【編集部注】著者のLyon Brad Kingは、Orbion Space Technologyの共同創業者であり、ミシガン工科大学の宇宙システムRon and Elaine Starr教授、ならびに機械工学-工学機械科ディレクタである。
「ディスラプション」(Disruption)という言葉は、テクノロジーの世界で特に優れた開発や製品を表現するために(過剰に)使われている用語だ。とはいえ、この言葉の本来の意味は、そのカジュアルな意味とは正反対である:ディスラプションというのは「イベント、アクティビティ、あるいはプロセスを妨害する障害や問題」のことなのだ。現在宇宙技術が経験しているのは、この両者の意味のディスラプションである。
信頼できる見積もりによれば、今後5〜7年以内に、地球の住人たちは、これまでのこの惑星の歴史の中で打ち上げられてきたものよりも、さらに多数の衛星を宇宙空間に打ち上げることだろう。これは、最も良い意味でのディスラプションだ。しかしながらそこには深刻な問題が横たわっている。その興奮を粉砕し、星への歩みを遅らせるような真のリスクに、私たちは直面しているのだ。政府の検討事項の中では宇宙政策の優先度は高くない。このため、この不幸な規制不毛状況によって、現在最もイノベーティブな企業たちの計画が、古臭く時代遅れの規則や規制で悪い意味でディスラプトされようとしているのだ。
既存の宇宙政策
既存の宇宙政策についての状況を知らない人のために説明すると、広く受け入れられている国際協定である“Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space including the Moon and Other Celestial Bodies”(月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約)は、1966年〜1967年に草案が作られ、協議され、そして署名されたものだ。一般にThe Outer Space Treaty(宇宙条約)と呼ばれているこの協定は、各国がその国から発せられる、あらゆる宇宙関連の活動に対して責任を持つことを規定している。その活動が、市民によるもの、企業によるもの、あるいは政府自身のものであるかは問われない。各国は、自国発のすべての宇宙物体を完全に管轄し、管理もしなくてはならない。
この協定に署名が行われた時点では、企業が宇宙空間で何かをしようとすることを予測できた者はいなかったということは指摘しておく価値があるだろう。ましてや企業が自分たちで衛星を打ち上げるなどということは想像することもできなかったのだ。
許可…そしてFCC
このような経緯から、米国政府が、私たちの国を起点とする宇宙活動と宇宙物体に対して責任を持っていることになるのはお分かりだろうか?このことが意味するのは、打ち上げられる全ての人物と全ての物体について知り、追跡しなければならないということだ。もちろんこれは簡単な仕事ではない。大気圏と宇宙の間に横たわるカーマンラインを、衛星が横切ろうとするときに、強制的な衛星検査を行うことは不可能だ。では、どうやってそれらを追跡するのだろう?打ち上げ前にそれらに対する許可を行うのだ。そして私たちはここで「許可」という言葉を使ったが、この言葉の大まかな意味は「政府の官僚的巨大泥沼」というものだ。
現在のシステムでは、FCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)から許可を得ることになる。だがこれは奇妙な話だ。「人工衛星」について考えたときに、適切な専門機関としてFCCがまず心の中に浮かぶだろうか。ここでの理屈はこのようなものだ。もし何らかの物体を宇宙に打ち上げることを計画しているのなら、もちろんそれと何らかの通信をすることを計画している筈だ…命令を送信したり、あるいはデータを受信したり…そしてそれにはある無線の周波数の利用が必要で、それを調整しているのがFCCなのだ。ともあれFCCに連絡すれば、「車検」を実施してくれて、許可証を衛星のお尻に貼り付けてくれるというわけだ。
問題は、FCCが現在、衛星に関連するすべてのもののゲートキーパーになり、無線周波数とは関係のない多くの検査項目にまで手を広げていることだ。例えば、FCCは、すべての許可申請者に対して、衛星が地球の大気に再突入するときに、負傷または損害を引き起こさないことを証明することを要求する。そうした計算に、複数の疑わしい前提や曖昧な数学が含まれていたとしても不思議はないだろう。そしておそらくは他の機関(NASAとか?)の方が、こうしたことを上手くチェックできるのではないだろうか。
