「自分たちも時に迷いながら、苦しい時期も乗り越えて事業を成長させてきた。培ってきたノウハウはもちろん、生々しい失敗体験こそ有益だと思うので、全面的にシェアしていきたい。スタートアップのタフタイムに寄り添える存在になれれば」ーー そう話すのはUB Ventures代表取締役社長の岩澤脩氏だ。
日本でも大きくなったスタートアップが業界の活性化や次世代のスタートアップを支援する目的で、出資やノウハウ提供に取り組む事例が少しずつ増えてきている。
たとえば2018年1月にはTechCrunchでもWantedly AI/Robot Fundやマネーフォワードファンドを紹介した(双方とも子会社設立やファンドの組成を伴わない、本体からの出資プロジェクト)。両社はともに2017年にマザーズへ上場を果たしたスタートアップだ。
UB Venturesの場合は2016年にマザーズへ上場したユーザベースが新たに立ち上げた、VC事業を行う子会社という位置付け。同社は本日6月29日より本格的に始動している。
デジタルメディアやB2B SaaS領域の経験を次のスタートアップへ
事業会社がVC部門(CVC : コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げる場合、本体とのシナジーを重視して投資先を選定するケースも多い。一方でUB Venturesはあくまで自分たちの経験をシェアしてスタートアップを支援し、キャピタルゲインを出していく方針。その意味で「CVCではなく、純然たるVC。シナジーありきではない」(岩澤氏)という。
ユーザベース自身も2008年の設立以降、経済情報の検索プラットフォーム「SPEEDA」と経済情報メディア「NewsPicks」を軸に、VCや事業会社など複数の投資家から資金調達をしながら成長してきた。
冒頭でも触れたとおり、自分たちが実際に事業をやっている事業家という立場から次世代の起業家を支援する意義があると考え、VC事業の立ち上げに至ったのだという。そのため投資の対象となるのはユーザベースが培ってきたノウハウを提供できる「経済メディア・ディスラプター領域」と「ワークスタイル・イノベーター(B2B SaaS)領域」のスタートアップだ。
「具体的にはサブスクリプションプラットフォーム、良質なコンテンツ、熱っぽいコミュニティという3つの軸で、発展していくスタートアップに投資をしたいと考えている。自分たちがきちんと目利きできる、支援できる領域に特化していきたい」(岩澤氏)
デジタルメディアにしろ、B2B SaaSにしろ業界自体が伸びていて、変化も激しい。メディアで言えば特にアメリカ。分散型メディアがトレンドになったと思いきや、「The Information」や「TheSkimm」のように、バーティカルなコンテンツを配信する課金モデルのメディアが改めて注目を集めている。
B2B SaaSについては、近年日本のスタートアップ界隈でも特に盛り上がっている領域のひとつと言えるだろう。TechCrunchでもいわゆるバーティカルSaaSと呼ばれる、特定の業界に特化したSaaSをいくつも紹介している。
双方の領域において海外展開なども含め前線で事業を運営し続けてきたユーザベースの知見を提供してもらえるというのは、スタートアップにとっては魅力的な話だろう。
心から解決したい課題に取り組む起業家を応援したい
UB VenturesはもともとSPEEDAのアジア責任者をしていた岩澤氏のほか、ユーザベースのチーフテクノロジストである竹内秀行氏、元リクルートホールディングス新規事業開発室長で現在は起業家としても活動している麻生要一氏の3人体制でスタートする。
現時点で出資枠については未定。1社あたりの出資額も特に上限等を決めていないが、メインはシード・アーリーステージのスタートアップだ。ユーザベースが初期から海外展開に力を入れていたこともあり、海外展開を見据える企業には積極的に投資をしたいという。
すでに最初の投資案件として予算管理SaaSの「DIGGLE」へ出資しているそうだ(なおDIGGLEはTC Tokyo 2016のスタートアップバトルのファイナリスト。2018年2月にタシナレッジから社名変更している)。
投資領域はあれど、「1番は鮮明な原体験があって、心から解決したい課題にチャレンジしているかどうか。仕組み先行ではなく自分自身がひずみを感じていて、手触りがあるななかで事業に取り組んでいる起業家を全力で応援したい」と話す岩澤氏。
テーマは事業家として、事業の前線で走りながらスタートアップに伴走していくことだ。
「同じスタートアップとして、起業家が抱える悩みや課題について同じ目線からサポートできるのが特徴だと思っている。自分たちが見てきた景色やリアルな経験を徹底的にシェアしていきたい」(岩澤氏)