歴史的には電話よりも発明が先だったと言われるファックスだが、1850年代にイタリアで考案された、この20世紀の遺物ともいえる技術に、21世紀初頭にIPOしたばかりのコミュニケーションプラットフォーム「Twilio」が対応した。
これはエイプリルフールのジョークではない。むしろジョークに思われるのは、2000年頃には「5年後には市場からなくなる」と関係者が考えていたものが、まだまだ日本では現役で元気に使われているという現実だ。
富士ゼロックスグループ関係者によるこのPDF資料によると、2005年の段階でもファックスは年間1100万台の出荷数を誇っていた。その後さらに5年が経過した2010年には74%減となったものの、それでも年間286万台。その後は微減を続けているものの2015年でもまだ年間200万台以上を出荷する市場規模となっている。耐用年数を考えると稼働台数はさらに多いと考えられる。総務省のまとめた2015年の統計によれば、ファックスの世帯保有率は2014年でも41.8%とまだまだ高い。
Twilioを日本で提供しているKDDIウェブコミュニケーションズにれば、特に政府や医療、金融、法務など機密性の高い文書を扱う業務では、依然としてウェブアプリなどを導入するにいたっていないこともある。文書の受信履歴が残り、これが電子メールや文書よりも法的にに有効であるという事情もあるという。
一度慣れたツールを使い続けることは自然なこと。日本国民の年齢の中央値は46.9才だが、例えばアメリカは37.9才、中国は37.1才。世界平均は30.1才、インドは27.6才だ。近年60才以上でもメールやスマホの普及は見られるが、日本でファックスが長く残っているのは、小規模事業者における労働者の高齢化とも関係しているのではないかと個人的には思う。後継者難にあえぐ業界の多くの現場では、10年前と同じ面々が、10年前と同じツールで仕事をしているということなのではないだろうか。タイプライターという段階を経なかった日本でPCの普及が遅れた、ということもあるかもしれない。
理由はどうあれ、Twilioのファックス対応はシステム開発をしている人たちには朗報だろう。ファックスは多くの現場の伝票処理などのワークフローに組み込まれている。ここをシステム化して少しでも自動化することには価値がある。「TwilioプログラマブルFAX」と名付けられた新機能では、1ページ辺り1.5円+通信費(日本の固定電話宛なら5.4円/分)で利用できる。月間100ページまでは通信費のみで利用できる。リリース当初は送信のみだが、今後クラウド受信も可能になるという。
Twilioはクラウド経由のAPIによって公衆電話網に接続し、電話の発呼や着信、音声案内を始めとするサービスを開発できるサービスを提供してきた。ダイヤルトーンによるナビゲーションシステムなんかもネットで使われる一般的な開発言語を使ってできるのがメリットだ。つまりネット側のシステムと電話の両方をネット系開発者はTwilioによって結ぶことができる。それがファックスに対応したのだからシステム開発の幅が広がりそうだ。
あくまでも原理上の発明なので現代のファックスとの技術的連続性は大きくはないけれど、1866年のファックスの原案をみていると、150年が経過してイノベーション(?)が継続していると考えると感慨深いものがあるよね。