アルコール依存症と戦う患者を遠隔医療で支えるMonument

米国では18歳を超える成人1440万人が何らかのアルコール依存症だ。しかし、治療を受けているのは、そのうちのわずか7.9%。米国におけるアルコール関連死者数は、およそ8万8000人にのぼり、米国での予防可能な死因の第3位となっている。また、アルコール関連の疾患には2490億ドル(約26兆8000万円)が費やされている。

Monument(モニュメント)の共同創設者であるMike Russell(マイク・ラッセル)氏にとって、この数字は単なる統計ではなく自分自身の人生を覗く窓でもある。彼はこのアルコール依存症と闘う患者のための処方薬と治療を提供する遠隔医療サービスを展開している。この事業を始めたのは彼自身の治療法を探し求めた後のことだ。

今年の初め、会社設立を発表したMediumの記事(英語サイト)でも述べられているが、Monumentは、米国で最も一般的な治療法とされる更生施設や禁酒会の集まりほど注目されていないが、その他の治療手段があることにラッセル氏が気づいたことから生まれた。

ラッセル氏は以前、夜の娯楽のプロモーターであり、プロの酒飲みだった。クラブの売り込みを行うビジネスでは酒は欠かせなかったのだ。だが、夜遊びの世界から足を洗って起業家に転身したあとも、ずっと大酒を飲んでいた。その癖は、彼の最初にして失敗したスタートアップのVenue Tap(ベニュー・タップ)から、その次のハイテク業界への参入を守備よく果たせたオンデマンド掃除サービスのマーケットプレイスのMyCleanの時代まで貫かれた。

3つ目の、最も成功したスタートアップPaintzen(ペイントゼン)が買収されるころ、ラッセル氏は2つのことに気が付いたという。ひとつは、飲酒は現実に問題が大きいこと。もうひとつは、禁酒会や更生施設のほかにも頼れる手段があるということだ。

この2つの気づきから、彼はMonumentを創設した。シード資金はPaintzenを支援した同じ投資家グループから提供された。具体的には、Collaborative Fund、Lerer Hippeau Ventures、Red Sea Ventures, Datapoint Capital、Corigin Ventures、NextView Venturesなどが参加している。米国の東海岸と西海岸に分散するこれらの企業は、共通して同じ考え方に意識、そして資金を向けていた。「アルコールとドラッグの依存症治療は投資に値するビジネスである」という考えだ。

プライベート・エクイティ投資家も、医療分野への参入を目指して更生施設のネットワークに資金提供を行っているが、ベンチャー投資家は、医療の遠隔サービスのほうが、場所と場所を結ぶネットワークの運営費用を必要としない分、有意義な結果がもたらされると考えてている。医療が受けられること、そして医療を提供する人がいることは、場所とは関係がない。

同じくアルコールの乱用を防ぐことを目的としてベンチャー投資家から資金を得ているニューヨークのスタートアップのTempestとも違い、Monumentは、プラットフォームを入口にして人々をセラピストと結びつけようとしている。Tempestのアプローチは、断酒のためのサブスクリプション・サービスの一部として数々のツールを提供することが中心になっている。

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Monumentの資金調達は2019年12月にクローズされたが、1月にはラッセル氏は自身のブログに、同社は、依存症克服の方法に関する情報を求めるユーザーのコミュニティー構築と、患者予備軍を個々の症状に合わせた治療薬の処方と同じ目的の認知行動療法の提供が行えるセラピストや医師と結びつける活動を開始したと書いている。

Munumentの事業には4つの面がある。1つ目は、断酒を決意し、それにまつわる情報や支援を求める人たちが無料でアクセスできるコミュニティーがある。2つ目は、自宅待機要請の重圧の中で酒や薬物への誘惑が増していると感じるコミュニティーのメンバーが、無料で参加できるグループ治療セッション。これは、新型コロナウイルスの流行を受けて市場に同様の治療セッションを投入したRo(ロー)やHims(ヒムズ)やその他の企業とよく似ている。3つ目は、治療を次の段階に進めたいと考えているコミュニティーのメンバーのために、料金を払えば一度だけ医師の診察を受けて、飲酒の必要性や欲求を抑える薬を処方してもらえるサービス。そして4つ目として、隔週または毎週、セッションに参加したい人のための2つのコースのセラピーサービスを提供している。

「私たちはメンバーを、投薬治療に精通した、または薬を使わないほうがいいと判断できる医師とを結びつけます」とラッセル氏。(メンバーは)「合併症に詳しい有資格のセラピストにつながれます」という。

投薬のみのプランは19ドル(約2000円)。隔週のセラピストの診療と初回の薬の処方のための診察が受けられるコースは月額149ドル(約1万6000円)。医療管理に毎週のセラピーが受けられるコースは月額249ドル(約2万7000円)となっている。

現在のところ、Monumentのネットワークにはおよそ700人が参加し、米国時間5月11日にカリフォルニアでサービスを開始したのに伴い、無料コミュニティーのメンバーはさらに増えるものと期待されている。「治療プランは、ニューヨーク、ニュージャージー、そしてフロリダでベータ版が使えます」とラッセル氏。「公式ローンチでは、これらの3つの州に加えて、カリフォルニアとコネティカットが加わります」。

遠隔治療の提供企業は、米国の50州では免許なく事業できる。これは、新型コロナウイルスのアウトブレイクによる医療システムの負担を考え規制が変更されたお陰だ。ただし、同社がサービスを提供している州では、精神医療に関してはまだ免許を必要とする。「各州の医師免許を持つ医師、臨床医、セラピストをさらに集める必要があります」とラッセル氏は言う。

この会社を立ち上げるにあたり、ラッセル氏はMyCleanとPaintzenの共同創設者Justin Geller(ジャスティン・ゲラー)氏を共同創設者として招き、データサイエンティストのAmit Klein(アーメット・クライン)氏を最高製品責任者に迎えた。

「核心はデータにあります」と、同社でのクライン氏の役割の重要性についてラッセル氏は話した。「メンバーが治療に入ることで、私たちには医療効果がわかります。その一部がプランに、診断に活かされます。私たちは、年齢、性別、飲酒パターンを把握することで、その治療が有効か否かがわかるのです」

またラッセル氏は、匿名化データは使わず、第三者にその見識を売ることもないと強調していた。「それは2値アウトカムです」と、治療過程を監視するという同社の決断についてラッセル氏は言う。「私たちは成功例を追跡できます。治療の経験を重ねるにつれてデータセットが積み上がりますが、それは結果として個人のものとなります」。

新型コロナウイルスへの社会的対応が人々の精神衛生面へのストレスを強めている今ほど、Monumentにとって重要な時期はないとラッセル氏は語る。今このときも「人々はアルコールと苦戦しながら、生きるための必死の戦いをしているのです」とラッセル氏は話していた。“新型コロナウイルス

画像クレジット:10,000 Hours / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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