している。Paigeは米国時間7月13日に、その成長過程の一里塚となるシリーズBラウンドでGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)とHealthcare Venture Partners(ヘスルスケア・ベンチャー・パートナーズ)から2000万ドル(約21億円)を調達し、7000万ドル(約75億円)でクローズした。

PaigeのCEOであるLeo Grady(レオ・グラディ)氏は、この資金はいくつかの分野に使われると話している。

その用途は人材雇用、バイオ医薬品メーカーとのパートナーシップの拡大(契約内容はまだ公開されていない)、MSKのアーカイブにある2500万件の病理診断スライドでトレーニングした自社開発のアルゴリズムを基礎とする臨床研究への投資、そしてPaigeの事業の基本となるAIベースの計算病理学に関連する情報処理となっている。また、英国とヨーロッパへの進出にも使われるという。Paigeは、両地区での臨床利用を可能にするCEマーキング認証を取得している。すでに英国とEUにベータサイトを設けているが、どちらの地区でも完全な商用化には至っていないとグラディ氏は話している。

PaigeはBreyer Capital、MSK、Kenan Turnaciogluといったその他の投資家から9500万ドル(約102億円)以上を調達しているが、評価額は公表していない。しかし、このラウンドの最初の4500万ドル(約48億円)の支払いが発表された2019年12月、様々な情報を総合して我々は評価額をおよそ2億800万ドル(約223億円)と見積もった。その後、同社は2020年4月に500万ドル(約5億4000万円)を受け取っている。最後の2000万ドルを呼び寄せた要因の1つは堅調な事業だとグラディ氏はいう。結果として、資金調達が厳しい現状にも関わらずPaigeはそうした困難に遭わずに済んでいる。

「ゴールドマン・サックスが最初に投資を行ったときの状況(4月の500万ドル)」は「新型コロナウイルスの大打撃を受け、その深刻さに気がつき始めたころでした」とグラディ氏。「経済の中で、物事がPaigeにどう作用するかを彼らは見たかったのです。しかし、その成り行きは勇気づけられるものとなりました」。

たしかに現在は、多くの人の意識が新型コロナウイルスという形で世界中に蔓延した目下の公衆衛生の危機と、それが経済と社会に及ぼすドミノ効果に集中している。そうした中でのPaigeの成長は興味深い。

新型コロナウイルスと、それががんなどその他の疾患に及ぼす影響への私たち理解はまだ初期段階(CIDRAP記事)であり、Paigeの研究はそこには直接関わってはいない。だが同時に、デジタル化したスライドを中心に構築されている同社のプラットフォームは、それ自体が臨床医や、研究所に毎日出勤できなくなった人たちの役に立っている。

同社の共同創設者であるThomas Fuchs(トーマス・フックス)博士は「計算病理学の父」と呼ばれる人物で、MSKのThe Warren Alpert Center for Digital and Computational Pathology(デジタル及び計算病理学のためのウォーレン・アルパート・センター)の計算病理学のディレクターであり、ワイルコーネル医科大学医療科学大学院の機械学習教授でもある。もう1人の共同創設者であるDavid Klimstra(デイビッド・クリムストラ)博士は、MSKの病理学学部長だ。そうしたPaigeの企業向け視覚化システムは、遠隔でのデジタルスライドの閲覧を可能にする。今やどのハードウェアメーカーにもデジタルビューワーはあるが、それも自社のスキャナーにのみ対応する独自仕様で、「高性能には作られてない」とグラディ氏は指摘する。

Paigeのプラットフォームでは、利用者は研究成果だけでなく、実際にスライドをやり取りすることなくオリジナルデータも共有できるのだが、データの「読み出し」用に組み込まれた高性能ソフトウェアを使うことで、臨床医や研究者は他の方法を使うよりも総合的にデータを見ることができる。これは当初、前立腺がんと乳がんのためのものだったが、今はその他のがんにも範囲を広げているとグラディ氏は話す。「私たちはワークフローに情報を追加し、データの信頼性と品質を高めようとしています。最初の段階(プラットフォームとスライド)が次の段階を可能にしました」。

ゴールドマン・サックスの投資は、この大手金融サービス企業の自己資金投資部門から出ている。そしてその一環として、同社の業務執行取締役であるDavid Castelblanco(デビッド・カステルブランコ)氏がPaigeの役員会に加わった。

