イスラエルのBeresheetは月面への降下中に消息を絶つ

イスラエルのSpaceILは、あともう少しで歴史を作るところだったが、米国時間4月11日、Beresheet宇宙船は月面に着陸する寸前、下降中に失敗を喫することになってしまった。イスラエルは、制御された月面着陸を成功させた4番目の国になるチャンスを逃したことになる。しかし、全行程の99パーセントまで到達したことは、民間による宇宙飛行としては並外れた成果と言えるだろう。

Beresheet(Genesis)は、この2月にSpaceXのFalcon 9ロケットの第2ペイロードとして打ち上げられ、螺旋状に軌道を拡げながら1カ月半後に月の周回軌道に入った。これは先週のことだ。今回の最終的な操作は、エンジンの噴射によって月面に対する相対速度を落とし、さらにブレーキをかけて「晴れの海」に軟着陸するというものだった。

すべては最後の瞬間の直前まで完璧に動いていた。宇宙空間ではよくある状況だ。意図した降下開始点に寸分違わずに到達した宇宙船は、すべてのシステムの準備が整っていることを確認し、予定通りの着陸プロセスを開始した。

一瞬テレメトリを失ったので、宇宙船をリセットしてメインエンジンをオンラインに戻す必要が生じた。そして、月面からわずか数キロメートルの地点で、通信は途絶えてしまった。上の「自撮り」写真は、月面から22km上空で、そのわずか数分前に撮影されたもの。そのすぐ後で、宇宙船は消息を絶ったと発表された。

まったくがっかりな結末だが、ワクワクさせてくれるものだった。チームはすぐに落ち着きを取り戻し、「あそこまで到達できたということだけでも絶大な功績であり、誇ってよいことだと思います」と述べている。そして「1回目に失敗したら、何度も挑戦するだけです」と。

このプロジェクトは、10年以上前に発表されたGoogleのLunar Xprizeに応募するものとして始まったのだが、その後このチームが指定された期間内に挑むのは難しすぎることが判明していた。競技の継続とその賞金は諦めざるを得なかったが、イスラエルのSpaceILチームは仕事を続けていた。幸い、航空機産業を統括する国営のIsrael Aerospace Industriesによるサポートを受けることもできた。

Beresheetは、このように政府からかなりの支援を受けていたのは確かだが、一般的な政府主導の大規模なミッションに比べれば、どこからどう見ても「私的な」ミッションであると言って間違いない。チームのメンバーは50人以下で、予算も2億ドル(約220億円)というのは、月着陸に限らず、実際にどんな重大なミッションと比べても、一笑に付されるほどの規模でしかない。

私は、着陸動作に入る前に、Xprizeの創立者兼CEOのPeter Diamandis、Anousheh Ansariの両氏に話を聞いてみた。いずれも非常に興奮していて、このミッションはすでに大成功したものと考えられることを表明していた。

(参考記事日本語版:民間初の月面探査機が木曜夜に打ち上げへ

「ここにいるのは、この奇跡が起こるところをひと目見ようと集まってきた、科学、教育、そして政府関係者の錚々たる面々です」と、Diamandis氏は述べた。「私たちは、今から11年前にこの競技を始め、エンジニアを鼓舞し、教育しました。時間切れになったとは言え、このプロジェクトは目標の100%を達成しました。たとえ完全に無傷で着陸できなかったとしても、すでにかなりの熱狂と興奮を巻き起こしました。15年前のAnsari Xprizeを思い出させるものです」。

こう考えているのは彼だけではない。自身の名前を冠した有名な宇宙飛行Xprizeに資金を提供し、最初のツアーとしての国際宇宙ステーション上空の宇宙飛行を経験したAnsari氏も、共感を示している。

「これは驚くべき瞬間です。とてもたくさんのすばらしい思い出を蘇らせてくれます」と、彼女は私に語った。「私たちがみんなMojaveに赴いて、Spaceship Oneの打ち上げを待っていた時のことを思い出します」。

Ansari氏は、着陸が人類の進歩のように感じられるものであることを力説した。

「過去50年間で、全人類70億人のうちたった500人しか宇宙に行っていないのです。その数は近いうちに数千人にもなるでしょう」と、彼女は言う。「私たちは、この技術分野にはできることがもっとたくさんあると信じています。文明だけでなく人類にも利益をもたらす、本当のビジネスチャンスがまだまだあるのです」。

SpaceILチームが成し遂げたことを祝福したい。そして、次の挑戦では、きっとうまく着陸できることを願っている。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

もうすぐ月面に着陸するイスラエルのBeresheet

Beresheetは、イスラエルの私的資金で開発され、打ち上げられたミッションで、月面着陸を目指している。今回、1ヶ月半におよぶ飛行の末、月の周回軌道に入ることに成功した。機体は現在、4月11日の着陸に備えて、軌道を調整しているところだ。

この宇宙船は、去る2月21日に、SpaceXのFalcon 9によって打ち上げられた。その後地球の軌道を回りながら、月に向けて加速した。この機体を制作したSpaceILのエンジニアは、その正確な仕事を証明して見せた。Beresheetが最後の噴射を終えて月の楕円軌道に入ったのは、打ち上げ前に予想されていた時刻と9分とずれていなかったのだ。これは、まさにロケットサイエンスのなせる技だ!

この計画の次のステップは、連続的にエンジンを噴射しながら、徐々に月の周回軌道を小さくしていくこと。それがある地点まで達したら、最終的なエンジンの噴射により、月面に向けて降下する。

「月に到達したことは、それ自体歴史的なイベントです。それと同時に、月の周回軌道に入ることのできた7カ国の仲間に、イスラエルも加わることを意味します」と、SpaceILのMorris Kahn氏は声明の中で述べている。「今日から1週間後に、月面着陸という、さらに大きな歴史を作ります。それは、これまでに3つの超大国しか成し得なかったことです」。

ここで言う超大国とは、もちろんアメリカ、ロシア、そして中国のこと。しかも中国は、今年のはじめに月の裏側(「影」の部分ではない)に着陸している。

しかしBeresheetは、月面に軟着陸する最初のプライベートな事業となるはずだ。さらに、単に私的に計画され、資金が集められただけでなく、その開発と打ち上げも、民間企業によって成し遂げられた。これは地球規模の宇宙開発コミュニティの威力を示すもの。費用も1億ドル(約110億円)未満で、非常に安価だ。

すべてがうまくいくと仮定すると、着陸船はMare Serenitatis、つまり「晴れの海」に着陸し、数日間、周辺を探査する。いくらかの実験装置を積んではいるが、着陸船はその後まもなく動作を停止する。着陸後の動作は、それほど重要ではなく、長期的なものでもない。

つまりこのミッションでは、科学は二次的な目標に過ぎないのだ。Beresheetの打ち上げは、まず第1に国家の威信と、イスラエルの宇宙開発コミュニティの発展のため。そしてその目的のためには、すでに成功を収めたことになる。着陸船は、もうすぐ月面に向かって降下を始める。お楽しみに。

画像クレジット:SpaceIL

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(翻訳:Fumihiko Shibata)