2021年7月で創業10年目に突入するfreee。6月22日には新戦略発表会を開催し、新しいビジョン「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」を発表。またロゴを変更し、最高限度額3000万円のビジネス向けクレジットカード「freeeカード Unlimited」も発表し、話題となった。この節目に際して同社CEOの佐々木大輔氏は何を考えているのか?創業から現在までを振り返りつつ、今後の展望について話を聞いた。
「会計にクラウドはいらない」と言われた10年前
「私は2012年に自宅の居間で創業しました。それから9カ月ほど2人のメンバーとプロダクト開発をしていたのですが、めちゃめちゃ辛かったですね」と佐々木氏は苦しげに振り返る。
freeeが最初にリリースしたプロダクトは「クラウド会計ソフトfreee」。会計士など、ユーザーになりそうな人たちに意見を求めながら開発を進めた。しかし、反応は散々なものだった。
当時、会計作業のやり方は30年近く変わっていなかった。そのため、会計士に話を聞きに行っても「30年間このやり方だからこれから変わることもない」「ずっとこのやり方でやってきたから、新しいプロダクトを出されるとむしろ困る」「クラウド化する必要なんてない」といった厳しい言葉を投げつけられたという。
佐々木氏は「リーンスタートアップの手法でいえば、ピボットすべき時期でした。開発しながら『こんなもの誰が欲しがるんだ』なんて自問したこともありました。スタンダードな開発手法では『そういう時こそユーザーの意見を聞け』という話になりがちですが、私たちは違いました。専門家の意見を聞くのを止めて、自分たちが信じるプロダクトを追求しました。私自身、スタートアップで経理をしていたことがあり、会計作業の問題点も知っていましたし、『こうすれば会計が楽になる』という方向性もわかっていました。だから信じるものを追求することができました。王道なビジネスの手法、開発の手法からは外れているのですが」と振り返った。
フィンテックブームで実現した銀行とのAPI連携
こうして2013年、freeeは「クラウド会計ソフトfreee」をリリースする。開発中には酷評されていた同プロダクトだが、いざリリースしてみると、インターネット上で評価する声も聞こえてきた。ユーザーも増え始め、不具合が見つかったり、改善を求める声も聞こえるようになる。
佐々木氏は「開発期間中は『ユーザーの声は聞かない』という方針を取ったのですが、リリースしてからは逆にユーザーの声に耳を傾け、片っ端から不具合に対応したり、改善していきました。この辺りの3年間は忙しくて記憶もありませんね」と語る。
2015年くらいになると「フィンテック(Fintech)」という言葉が浸透し始め、ブームのような様相を呈し始めた。同時に、freeeのようなフィンテックスタートアップにも注目が集まるようになった。こうした流れの中で2016年、freeeはみずほ銀行とAPI連携を開始。メガバンクとクラウド会計ソフトの国内初のAPI連携事例となった。
佐々木氏は当時を分析し「これは創業当時には考えられなかったオフィシャルな連携ですね。この背景には、フィンテックに対する期待の高まりがありました。タイミングに恵まれていたところもあるのだと思います。2020年にはほぼ全国の銀行とAPI連携をすることができました」と語った。
2018年頃からはスモールビジネスだけでなく、中堅規模の企業も視野に入れて対応してきた。そのため、上場準備中のスタートアップがfreeeを導入するケースも増えてきた。
2019年には「freeeアプリストア」を公開し、東京証券取引所マザーズへ新規上場。2020年には「プロジェクト管理freee」などベータ版を含め5プロダクトをリリース。2021年に入ってからはサイトビジットがfreeeグループに参入した。
創業から今までを振り返り、佐々木氏は「最近では、スタートアップや中堅規模企業で『経営のためのツール』としてfreeeが認識されるようになってきました。ここからがまた重要な局面ですね」と語った。
組織のあり方を考え直した「30人時代」
創業から今まで変化に富むfreeeだが、大きなターニングポイントはいつなのだろうか。