多くの検査項目の中でも特に、FCCは打ち上げ許可申請者に対して、衛星が宇宙で常に監視下に置かれて他の衛星との衝突の可能性を予見できるように、「追跡可能」であることを証明することを要求する。これこそが、人工衛星製造業者であるSwarm Technologiesがその小さいSpaceBee衛星を、IoT世界のディスラプトを狙って申請を出した際に、FCCから妨害(ディスラプト)された理由なのだ(この2つのディスラプトの違いがおわかりだろうか?)。 それらの衛星はこれまで軌道に乗せられたいかなるものよりも小さい(うらやましいほどのイノベーションだ!)、だがそれ故にFCCはそれらが衛星の追跡に使われる通常のレーダーでは見ることができないと結論付けたのだ。許可は下りなかった。これは混乱を招いている、なぜならより小さな衛星が、これまでも同じ機関によって打ち上げ許可が行われてきたからだ。
スタートアップの行く末
論理的な道筋は、FCCにへつらいながら合法的な許可を懇願することである。これは、巨大な航空宇宙企業が、衛星を10年かけて開発していた過去に行われていたことだ。しかし数ヶ月のうちに小さな衛星を開発するディスラプティブなスタートアップの身になって考えて欲しい。ベンチャーキャピタルからの資金をゼロに向かって一定の勢いで食いつぶしながら、自分自身の宇宙における技術が、次の大金を生み出すことを実証しなければならないのだ。FCCの受付で番号をとって順番を待ち続けていたとしたら、おそらくその結果は、許可証が破産した会社の住所に届くことになることが多いだろう。
こうした見通しに直面すれば、野心的で大胆なスタートアップたちが、限界を押しのけて、許可なしで運用した場合の罰則がどれほど厳しいものかを試してみたくなる誘惑に駆られることは疑いがない(そして実際、その手段がSwarmチームによって実行されたようだ)。現時点では、その行く末がどうなるかは誰にもわからない。最悪の場合、挑戦したスタートアップのビジネス全体を破壊してしまうだろう。だがいつまでかかるかわからないFCCの再審査プロセスのことを思えば、いずれにせよ破産は免れそうにない。
だが興味深い別の選択肢が存在している:企業はその衛星を別の国に輸出し、その国での宇宙許可プロセスを申請するという方法だ。だが言うまでもなく、米国企業が技術をオフショアにしようとする際に直面する連邦規制は、私たちが喜んで取り組みたいものではない。ああそれに、衛星を輸出するための法律はそれはもう面倒くさいもので、それに比べたら打ち上げ許可申請などは国立公園の入場チケットを買う程度の手間だ。
新しい宇宙時代のために壊れたシステムを直す
どのように壊れたシステムを直せばよいだろうか?すぐに国際条約を改正できるとは思えないので、宇宙条約によって定められた内容に規定され続けることを想定することが安全だろう。可能性のある政府による対応の1つは、既存の政策や法律の適用をより厳格にすることであり、違反者には手厳しい罰則が科されるというものだ。だがこうすることで予想される事態は:エキサイティングで新しいアイデアに取り組むスタートアップたちは窮地に追い込まれ、旧来の宇宙巨大産業たちは影響を受けないという結末だ。反対に、政府は厳格な姿勢とは反対を向き、単に軽い罰則を与えるだけで済ませることもできる。だがこのやり方はより多くの危険で極端な規制違反を招くことになり、責任ある宇宙関係者たちにとってただ危険なものへと結びつく可能性がある。
宇宙条約があるために、米国は常に、米国内から打ち上げられる全ての衛星を監視し追跡することが求めらる。FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)によって提案されているコンセプトもある、これは各衛星に無線ビーコンの搭載を必須とするもので、海上の船舶のように自分自身を識別情報を発信させる。これまでのところ、こうしたことはただ議論されているだけで、実行されているものは何もない。そうしている間にも、新しい宇宙違反者たちは、規制の壁を押し続け、旧来の企業たちは礼儀をしらない若造たちの無礼に激怒することになる。混乱を鎮めるための唯一の解は、新しい探求者たちに、自己組織化と自己警察の機能を任せてしまうことなのかもしれない。
いずれにしても、私たちは地球周回衛星だけにとどまることのない、宇宙政策と規制に対する先見的なアプローチを取ることが、強く求められている。もしこの先政府が、広範な商業活動に拡大可能な、包括的宇宙政策の必要性を無視し続けていた場合には、法的に致命的な、市民、商業、あるいは国際的な紛争が宇宙で起きるのは時間の問題だ。
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(翻訳:sako)