「電子記録債権」を活用するFintechベンチャー、Tranzaxが10億円調達――国から指定は国内5社のみ

電子記録債権を活用したサービス開発などを行うTranzaxは7月31日、電通幻冬舎グループ3社などから総額10億円を調達したと発表した。今回を含めた累計調達金額は25億円となる。

この「電子記録債権」という漢字だらけの言葉になじみのないTechCrunch読者もいるかもしれない。電子記録債権とは、手形や売掛債権がもつデメリットを克服するために考案された新しいタイプの金銭債権のことを指す。

従来のデメリットを克服するために生まれた電子記録債権

「いつ、いくらのお金を支払う」という約束を表す“手形”は紙でできている。だから、作成や保管のためのコストもかかるし、紛失や盗難のリスクもある。電子記録債権はこれのデメリットを克服するため、専門機関が管理する電子記録原簿にデータが記録されたときに効力が発生すると定められている。作成や保管にコストはかからないし、システム障害などの懸念はあるが盗難される心配もない。

また、販売したプロダクトやサービスの対価を請求できる権利である“売掛債権”には、二重譲渡リスクなどのリスクが伴う。A社がB社に何かしらを販売した場合、A社はその対価を受け取る売掛債権をもつことになる。A社がその権利をファクタリング会社に譲渡して代わりに現金を受け取ることもできるわけだが、このA社が少し悪さをすれば、もう1つのファクタリング会社に権利を譲渡して二重に現金化することも可能だ。

なぜこれが可能かというと、手形とは違って実体のない売掛債権は、“譲渡する”といっても何か実際のモノを渡すわけではない。代わりに、債権を譲渡する場合にはその存在や帰属を登記に記録することになっている。もちろん、大抵のファクタリング会社は事前に登記を調べはするが、それには手間とコストがかかる。これが思わぬトラブルが発生する原因にもなりかねない。

その一方の電子記録債権では、電子的な方法で債権の存在・帰属を可視化して参照することができる。手続きの手間やコストを抑え、トラブルの発生も減らすことができるという考え方だ。

電子記録債権を活用したFintechサービス

そして、本日資金調達を発表したTranzaxは、この電子記録債権の記録原簿を管理する「電子債権記録機関(漢字がまた2文字増えた!)」として国から指定を受けている。現在、電子債権記録機関として指定を受けているのは国内5社のみだ(正式には、指定を受けているのは100%子会社のDensaiサービス)。

FintechベンチャーのTranzaxは、電子記録債権のファクタリング・サービスである「サプライチェーン・ファイナンス」、そしてサービスやプロダクトを受注した時点で債権を現金化することを可能にする「POファイナンス」をソリューションとして提供している。

サプライチェーン・ファイナンスを導入するメリット

Tranzaxは今回調達した資金を利用して、サプライチェーン・ファイナンスの営業強化、およびPOファイナンスのサービス開発を行うとしている。

しかし、これらのサービスが拡大するためには、そもそも電子記録債権が十分に普及することが前提になるだろう。その点、電子記録債権機関の1つである電子債権ネットワークがまとめた統計データによれば、電子記録債権の発生金額は、黎明期の2012年は約86億円だったのに対し、2015年は約8兆円、つづく2016年には12兆円と急速に拡大している。