「私たちはこの会社と、その成長の早さに本当に驚かされました」と彼は声明の中で述べている。「レオ、トーマスそしてPaigeのスタッフのがん治療分野での人工知能と機械学習を駆使した革新的な仕事への支援が増やせることを、とても嬉しく思っています」。

「そもそも私たちがPaigeへの投資を決めたのは、彼らの製品がこの業界に膨大な価値をもたらし、がん治療の未来に大きな影響を与える可能性に気づいたからです」とHealthcare Venture Partnersの専務取締役であるJeffrey C. Lightcap(ジェフリー・C・ライトキャップ)氏はいう。「Paigeがわずかな期間で目覚ましい成長を遂げた後に、その成長をさらに加速させようと私たちは追加投資を行いました」。

画像クレジット:Ed Uthman Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(翻訳:金井哲夫)

より効果的ながん治療に向けXilisが微小な腫瘍の培養技術を開発中

米国のみならず世界中で、がん治療が奇跡的と言ってもいいほどの進歩を遂げているにもかかわらず、依然としてこの病気は米国で死因の第2位を占めている。

問題は、人間の体が一人一人異なるため、あらゆる病気の症状も患者に固有であるということだ。一般的にがん治療の有効性は、ある種類のがんにかかっている人のうち同じ治療法でいかに多くの人を治せるのかにかかっている。

疾患の理解が進むにつれて、個別の疾患に標的を定めた治療が市場に出始めた。Xilis(ジリス)の創業者は、その種の治療をさらに効果的にするプロセスを開発した。

Xilisは、それぞれデューク大学の教授および研究者であるXiling Shen(シリン・シェン)氏とDavid Hsu(デイビッド・スー)氏が創業した。同社における技術は、オランダの研究科学者Hans Clevers(ハンス・クレバース)氏の研究をベースとしている。クレバース氏は、2004年にライフサイエンスのBreakthrough Prizeを受賞し、現在はロシュの取締役を務める。同氏は、研究用に人間の小型臓器を培養する手法の改良に貢献した。

シェン氏とスー氏はその研究を一歩進め、がん患者の腫瘍を培養・維持できるプロセスを開発している。医師や製薬会社が、一つ一つのがんにあった治療法を開発するのに役立つ。

「当社の技術は、1つのがん生検から1万個の微小な腫瘍を生成し、どのがん治療が患者に効果があるのか、またはないのかを検証する」とシェン氏は声明で述べた。「臨床試験ではすでに、当社の技術が治療の成功に貢献する見込みを示すデータや、薬剤耐性患者への新しい治療法発見を示唆するデータもある」。

創業者らは2019年の早い時期に、研究での発見に基づき臨床試験を開始した。その結果は非常に有望だったため、2人はこの技術を活用に向けて会社を設立し、臨床現場で使えるまでの時間を短縮するため資金調達することを決めた。臨床で使えるようになれば、患者は標的を定めた治療法の恩恵にあずかれる。

シェン氏はインタビューに対し、同社の技術には非常に説得力があるため、先駆者であるクレバース氏が共同創業者として会社に参画し、将来の開発に協力することに同意した、と述べた。

「我々が発明したのは、マイクロ流体力学で使える微小な液体だ」とシェンは言う。「マイクロオルガノイド(試験管内で作られた小型臓器)を培養して、その3次元の微小環境でがん細胞を腫瘍に成長させる」

Xilisは技術の商業化を加速するため、シードで300万ドル(約3億3000万円)を調達した。投資家には、数十億ドル(数千億円)規模のがん治療技術開発企業Guardant Healthの初期投資家であるFelicis Ventures、元NFLのスーパースターJoe Montana(ジョー・モンタナ)氏のファンドであるLiquid 2 Ventures、Pear、8VCなどが名を連ねる。

同社の技術の価値は、短期的には患者一人一人に的確に合わせた治療を生み出す能力にあるが、長期的には同社が蓄積するデータセットに価値がある。「当社が保管・蓄積するマイクロオルガノイドを、製薬会社が試験に使いたいと考えている」とシェン氏は言う。

シェン氏は、新薬の有効性を検証する初期的な試験で何百万ドル(何億円)も節約できる可能性を、製薬会社が見逃すはずはないと言う。この技術を利用すれば、製薬会社は「はるかに早くかつ低コストで大規模な医薬品スクリーニングを行うことができる」

画像クレジット:Oregon State University / Flickr under a CC BY-SA 2.0 license.

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(翻訳:Mizoguchi)