シミュレーションとデータ技術の未来を作る、と称するロンドンのスタートアップImprobableは、3月にAndreessen Horowitzから2000万ドルを調達していた。今日(米国時間11/11)はそのプロダクトSpatial OSが発表されたことによって、その、簡単に定義することの難しい技術の一端が、すこし分かってきたようだ。
ImprobableのCEO Herman Narulaによるその発表の舞台は、ヘルシンキで行われたSlushのイベントだった。Spatial OSは要するに、高度かつ大規模なデータシミュレーションを開発し動かすためのオペレーティングシステムだ。…と言ってもまだ全然分からないだろうから、これから徐々に説明しよう。
いずれにしても、この、‘OS、オペレーティングシステム’を自称するプロダクトの視野はとても大きい。Narulaの説明では、このシステムを使ってゲームのWorlds Adriftのような仮想世界を作ることができ、その環境は地球上の本物の国と同じぐらいの人口と土地面積を擁することができる。そしてそのデータ処理システムが、交通、人口動態、住宅、経済など、その‘国’のあらゆる要素をマップしモデリングできる。
“都市行政、国防、経済、エンタテイメントなど、複雑で大規模なシステムの見方・見せ方を変えて、未来の新しい種類のアプリケーションとビジネスを可能にする”、とImprobableのWebサイトは説明している。
〔要するに大規模データの動態シミュレーションをリアルタイム3D動画で視覚化する、というシステムの開発と稼働を支えるバックエンドプリミティブ集合。OSというより、API/SDK集。〕
Spatial OSには、主要モジュールがいくつかある。たとえば、ゲームエンジンUnityや、すでに広く使われている既存の交通シミュレータなどだ。しかし仮想現実のような消費者製品の場合は、何百万ものユーザにサーブできるほどにスケール可能だ。エンドユーザのシステムは、モバイルやVRのハードウェアでもよい。デベロッパが何を目的デバイスにするか、に応じて適切なSDKと、ブラウザ上のアプリケーション管理システムを利用できる。
いちばん分かりやすい例が仮想現実(VR)なので、SlushのイベントではデモとしてWorlds Adriftが使われた。
Narulaによると、Spatial OSを使えば世界そのものを、そのままの規模で作ることもできるが、もっとすごいのはそれが、本物の世界のように永続することだ。たとえばどこかに一本の木を植えたら、それは老いて枯れ死するまで成長し生き続けるし、どこかの部屋にテーブルを置いたら、誰かがそれを一生使い続けることができる。
しかし仮想現実は、Spatial OSにできることの氷山の一角だ。デベロッパがもっとさまざまな複雑系に目をつけて、企業や社会の新しい意思決定に資していくことを、Narulaは期待している。
今開発中のプロジェクトの中には、ロンドン市そのものを完全にモデリングする、というものがある。交通や人口動態などを、行政目的等のためにシミュレーションできる。そのほか、熱帯雨林のモデリングや、住宅供給計画のための土地利用シミュレーション、経済動向、細胞生物学、などのプロジェクトが提案されている。
NarulaはSpatial OSの紹介を始める前にこう述べた: “これまでのシミュレーションはとても幼稚で素朴だ。それは1970年代ごろのデータ科学をベースにしている。しかしシミュレーションを現代的にスケールすることは、対象をひとつの巨大なサーカスから、奇怪な演物(だしもの)ばかりある何千ものサーカスの集合に切り替えることに似ている”。
ImprobableのSpatial OSは、ビッグデータによるシミュレーションのためのベースシステムだ。すでに数社のパートナーが使用しているが、試してみたいデベロッパはここで申し込むとよい。