Katherine Johnson(キャサリン・ジョンソン)氏。1950~60年代に人類を初めて月に送ろうとしていたNASAにおいて、偏見と戦いながら貢献した数学者が101歳で死去した。ごく最近、彼女と同僚たちの功績を描いた映画 「Hidden Figures(邦題ドリーム)」で有名になったが、ジョンソン氏は最後までひたすら「自分の仕事をしていた」。
ジョンソン氏の物語を知らない人には、Margot Lee Shetterly(マーゴット・リー・シェタリー)氏の本を読むか、映画を見るのが一番だろう。出来事や人物の描写に現実と異なる部分はあるが、三人の主人公を多面的に描いたすばらしい作品だ。NASAも特設の追悼ページを作って数々の歴史的記録や物語を紹介している。
ジョンソン氏と2人の同僚は、半世紀後の現在も白人男性支配が残る業界に乗り込もうとする有色人種の女性として、人種差別と性差別との苦闘を常に強いられていた。ジョンソン氏は、NASAの同僚は親切でプロ意識を持っていたと常に語っていたが、組織的で根深い偏見があらゆる場面で彼女たちを襲った。
映画が公開され称賛を得ると、ジョンソン氏は突如として名声と困惑に見舞われ、有名になることはうれしいが自分は与えられた仕事をしてきただけだと言い続けた。2015年にObama(オバマ)大統領による自由勲章の受章は誰もが待ち望んだ祝福だった。
しかしジョンソン氏は自分だけが大きく取り上げられることを懸念していたのかもしれない。似た環境にいながら必ずしも成功せず人目を引くこともなかった人たちがいたことを、彼女は誰よりもよく知っていただろう。それでも、John Glenn(ジョン・グレン)宇宙飛行士が飛行の前に、機械式コンピューターの計算結果を「the girl(あの子)」、すなわちジョンソン氏が手計算で確認するよう要求したエピソードが示すように、彼女たちの仕事は不可欠であり、かつ表にでなかった。
ジョンソン氏の当時の同僚、Mary Jackson(メアリー・ジャクソン)氏とDorothy Vaughn(ドロシー・ヴォーン)氏をはじめとする女性たちは、人種差別と性差別の時代精神と戦っただけでなく、米国におけるおそらく歴史上最大の業績であるアポロ計画を純粋に手助けするとともに、ほかの産業でも発明や問題提起に力を発揮した。
ジョンソン氏の卓越した才能と人物像はあまりにも長い間知られることがなかった。もし彼女が大衆文化に注目されることがなければ、その功績はごくわずかな歴史家の間にしか知られることはなく、我々にとって大きな損失だった。現代の 「hidden figrures(隠された人物)」は誰で、どこにいるのか? もし目にしたら、我々は見分けることができるのだろうか?
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(翻訳:Nob Takahashi / facebook )