【抄訳】
日本の九州大学の研究グループが、マウスの皮膚の細胞を、卵細胞を使わずに、赤ちゃんマウスにすることに成功した。
その技術は、卵子に精子を受精させる通常の方法ではなく、発生に必要な染色体ペアにより細胞を成長させる方法を使っている。
このような方法の成功はこれが初めてであり、今回も、それほどたくさんのマウスの細胞で‘誕生’が見られたわけではない。Natureに発表された論文には、そう書かれている。
今は話がマウスで済んでいるが、今後はたとえば、年齢的に卵子を生産できない女性が、この技術で自分の“生物学的な”子を作ることも考えられる。ドナーの卵子がなくても、二人の男性が自分たちの子を作ることもできるだろう。
この研究は、2007年のノーベル賞受賞者Shinya Yamanaka(山中伸弥)の、幹細胞に関する研究がベースだ。Yamanakaは、大人の皮膚細胞から多能性幹細胞を作れることを示した。多能性とは、体内で使われているそのほかのどんなタイプの細胞でも作れる、という意味だ。それは、人間の受精卵を破壊しなくてもパーキンソン病などの治療や研究に必要な幹細胞を作り出せるという意味で、画期的な発見だった。
多能性細胞は文字通り多能だから、性を担う細胞も作れるだろう。それを2012年に、当時京都大学にいたKatsuhiko Hayashi(林克彦)が試みた(2014年から九大)。しかしそれは、きわめて困難な研究で、今でもまだ研究者たちは、卵子や精子に似たようなものは作れても、それらが実際に胎児へと発生したことはない。
やがて彼らは、マウスの皮膚細胞から成熟した卵細胞を作れることを発見した。それには条件があり、その皮膚細胞は、マウスの胎児の卵巣または精巣から取られた細胞に包まれて(収容されて)いなければならない。この操作により幹細胞を卵巣や精巣らしきものへと形成できるが、この実験ないし実証を人間の胎児の細胞と人間の皮膚の細胞で行うことは、規制や反対意見のため、現段階では困難である。
そこでHayashiによると彼は現在、胎児の細胞に代わるものとして、何らかの人工的な試材の利用を検討している。
しかし、法律等の規制があるかぎり、この方法でも、簡単に人間を作り出すことはできない。日本の法律は、人工的にないし加工によって作った人間の細胞を受精させることを、研究目的であっても、禁じている。
【中略】
しかし、研究や実験のプロセスそのものも、まだきわめて初期的段階である。この日本の研究では、マウスの皮膚細胞を上記のように加工した胚からの発生成功率がわずか3.5%だった。対して、今日の一般的な体外受精の成功率はほぼ30%、(受精卵の)体外培養の成功率はほぼ40%である。
【後略】