佐々木氏は「いろいろありますが、1つ挙げるとしたら、2014年頃ですね。それまでfreeeはインターネット上で見つけてもらって、ユーザーに直接買っていただいていました。ですが、2014年頃から営業人材を採用して、お客様の前でfreeeのデモンストレーションをするなど、攻めの動きに転じました。これがきっかけで組織のあり方を見直す必要が出てきたのです」と話す。
freeeはそれまでの数人程度の規模で動いてきた。しかしこの頃、freeeの社員数は30人程度に増えていた。それまではメンバーとのコミュニケーションも気軽にとれ、freeeの方向性や考え方についても、言葉にせずともなんとなく共有できていた。しかし、30人規模になるとそうはいかない。
「1人の人間の目が届くのは、せいぜい6人くらいまでです。30人はその5倍。組織のレイヤーを二段階くらい作らないと情報共有がうまくいかなくなります。また、私がいろいろ話に入って意見を出したり、決定を下そうとすると、数人ならスムーズに進むのですが、30人規模では『佐々木さんが来た方が逆に決定が遅くなる』ということも出てきてしまいます。こうした失敗から『カルチャーの明文化』を始めました」と佐々木氏。
今では週1回、全社員参加のイベントで話したり、今週の良かったことを社内コミュニケーションツールで共有しているという。
佐々木氏は「現在、freeeの社員数は500人弱です。自分から全社に話しかけることの重要性を感じます」と語った。
「統合型プラットフォーム」を宣言した理由
freeeは6月22日、新戦略発表会を行い、新ビジョンとして「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」を掲げた。このビジョンにはどんな意味があるのか。
佐々木氏は「freeeには会計、労務、稟議などに関わるさまざまなプロダクトがあります。これまで出したプロダクトが統合されているのはもちろんですが、これからリリースするプロダクトもすべて統合された形でリリースします。つまり、この新ビジョンはユーザーに対する決意表明なのです」と解説する。
freeeのユーザーからすれば、自社が導入しているfreeeプロダクトが統合されている方が便利だ。例えば、ここにプロダクトAとプロダクトBがある。これらが統合されていれば、ユーザーはAのデータをBに送ったり、BのデータをAに送って手軽に資料を作ったり、経営判断を下したりできる。しかし統合されていなければ、AでデータをエクスポートしてからBにインポートしたり、その逆をしなければいけない。
前者の場合、プロダクト間でデータがシームレスにやり取りされるので、例えば「なぜこの数値はこうなっているか」などを追跡しやすい。しかし、後者の場合、数値がどこからきたのかなどをユーザー自身で考えなければならない。
「統合されている方がユーザーは便利ですが、開発の負担は上がります。それでも、これからのプロダクトをすべて統合した形でリリースする。この決定は重大なものなのです。また、プロダクトの統合だけでなく、freeeアプリストアを通したオープンプラットフォームでパートナーと繋がっていくことも重要です」と佐々木氏は補足した。
同発表会ではスモールビジネスの魅力を伝える「freee出版」の立ち上げと、スモールビジネス研究所の設立を発表した。創業からずっとスモールビジネスにこだわり続け、10年目のfreeeでもスモールビジネスにこだわるということだ。これにはどういう意味があるのか。
佐々木氏は「これまでスモールビジネスは大企業ほどのITを持てませんでした。freeeを使えば、手軽に大企業並みのITを導入できる部分が増えていきます。それができれば、働く場所としてのスモールビジネスの魅力も高まるでしょう。スモールビジネスで働く選択肢が現実的になれば、そこで働く人も増え、世の中の循環も良くなっていくはずです。一方で、統一規格による大量生産が主流の今、スモールビジネスのプロダクトの個性が光ります。スモールビジネスの誰と働くのかも重要になってきます。おもしろい世の中を作るには、スモールビジネスが必要不可欠なのです。だからこそスモールビジネスを今後ともサポートし続けていきます」とスモールビジネスへの期待と、今後の展望を語った。
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