シードラウンドで5000万ドル(約54億円)を調達できるスタートアップはあまりない。Vianai(ヴィアナイ)は、Infosysのマネージングディレクター兼SAPエグゼクティブだったVishal Sikka(ビシャール・シッカ)氏が立ち上げたスタートアップだ。潤沢な資金と独自のビジョンで機械学習技術の変革を目指す。
今週、Oracle Open Worldで同社はカミングアウトパーティーを開催し、シッカ氏は基調講演で製品のデモを披露した。Infosysを辞めた後の2年間、シッカ氏はAIと機械学習が社会へ与えるインパクトとその実現方法について考えた。AIを取り巻く状況に彼は不満を持っていた。
シッカ氏は1996年にスタンフォード大学からAIの専門分野で博士号を取得しており、AIは未知の領域ではない。当時と比べて変わったのは計算能力の増大とデータ量の増加で、その二つによってAIがビジネスで利用される現在のブームが起きたと彼は言う。企業によるAIと機械学習の導入事例を調べていくと、多くのツールが必要以上に複雑であることが分かった。
コードでぎっしりつまったJupyter Notebookが眼の前にあった。典型的な機械学習モデルからコードをすべて削除すると、モデルの基礎となる一連の数式が浮かび上がってきた。シッカ氏のビジョンは、もっと数学的な視点からモデルを構築するとともに、高度に視覚的なデータサイエンスプラットフォームを一から構築するというものだった。
同社は昨年1年間かけて、新しいソリューションを生み出すべく試行錯誤を繰り返した。念頭に置いたのは探索可能性と説明可能性の2つの基本原則で、データとその分析結果の表示との連携がポイントになる。現在世の中にあるどのモデル構築ツールよりもユーザーが早く目標を達成できるようにその連携をデザインする。
「目指すシステムは、ユーザーが行っていることに正しく反応し、完全に探索可能であると同時に、システムの中で何が起こっているのかを開発者が極めて簡単に検証できるものだ。説明可能性を備えるということは、データとモデルを行き来できることを意味し、データに潜んでいる意味のある何かをモデルを通して理解することだ」とシッカ氏はTechCrunchに語った。
シッカ氏が想定するツールはデータサイエンティストだけが使うのではなく、ビジネスユーザーとデータサイエンティストが共に試行錯誤して答えを探すために使うものだ。求める答えは、例えば顧客の解約率を減らす方法や不正を発見する方法だ。純粋なデータサイエンスだけの世界から使えるモデルは生まれない。モデルはビジネスの成功のためにある。AIを使って企業が成功するために、シッカ氏が必要だと考える唯一の方法は、ビジネスユーザーとデータサイエンティストの両方が膝を突き合わせながらソフトウェアを使って問題を解決することであり、互いの専門知識を生かすことが欠かせない。
これはシッカ氏にとって、解決すべき問題を正しく定義することを意味する。「AIは問題を解決するためにあるが、その前に人間がすべき仕事がある。ビジネスにとって重要性があり、また組織にとって価値のある問題を見分け、明確にすることだ」。
シッカ氏のビジョンは明快だ。人間をAIに置き換えるつもりはないが、AIを使用して人間の知能を高め、人間が直面する問題を解決したい。Vianaiの製品は自動機械学習(AutoML)ではないとシッカ氏は断った。「データサイエンティストの実務を自動化したいわけではない。データサイエンティストの能力を高めたいのだ」。
今回の大型シードラウンドに至ったのは、ビジョンの実現には多額の資金が必要で、しかも前もって調達すべきとシッカ氏が考えていたからだ。調達には自身の評判とコネクションを利用する考えだった。資金を調達してしまえば自分は製品と会社に集中できる。幸運にも彼のビジョンを信じる投資家がいた。初期の事業計画が現実という試練をくぐり抜けることはないにも関わらずだ。シッカ氏は投資家の名前は公表せず、友人や裕福な有名人、機関投資家とだけ言及するにとどめた。Vianaiの広報担当者は、現時点では投資家のリストを公開していないと重ねて断った。
今やVianaiには新しい製品と十分な資金があり、収益性向上の準備は整った。シッカ氏は、究極の目標は収益性であると言う。彼には大規模な組織を経営することもできたが、多くのスタートアップの創業者のように、問題を見つけ、また解決するアイデアもあったため、挑戦せずにはいられなかったようだ。
画像クレジット:iMrSquid / Getty Images
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(翻訳:Mizoguchi)