昔々あるスタートアップがガソリンの缶にコーヒー豆をいっぱい詰めたやつを送ってきた。そのコーヒー豆はプラスチック容器の悪臭がしみついていて使えなかった。缶はかなり小さかったが使う機会もなく最後にはリサイクルに出した。結局のところPR会社がスタートアップに1万ドルを請求して、ぼくやそのほかのブロガー約200名にゴミを送ったのだ。その売り込みは記憶には残ったが、コーヒー豆を送ってきたやつの名前は言いたくないし、そのスタートアップについて記事を書いたこともない。
このことの教訓は、贈り物でブロガーの心を動かすことはできない、ということだ。ペンシルベニア州立大学の広報宣伝の准教授Marcia DiStasoも、そのことを証明している。彼女は約200名のブロガーとビデオのレビュワーについて研究し、その際、彼らにレビュー行為に関する基本的な質問をした。
企業からレビューに対する報酬をもらったブロガーはそのことを公表すべし、というFCCの規則が出たあと、DiStasoはブロガーたちに、レビューを期待する企業のPR部門から贈り物や現金をもらったらどうするか、と尋ねた。そして彼女が知ったのは、ブロガーが贈り物をもらってポジティブなレビューを書くことはほとんどないことと、PRとブロガーのそのような関係はむしろブロガーをより‘批判的’にすることだった。彼女が質問をしたブロガーの多くがテク系で、そこは贈り物が氾濫している業界だ。ぼくが会ったことのある、あるいは一緒に仕事をしたことのあるブロガー全員が、女性一人も含めて、すべての贈り物を返品していた。イベント会場で出されるフードや飲み物に、手を付けない者もいる。
“もちろん、iPhoneなど最新の製品そのものなら、ブロガーは喜んで受け取るだろうし、それらについて書くでしょう”、とDiStasoは言う。“テクノロジの分野では、それがふつうよね”。
しかし彼女がアンケートしたブロガーたちは異口同音に、“良くない製品についてポジティブなレビューを書いたらライターとしての信用を失うし、ブログの視聴率も下がる”、と語った。そして倫理的なPR企業は得意先企業に、“そんなやり方を勧めない”、と。
ぼくはブログを15年書いているし、レビューもしょっちゅう書いている。うちの地下室には返品を待つ製品の箱が山のようにあり、これから先もこんな箱が送られてくるのか、と考えるとぞっとする。だからぼくは、DiStasoに賛成する。ガラクタが無料でもらえるからブロガーになった人は、ブロガーとして成功しない。企業に対して公平で、PR会社に対して率直に物を言えて、冷静沈着なレビューを書ける人は、長続きするし、楽しいブロガー生活を送れる。そしてスタートアップのための家訓は、ガソリン缶にいっぱいのコーヒー豆のような無駄な物にお金を使わないことだ。ゴミを送るな。