45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに

NSO Group(NSOグループ)が開発したスパイウェア「Pegasus(ペガサス)」によって携帯電話がハッキングされたジャーナリスト、活動家、人権擁護者などの既知のターゲットすべてを、初めて研究者がマッピングで表してみせた。

ロンドン大学ゴールドスミス校の人権侵害を調査する学術ユニット「Forensic Architecture(フォレンジック・アーキテクチャー)」は、人権団体から提出された数十の報告書を精査し、オープンソースの調査を実施。数十人の被害者本人にインタビューを行った結果、デバイスの感染状況を含む1000以上のデータを明らかにした。これらのデータは、NSOの顧客である各国政府が行ったデジタル監視と、被害者が実際に受けている脅迫、いやがらせ、暴力との関係やパターンを示している。

研究者たちは、これらのデータを独自のプラットフォームにマッピングすることで、Pegasusを使って被害者をスパイする国家が、そのネットワーク内の他の被害者をターゲットにすることもあり、さらにターゲットとされた人物だけでなく、その家族、友人、同僚も、攻撃、逮捕、偽情報キャンペーンの被害にどれだけ巻き込まれているかを示すことができた。

1000件を超えるデータは、各国政府によるPegasusの使用状況の一部に過ぎないが、このプロジェクトが目的としているのは、スパイウェアメーカーのNSOが極力表に出さないようにしている同社の世界的な活動に関するデータとツールを、研究者や調査員に提供することである。

イスラエルに拠点を置くNSOグループが開発したスパイウェアのPegasusは、その顧客である政府機関が被監視者の端末に、個人情報や位置情報を含めてほぼ自由にアクセスできるようにするものだ。NSOグループは、これまで何度も顧客名の公表を拒否してきたが、少なくとも45カ国で政府機関と契約を結んでいると報じられている。その中には、ルワンダ、イスラエル、バーレーン、サウジアラビア、メキシコ、アラブ首長国連邦など、人権侵害が指摘されている国の他、スペインなどの西欧諸国も含まれている。

今回の調査を担当したForensic Architectureの研究員であるShourideh Molavi(ショウリデ・モラビ)氏は「私たちの住むデジタル領域が、人権侵害の新たなフロンティアとなっており、そこで行われる国家による監視と脅迫が、現実空間における物理的な暴力を引き起こしていることが、調査結果から明らかになりました」と述べている。

このプラットフォームでは、政府の最も率直な批判者を標的としたキャンペーンから、どのようにして被害者がスパイウェアと物理的暴力の両方の標的となったかを、視覚的なタイムラインで示している。

モントリオールに亡命中のサウジアラビア人ビデオブロガーで活動家のOmar Abdulaziz(オマル・アブドゥルアジズ)氏は、2018年にマルウェアのPegasusによって自分のスマートフォンをハッキングされた。それはサウジの使者がアブドゥルアジズ氏に王国に戻るよう説得した直後のことだった。その数週間後、サウジアラビアに住む彼の兄弟2人が逮捕され、彼の友人たちも拘束された。

アブドゥルアジズ氏は、サウジアラビアの事実上の支配者であるMohammed bin Salman(ムハンマド・ビン・サルマン)皇太子が殺害を承認したWashington Post(ワシントン・ポスト紙)のジャーナリストでありJamal Khashoggi(ジャマル・カショギ)氏の親友であり、彼のTwitter(ツイッター)アカウントに関する情報も「国家が支援する」実行者に盗まれた。後にその犯人は、Twitterに勤務していたサウジアラビアのスパイであることが判明した。Yahoo! News(ヤフー・ニュース)が先週報じたところによると、この盗まれたデータには、アブドゥルアジズ氏の電話番号も含まれており、それを利用してサウジアラビアは彼の携帯電話に侵入し、カショギ氏とのメッセージをリアルタイムで読み取っていたという。

オマル・アブドゥルアジズ氏は、国家によるデジタル監視の被害者として知られる数十人のうちの1人だ。青色の点はデジタル的な侵入を、赤色の点は嫌がらせや暴力などの物理的な出来事を示す。(画像クレジット:Forensic Architecture)

