この2、3年ほどで、国内のマーケティング界隈でもよく耳にするようになり、また職種としても増えつつある「カスタマーサクセス」というキーワード。この領域にチャレンジするスタートアップが新たに1社現れたようだ。HiCustomerは4月23日、カスタマーサクセス管理ツール「HiCustomer」のクローズドベータ版を事前登録者向けに提供開始したことを明らかにした。
能動的に顧客を成功に導く「カスタマーサクセス」
プロダクトを紹介する前に、そもそものカスタマーサクセスとは何かについて説明しておきたい。カスタマーサクセスとは、端的に言えばその言葉の通りで「顧客が自分たちの課題を解決し、成功に導く」ということ。具体的にはQ&Aやヘルプの提供、ツールチップの表示、ステップメール、問い合わせのサポートなどなど、プロダクトを改善していくための活動すべてを指すのだと、HiCustomer代表取締役の鈴木大貴氏は語る。
また、カスタマーサクセスとカスタマーサポートというのは同列で語られることが多い。だが従来のカスタマーサポートが顧客からの問い合わせなどがあってはじめて対応する受動的なアプローチであるのに対して、カスタマーサクセスはプロダクトの提供者から顧客に対して積極的に関わっていく能動的なアプローチであるという違いがあるという。
カスタマーサクセスは、サブスクリプションモデルのプロダクトが普及すればするほどに重要性を増しているのだと鈴木氏は続ける。SaaSの普及によってエンタープライズ向け製品の多くはサブスクリプションモデルを採るようになっただけでなく、音楽や動画、読書といった個人向けのネットサービスまでもが、いまではサブスクリプションモデルを採用するようになってきた。
これまでのようにプロダクトを作って売りきる、というモデルであればマーケティングや営業といった行動は、売上に直結する活動であり、売ったあとのカスタマーサポートは極力コストを抑えたいものだった。だがサブスクリプションモデルであれば、基本的に導入までは無料ないしほぼ無料であるケースがほとんど。マーケティングや営業といった行動はあくまで「受注に直結する活動」であり、継続的な利用があってはじめて売上が発生する(LTV:Life Time Valueの最大化が重要になる)。つまり、サブスクリプションモデルにおけるカスタマーサクセスの実現(≒プロダクトの継続利用)というのは「売上に直接繋がる活動」だと言えるのだ。「従来はものを売る、頑張る、売るでお金が入った。だがモノのサービス化が浸透してあらゆる材がサブスクリプションモデルになりつつある。そうなると、カスタマーサクセスはより大事になってくる」(鈴木氏)
カスタマーサクセスを実現するダッシュボードを提供
前段が長くなったが、HiCustomerのクローズドベータ版は、そんなカスタマーサクセスを実現するためのダッシュボード機能を提供するサービスとなる(僕は実際にデモを見たが、現時点でのスクリーンショットは非公開とのこと)。実際このカスタマーサクセスを実現しようにも、これまでであればCRMやBIツール、チャットのログなど様々なプロダクトを組み合わせて顧客の状態を把握し、施策の提案を行う必要があった。それを一元管理するのが狙いだ。
導入企業はまず、自社のプロダクト(もちろんサブスクリプションモデルの製品だ)に最適な顧客のルール設定を行い、HiCustomer上にデータを取り込む必要がある。例えばプロダクトの活動頻度や満足度、利用頻度などの度合を、プロダクトを利用するステージごとに見る、といった具合だ。設定をすれば、顧客ごとにプロダクトとの関係性が「Good」「Normal」「Bad」といったステータスで一覧表示することができる。
これによって、例えば、「サインアップしたばかりだが、利用頻度が低い」という顧客がいれば、導入を支援するメールや電話を送ることができるし、「継続利用しており、かつ滞在時間も長い」という顧客にはオプション機能を割引するオファーを出してアップセルを狙うことができる、といったことが可能になる。「(カスタマーサクセスの)メソッドについてもこれから開発していかないといけないが、ルール設定自体はユーザーが割と簡単にできるようになっている。大規模なデータを扱う場合など、将来的には導入のコンサルティングも考えている」(鈴木氏)。
HiCustomerは3月にティザーサイトを公開したが、現時点で数百社から問い合わせがあり、すでに約20社の導入が決定しているという。クローズドベータ版の料金は無料。今秋には有料の正式版をリリースする予定で、「定額+従量課金」での提供を検討しているという。今後の機能追加に関しては「プロダクトの方向性としては、『カスタマーサクセスマネジメント』から『カスタマーサクセスオートメーション』に取り組んでいきたい。サブスクリプションモデルのユーザーのリテンションやアップセルのためにメールやメッセージの自動化までを実現したい」(鈴木氏)としている。
代表は高専出身、スタートアップ支援やコンサルを経験
プロダクトを提供するHiCustomer社は2017年12月の設立。代表の鈴木氏は仙台電波高専(現・宮城高専)卒業後、医療機器メーカーや人材、SaaSのセールスを経て、スタートアップ投資や大企業の新規事業立ち上げ向けのコンサルティングなどを手がけるアーキタイプに入社(自身の書いているスタートアップの分析をテーマとしたブログに、同社代表取締役の中嶋淳氏が問い合わせたことがきっかけになったのだという)。アーキタイプの投資先スタートアップ支援やコンサルなどを4年経験して2017年12月に退職。同時にHiCustomerを立ち上げた。現在同社には外部資本は入ってない。
「前々職で新規事業立ち上げ責任者を経験したのが社会人になって一番楽しかったこともあって、起業自体はぼんやりと考えていた。そんな中でBtoB領域のSaaSを見てみると、ジャンルごとに国内外の差(プロダクトの種類や数)が激しいのが分かった。 海外の人達はSaaSで生産性が上がっているのに、日本はまだExcelでデータを管理しているといったことに課題を感じた。それがHiCustomer設立の理由だ」(鈴木氏)