日米中の3拠点を持つ国際的なベンチャーキャピタルのDCMの共同創業者であるDavid Chao(デビッド・チャオ)氏は、英語、日本語、および北京語を話す人物だ。それだけでなく、彼は創業者たちと話す術も知っている。
それには大きな価値がある。DCMがクラウドベースのB2B決済企業のBill.comに、ラウンドAから14年間にわたって投資した2640万ドル(約28億円)が、10億ドル(約1062億円)以上になっていることを考えて欲しい。実際、Bill.comが2019年12月に株式を1株22ドル(約2336円)で公開したときは、DCMの持ち分(IPOの16%を占めていた)はそれなりに大きな価値を持っていた。
だが公開後、ウォールストリートが示したデジタル決済とサブスクリプションベースの収益モデルの両方に対する期待によって、Bill.comの株価は1株およそ90ドル(約9554円)に上昇した。よってDCMがここ数週間で、その保有株式の約70%を9億ドル(約955億円)で売却したのは不思議なことではない (DCMはまだ元の持ち分の30%を保有している)。
私たちは米国時間9月11日の午前中に、チャオ氏とBill.comについての話を聞いた。チャオ氏はBill.comの取締役会のメンバーであり、またBill.comの創業者のRené Lacerte(ルネ・ラッセ)氏をチャオ氏は以前にも支援したことがある。また、DCMが現在保有している非常に利益率の高いもう1つの株式、DCMの最新ファンド、そして米中2国の関係が悪化するにつれて、チャオが米国と中国の間をどのように行き来するのかについても話を聞いた。以下の会話は、長さを調整し明確さを高めるために簡潔に編集している。
TC(TechCrunch):最初のラウンドの後、Bill.comの株式の約33%を所有していたようですね。その最初の投資はどうして行われたのでしょうか?ラッセ氏に以前投資したことがあったのでしょうか?
DC(デビッド・チャオ氏):そのとおりです。ルネ(ラッセ氏)はかつてPayCycle(ペイサイクル)という名のオンライン支払い企業を立ち上げました。私たちは彼を支援し、同社は2009年にIntuit(イントゥイット)に売却されました。ルネはかなりのお金を手に入れましたし、私たちもリターンを手にしました。そして、彼は次のことを始めたいと思ったときに、「もっと大きな成果を出せることをやりたい。途中で会社を売ったりしたくない。今度は大きな公開会社にしたいんだ」といったのです。
TC:それが彼の野望だったとすると、なぜ彼はPayCycleを売却したのでしょう?
DC:まあ初めてCEOになった起業家が、大企業から数百万ドル(数億円)を手にするチャンスを提示されたら、会社を売る誘惑に駆られるでしょう。それが大きな理由です。実際それは良い価格でしたし。そのときの会社の位置付けから考えても、それは真っ当な価格でした。
Bill.comはこれとは少し違っていました。上場する前に、良い買収提案がありました。公開の直前にも提案を受けた程です。しかし、ルネは「いや、今回はずっとこのまま進みたい」といったのです。そして彼は自分に対して行った約束を果たしました。14年間にわたるサクセスストーリーです。
TC:DCMはここ数週間でほとんどの所有株式を9億ドル(約955億円)で売却なさいましたね。その結果は、DCMの最近のエグジットと比べてどうでしょう?
DC:実際には、素晴らしいことが最近もう1件ありました。私たちは中国のKuaishou(クアイショウ、快手)という会社に投資していました、それは中国ではBytedance(バイトダンス)のTikTok(ティックトック)にとって最大のライバルです。私たちはその会社に総額で4930万ドル(約52億3000万円)を投資しましたが、現在その株式は38億ドル(約4034億円)の価値があります。同社はまだ株式未公開ですが、私たちは保有株式の約15%を現金化しました、そしてその売却だけで、すでに3000万ドル(約31億8000万円)を手にしています。
TC:持ち株を売却すること、特に会社が上場した後に売却することについては、どうお考えですか?
DC:実際にはケースバイケースです。一般的に、企業が上場したあと、(ポジションを解くまでに)およそ18カ月から3年の時間を要します。2019年に日本では、2つの大きなIPOがありました。1つの会社は時価総額10億ドル(約1062億円)でしたし、もう1つは20億ドル(約2123億円)でした。12カ月株式を持ち続けることもあれば、4〜5年間ある程度の株式を持ち続けることもあります。
TC:日本で新しく公開されたのはどのような種類のビジネスを行っている企業でしょう?
DC:どちらもB2Bです。1つは、ほぼ日本版Bill.comです。もう1つは連絡先管理ソフトウェアです。
TC:7月に米国で公開された(Bloomberg記事)LGBTQの出会い系アプリBluedにも、DCMは投資していませんでしたか?
DC:はい、物議を醸したアプリのため、私たちの投資額はそれほど大きくありませんでしたが、おそらく私たちは最初に参加した大手VCでした。
TC:この夏、新たに8億8000万ドル(約934億2000万ドル)のアーリーステージファンドを組成なさいましたよね。
DC:はい、そのとおりです。これは主に、私たちのファンドの多くが好調だったという事実に後押しされたからです。現在、ファンド9にとりかかっていますが、ファンド7は本日、額面上9倍となりBill.comを含むファンド4も3倍以上になっています。ファンド5も同様です。ということで、私たちは順調です。
TC:国際ファンドとして、米国と中国の間の緊張の高まりはあなたのチームにとってどのような意味を持つでしょう、そしてそれはどのように影響しますか?
DC:それは大きな影響ではありません。例えば、現在、半導体企業に投資しているなら、(米国は)外国の資金源からのすべての資金を制限しているため、かなり厳しい時期になると思います。少なくとも、厳しい監視を受けることになります。また、中国の半導体企業に投資した場合、米国では上場できない可能性があります。
しかし、私たちが扱っている業種は主にB2BとB2Cですが、よりソフトウェアとサービスに寄ったもので、それほど大きな影響は受けません。中国における取引の90%は中国内市場に焦点を当てているものです。ですから、私たちにはそれほど影響はないのです。
欧米の投資機関の中には、中国市場に資金を投入しているところがあると思います。それは減少しているかもしれません。あるいは、少なくともやや傍観モードに移行して、中国への投資を続けるべきかどうかを模索していることでしょう。そしておそらく中国の企業については、今後米国などで上場する企業は少なくなるでしょう。しかし、こうした企業の中には、香港で上場できる会社もあります。
TC:米国政府の政策についてどう感じていますか?彼らの振る舞いは理解できますか?不満は感じていますか?
DC:私は忍耐を求められていると思います。なぜなら(発表されて)ニュースになるものと、実際には何が施行され産業界にどのような影響を与えるのかの間に、大きなギャップがあるからです。
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画像クレジット:Justin Chin / Getty Images under a Bloomberg license.
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(翻訳:sako)