【編集部注】執筆者のBob MugliaはSnowflake ComputingのCEO。
ほぼ全ての世論調査の結果、民主党候補ヒラリー・クリントンの勝利が確実視されていたにも関わらず、次期大統領ドナルド・トランプがサプライズ勝利を収めたことから、この選挙結果はクリントンだけでなく、ビッグデータの敗北をも表しているという話を聞くことがある。共和党ストラテジストのMike MurphyはMSNBCで「今夜、データは死んだ」とさえ語っていた。
実際のところ、彼の発言は現実をかなり誇張したものだ。もちろん、今回の選挙を受けて、世論調査の価値にはかなりの不信感が生まれ、調査手法の再検討が叫ばれており、これはしかるべき結果だ(これについては後述する)。しかし、ビッグデータがアメリカ中の企業にディスラプションや変化をもたらす原動力であり続けるという事実は、選挙結果をもってもしても変わらない。
IDCは、1年間に生まれるデータ量が、2025年中に180ゼタバイト(=180兆ギガバイト)に達すると予測している。これは今日の数字の18倍にあたる。1ゼタバイトとは、書類がいっぱいに詰まった引き出しが4つ取り付けられたキャビネットを、一列8万台で地上から縦に積み上げて、月に届くくらいのデータ量だ。
さらにIDCは、ネットワークに接続されたデバイスの数が、現在の200億台から2025年までに800億台へと増加すると予想しており、「少しでも価値のあるものは全てインターネットに接続されるようになる」とまで語っている。市場や顧客の分析・予測、ワールドシリーズ制覇の推進力いうのはまだ序の口で、私たちはまだ世界中の全てのデータを利用しはじめた段階にしかない。
ビッグデータは、新たな市場・収入源の発見、ヘルスケアや科学研究分野でのイノベーション、さらには国家単位でのセイバーセキュリティ強化にも大いに役立つ。そのため、アメリカ政府上層部にもビッグデータを推奨するリーダーのような存在がいてもおかしくない。だからこそ、次期大統領のトランプは、アメリカ初のチーフデータオフィサーを設置すべきなのだ。
トランプの根っこはビジネスマンであり、ビッグデータはビジネス面でも目を見張るほどの可能性を持っている。
Twitterの利用を除いては、あまりテクノロジーに関連したイメージを持たれていないトランプも、データ周りの重要な構想を支持することで、雇用を生み出そうとしている前進的な大統領だというイメージを作りあげることができる。
トランプの根っこはビジネスマンであり、ビッグデータはビジネス面でも目を見張るほどの可能性を持っている。
IDCによれば、ビッグデータとビジネスアナリティクスの市場規模は、昨年の1220億ドルから、2019年には50%増の1870億ドルまで膨らむと予想されている。さらにForresterは、ビッグデータ関連のテクノロジー市場が、IT全般の市場に比べて3倍の速さで成長すると考えている。
またトランプは、チーフデータオフィサーを任命することで、新政権がテクノロジーを需要な経済成長エンジンとしてサポートしようとしているという意思を国民に伝えることができる。Amazonに対する反トラスト運動や、Appleに対する国内生産の強要といった内容が含まれる彼の公約によって傷つけられたシリコンバレーとの関係性も修復に向かうかもしれない。
次期大統領のトランプが、現大統領のオバマほどシリコンバレーと仲良くなる可能性は極めて低いが、チーフデータオフィサーの指名によって、トランプは現在ほとんどいないであろう、シリコンバレーのファンを増やすことができるかもしれない。トランプ自身は、シリコンバレーでの自分の評判を気にしていないかもしれないが、彼とシリコンバレーが協力する道が見えれば、それはアメリカにとって大きな財産となる。
オバマ大統領は、初めて大統領に就任してからわずか3ヶ月の2009年4月に技術局(Office of the Chief Technology Officer)を設立し、同局は国内の消費者へどのようにデジタルサービスが提供されているかの管理や、テクノロジー関連の研究開発に対する連邦政府投資のコーディネート、STEM分野の発展促進といった機能を担ってきた。そして、Aneesh Chopra、Todd Park、Megan Smithの3人がこの組織を率いている。
トランプは同局を保持しつつ、データに特化して業界を監視し、合衆国最高技術責任者とタッグを組むような新しい役職を作るべきなのだ。以下の人々を含め、官民どちらにもチーフデータオフィサーにふさわしい候補者はたくさん存在する。
- Tyrone Grandison: 前商務省データ担当副局長で、以前に労働省と国勢調査のデータに関して協業していた。
- Scott Hallworth: Capital Oneでチーフデータオフィサーを務め、過去25年間にわたり、企業のデータ戦略の最前線にいた。
- Claudia Imhoff: Boulder Business Intelligence Brain Trustのファウンダーで、データインテリジェンス業界における思想的なリーダーとして知られている。
- Guy Peri: Procter & Gambleのヴァイスプレジデントで、同社のデータ戦略のトップを務めている。
また、チーフデータオフィサーの役職をつくることで、トランプはビッグデータの戦略的な価値や、ビッグデータを使って何ができるかを理解しているということをアピールできると同時に、新しいプロダクトやビジネスモデルの創出を促進することができる。さらには、誤った世論調査の結果生まれた、ビッグデータは過大評価されているという間違った考えを正すことにもつながるかもしれない。
そもそも世論調査のデータ量は、ビッグデータと呼ぶには少なすぎる。典型的な世論調査には、エクセルで分析できてしまうほどのデータポイントしかない。世論調査とビッグデータには、1200世帯を対象にした1960年代の視聴率調査と、ユーザーの日々の視聴動向に関する何百万ものデータポイントを対象にしたNetflixの調査くらいの差がある。
アメリカ大統領選や7月に行われたBrexitに関するイギリス国民投票の結果から分かる通り、回答者の答えと行動は必ずしも一致しないため、信頼できるデータが世論調査から得られるかどうかというのは疑わしい。それとは逆に、顧客がショッピングサイトのどのリンクをクリックしたかに関する調査のように、ほとんどのビジネスデータは実際の行動に基づいている。また、世論調査会社がそれまでの調査をもとに最新のデータに改変を加えることで、調査結果にはさらなるバイアスが生まれてしまう。つまり世論調査の問題点は、データ自体に間違いが含まれているということなのだ。
関係者は今回の結果を冷静に受け止め、現状の世論調査のアプローチには穴があり、改善が必要だと認めている。その解決策として、Facebookのようなソーシャルプラットフォームを利用した現代的な手法をとれば、何千万人もの人々からデータを集めることができ、調査結果の正確さを担保できるかもしれない。ビッグデータは世論調査の失敗を招いたのではなく、むしろ2020年頃には、ビッグデータが解決策となり、世論調査がクラウド化するかもしれない。
ビッグデータは、ビジネスに革新的な変化をもたらす力を持っている。もしもトランプがテクノロジーについてひとつだけ理解する必要があるとすれば、それはビッグデータの力なのだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)