先週、Guardian誌の記事が提起した懸念に応えるかたちで、Apple(アップル)は世界中で、Siriの品質管理のプログラムを停止している。その記事は、Siri(シリ)への質問を録音したものが、品質管理のために他所で使われていることを報じたもの。Appleによれば、同社が見直そうとしているのはグレーディング(格付け)と呼ばれるプロセスで、Siriが質問を正しく受け付けたのか、あるいは誤動作によって起動してしまったのかを調べるものだという。
それに加えて同社は、今後ユーザー自身が、Siriのグレーディングのプロセスに参加するかどうかを選択できるよう、iOSのアップデートを実施するつもりだという。
Alex Hern(アレックス。ハーン)氏によるGuardianの記事は、Appleと契約して、グレーディングと呼ぶSiriの品質管理のプロセスの一部を請け負う業者の話を大々的に引用したもの。このプロセスでは、個人の名前やIDとの関連を除外した音声データの断片が契約業者に渡される。業者は、それを耳で聴いて、Siriが正しく音声を認識したか、あるいは誤って起動してしまったのかを判断する。
「私たちは素晴らしいSiriのエクスペリエンスを提供することに尽力しています。もちろんユーザーのプライバシーは保護したうえで」と、AppleはTechCrunch宛てに表明している。「このプロセスを徹底的に見直していますが、その間はSiriのグレーディングを世界的に停止しています。さらに、将来のソフトウェアアップデートには、ユーザーがグレーディングに参加するかどうかを選べるようにする機能を組み込む予定です」。
契約業者によると、Appleは録音を匿名化するプロセスを踏んでいるはずなのに、録音データには、個人情報、セックスに勤しんでいる音、識別が可能な財務情報の詳細などが含まれていることもあるという。
Siriの動作を向上させるために、そうした生の録音データを業者に渡して評価することを、ユーザーはどの程度認識しているのか、業者自身が疑問に思っているという。今回の問題が明らかになってから、私は自分でAppleのサービス利用規約をよく読んでみた。確かに、Siriの品質管理や、データの共有についての記述はある。しかし、実際の録音データが、いくら短いものだとしても、評価プロセスの中で利用され、しかも第三者に送信されて聴取される可能性があるということを、はっきりとわかりやすく説明できてはいないことがわかった。
Appleが示した数字によれば、グレーディングのためにピックアップされている質問の量は、日常的にSiriが受け取っている質問の1%にも満たないという。
実を言うと、数秒間の録音データを取得・送信して評価することは、それを社内でやるか外部の業者に委託するかは別として、この業界では標準的に行われていることだ。AmazonやGoogleの音声アシスタント機能が録音したリクエストの音声も、人間の耳で評価されている。
録音データが、このような目的のために利用されることを、はっきりとユーザーに了解してもらうことは、こうしたビジネスにとって、もはや不可欠だ。Appleが、それを表明したことは朗報と言える。
そのようにユーザーの意思を確認することは、すでにAppleも他の種類のデータを扱う際には行っている。例えば、デベロッパーがソフトウェアのバグを修正したりする際に役立つ、アプリのパフォーマンスデータがそうだ。現状でも、iPhoneをセットアップする際には、パフォーマンスに関するデータをAppleに送信することを許可するかどうか、必ず設定しているはずだ。
Appleは、自らを大手IT企業の中で最もプライバシーを重視する会社として位置付けるため、長年にわたって取り組んできた。そのため、道徳規範という話になるとかえって重い負担を背負うことになる。ユーザーのデータを、品質管理やサービス向上のために利用するような場合には、他の大手企業となるべく同じように行動するというだけでは、Appleにとって不十分なのだ。それだけでは、プライバシーを重視する会社というスタンスと、それによって培ってきたこの市場における優位性を維持することは難しいのだから。
[原文へ]
(翻訳:Fumihiko Shibata)