2016年11月17~18日に開催されたイベント「TechCrunch Tokyo 2016」。初日のセッションには、AnyPay代表取締役の木村新司氏が登壇した。オンライン決済サービスを開発するAnyPayは2016年6月の設立。9月にはサービスを正式ローンチした。モデレーターはTechCrunch Japan編集部 副編集長の岩本有平が務めた。
木村氏と言えば、これまでに数回のイグジットを経験している連続起業家であり、個人投資家としても約20社に投資をする人物。そんな同氏がなぜ多くのプレイヤーが存在する決済の領域で起業をしたのだろうか。
シンガポールで感じた日本の決済の課題
木村氏が決済に挑戦することを決めたのは2つの理由がある。1つは、2014年から木村氏が拠点を移しているシンガポールで、日本と異なる決済事情を見たことだ。シンガポールの生活では、当たり前のようにオンライン決済サービスが利用できる。移動にはUberやタクシーを利用し、ランチにはfodpanda、Deliveroo、UberEATSなどのデリバリーサービスを利用している。また普段の買い物にはRed MartやLAZADAなどのショッピングサービスを使っているのだが、それらすべてのサービスで、Apple PayかPayPalでの支払いができる。その際、わざわざ新たにアカウントを作成する必要すらないのだ。「日本ではようやくApple Payが始まりましたが、ずっと海外とのギャップを感じていました。これが立ち上げの1つ目の理由です」(木村氏)
また2つ目の理由として、「Webでもお金を払えることを知った人が増えたこと」を挙げる。メルカリやラクマなどのフリマアプリの流行を契機として、都心はもちろん、地方のユーザーすらも、「ウェブでお金を払う」という体験をし始めた。これによって、お金を払うことが簡単にできることに気づいた人が多いと感じる一方で、サービスの外では個人間のお金のやり取りができないことに疑問を感じていたという。「個人間のお金のやり取りがもっとできてもいいと思うんです。それができないのはおかしいなと思って。今やったほうがいいと考えるようになりました」(木村氏)
「個人と個人の間での決済が重要である理由」
ウェブでお金を支払う体験に抵抗がない人が増えたと言っても、決済市場にはすでに多くのプレーヤーがいる。国内ではコイニーの「Coineyペイジ」やBASEの「PAY.JP」がスターとアップとして先行しているほか、海外でもでも先ほど例にも挙げたApple PayやPayPal、木村氏が度々口にするPayPal傘下の「Venmo」などがある。
木村氏はそれぞれのサービスにはそれぞれのポジショニングがあるとした上で、AnyPayは「近くにいる個人間の決済にポジション」を取ることを意識していると語る。
「これまでのサービスは、個人間決済と言っても、遠くの人と遠くの人のための決済が多い。我々は近くの人同士でも使える、現金でやりとりされているものを置き換えることが目的」「コミュニケーションはスマホでオンラインになったのに、お金はオンラインではやりとりができない。本来お金とコミュニケーションとは密接な関係がある。例えば買い物や食事、友達との金銭の授受もコミュニケーションと繋がっている。そんなコミュニケーションの中でも使えるようにしたい」(木村氏)とのことで、あくまでもCtoCを中心とした個人間、しかも日常生活で触れあえる距離にいる友人や家族のような、小さいコミュニティで利用されるサービスを目指していることを強調した。
AnyPayはバイラルで成長、「サービスの決済」が中心
AnyPayのローンチ後の展開に話が移ると、順調に成長を遂げていると語る。「滑り出しは好調で、最初の想定を超えた数値を出しています。決済ビジネスは小さい顧客獲得が重要なので、広告費を出してユーザーを獲得し続けるようなものではなく、バイラルで獲得していくものです。バイラルでの獲得が順調なので、安心しています」(木村氏)
さらに、AnyPayの現在の利用方法、用途についてもこう語る。「現在は物販、サービス、チケットという形で利用方法を提示していますが、これまで個人の決済システムが持てなかったこともあって、『サービス』での利用が大きいです。例えば個人で英会話教室を受けていて、料金を支払いたいのに現金がない。そんなときにATMでお金を下ろす必要もなく、決済をすることができるのです」とし、サービスでの決済利用が多いことを紹介した。
今後は利用方法として多いものに注目して、ユーザーが利用しやすい「目的」を作っていくという。今後の利用方法を見て、多く利用されている、課題の大きい問題を切り出していくとのことだ。
「paymoはユーザーの目的をサポートする決済アプリ」
また木村氏は今回のセッションで「paymo(ペイモ)」という新サービスを立ち上げることを発表した。「AnyPay」はブラウザで利用可能なオンライン決済サービスだが、paymoはアプリサービス。決済のみにフォーカスをして開発を行っているAnyPayと比べて、「個人で使えるシチュエーション・目的」を明確にし、無意識に利用しやすいサービスにすると語る。
paymoでは、個人間のお金のやり取りを、サービスECの切り口を通して簡単にしていくという。例えば、「ココナラ」や「TimeTicket」ではサービスを“チケット”として扱っているように、売るものをわかりやすくする)しかし、あくまでも決済が軸になるという点は変わらない。「paymoはメディアではなく、決済サービスです。なので、ユーザーはサービスの中で出会うのではなく、いつものコミュニケーション、いつもの出会い、そこで必要となる決済をpaymoで行うというモデルです。サービス内で出会いを求めるメディアとはそこが違います」(木村氏)
なおAnyPayでは、1月19日にpaymoの詳細をあきらかにするとしている。
「個人が無駄に信用を消費する社会をなくす」
今後は国内でのサービス展開はもちろん、海外の展開も視野に入れているというが「まずは東南アジアが中心」だという。さらに、個人間決済に未来については「やはり、個人でお金を送れるようにしたい。個人同士でお金のやり取りをするとき、オフラインの繋がりでも、オンラインで支払うことが出来る世界を目指す」と語った。加えて、日本ではあまり普及していないデビットカードとスマートフォンの連携についても視野に入れていると語った。
AnyPayはプレーヤーの多い決済市場で、独自のポジショニングを築き上げ、日本の決済を変えることはできるのか。同社は2017年には社員数100人、月間流通額は400億円を目指す。