メキシコ人ジャーナリストのCarmen Aristegui(カルメン・アリステギ)氏も、被害者として知られる1人で、2015年から2016年にかけて、メキシコである可能性が高いPegasusの顧客政府によって、携帯電話が何度もハッキングされていた。トロント大学のCitizen Lab(シチズン・ラボ)によると、彼女の息子で当時未成年だったEmilio(エミリオ)氏も、米国に住んでいる間に携帯電話が狙われていたという。アリステギ氏とその息子、そして彼女の同僚に対するデジタル侵入の時系列を見ると、彼女らがメキシコのEnrique Peña Nieto(エンリケ・ペーニャ・ニエト)大統領(当時)の汚職を暴露した後、ハッキング活動が激化したことがわかる。

「このマルウェアは、カメラやマイクなど、私たちの生活と不可分な機器を作動させることができます」と、このプロジェクトに協力したジャーナリストで映画監督の Laura Poitras(ローラ・ポイトラス)氏によるインタビューで、アリステギ氏は述べている。携帯電話を狙われた息子について、アリステギ氏は次のように語った。「ただ学校に通うだけの生活をしている子どもが狙われるということは、国家がいかに我々が対抗し得ない侵害を行うことができるかを物語っています」。なお、NSOは米国内の携帯電話を標的にしていないと繰り返し主張しているが、Pegasusと同様のPhantom(ファントム)と呼ばれる技術を、米国の子会社であるWestbridge Technologies(ウェストブリッジ・テクノロジーズ)を通じて提供している。

「国家が、あるいは誰かが、このような『デジタル暴力』のシステムを使うことで、ジャーナリズムの責務に途方も無いダメージを与えることができます」と、アリステギ氏はいう。「結局はそれがジャーナリストに大きな痛手を与え、社会が情報を維持する権利に影響を及ぼすことになるのです」。

タイムラインは、カルメン・アリステギ氏とその家族、同僚がデジタルで狙われた時(青)と、オフィスへの侵入、脅迫、デマ情報キャンペーン(赤)の発生が絡み合っていることを示している。(画像クレジット:Forensic Architecture)

このプラットフォームは、NSOグループの企業構造に関するAmnesty International(アムネスティ・インターナショナル)による最近の調査結果にも基づいている。この調査では、NSOのスパイウェアが、その顧客や活動を隠すために、複雑な企業ネットワークを利用して、国家や政府に拡散していったことを明らかにした。Forensic Architectureのプラットフォームは、2015年にNSOが設立されて以来の民間投資の痕跡を追っている。このような民間資本が、イスラエルの輸出規制によって、通常は制限されているはずの政府へのスパイウェアの販売を、NSOに「可能にさせた可能性がある」という。

NSOグループのスパイウェアであるPegasusは、イスラエルの軍産複合体による他の製品と同様、現在進行中のイスラエルによる占領下で開発された武器として考え、取り扱う必要がある。Forensic ArchitectureのディレクターであるEyal Weizman(エヤル・ワイツマン)氏は「世界中で人権侵害を可能にするために輸出されているのを見ると失望します」と語っている。

このプラットフォームが起ち上げられたのは、NSOが先週、最初のいわゆる透明性報告書を発表した直後のことだった。この報告書は、人権擁護団体や安全保障研究者から、意味のある詳細が何もないと批判されていた。アムネスティ・インターナショナルは、この報告書は「営業用パンフレットのようだ」と述べている。

NSOグループは声明の中で、実際に見ていない研究についてはコメントできないとしながらも「不正使用についての信憑性のある申し立てはすべて調査し、NSOは調査結果に基づいて適切な措置を取る」と主張している。

NSOグループは、同社の技術を「米国内でのサイバー監視に使用することはできないし、これまで米国の電話番号を持つ電話機にアクセスできる技術を与えられた顧客はいない」と主張し、政府系顧客の名前を明かすことは拒否した。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:スパイウェアNSO Groupハッキング人権暴力個人情報プライバシー

画像クレジット:Forensic Architecture / supplied

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)