独立系VCのインキュベイトファンドは今日、100億円規模となる4号ファンドの組成中で年内にクローズすることをTechCrunch Japanへの取材で明らかにした。2015年1月に組成した110億円の3号ファンドに続くもので、3号のスタイルを踏襲して、シード投資と、それに続くフォローオン投資をしていく。4号ファンドの出資者(LP)は事業会社のほか政府系機関、金融機関を含む。
3号ファンドのファンドのパフォーマンス(収益性)が良いことから、4号ファンドの投資スタイルも「既存産業の変革を支援するもの」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー和田圭祐氏)を中心としていく。ただ、これまで変革のカギがスマホだったところは「コネクテッドな産業領域に広がってくる」(和田氏)といい、これまでゲームやメディア、SaaSなどネットで完結してた事業領域が「ネットの真ん中から染み出している。その染み出し方が深くなる。そこにゼロイチにこだわってシードから投資していく」(同)という。
これまでのFintechやシェアリング、電力系スタートアップなどへの投資に加えて、現状で市場が存在しないものの、もしあれば大きな伸びが見込まれる宇宙やMR、ドローンといった研究開発先行型の領域にも踏み込む。すでに3号ファンドでも月面資源開発事業のispaceや今年LINEが買収したバーチャルホームロボットGateboxのウィンクルなどへの投資実績がある。
ファンド・オブ・ファンズの取り組みを切り出し、新ファンド「IFLP」を始動
インキュベイトファンドでは4人のジェネラル・パートナーが対等なポジションで投資・運用をしてきた。それに加えてファンド資金の一部を若手VCに任せて子ファンドとして運用する、いわゆる「ファンド・オブ・ファンズ」(FoF)の取り組みも行ってきた。TechCrunch Japanの資金調達の記事でも何度も出てきている、プライマルキャピタル、IF Angel、ソラシード・スタートアップスなどは若手VCによるインキュベイトファンドの子ファンドだ。それぞれ元本のリクープも見えていたり、大きなリターンを出してキャリー(キャピタルゲインに比例してVCが得る成功報酬)を得ている若手VCもいる。
これまでインキュベイトファンドでは、こうしたFoFの仕組みで17本(33億円)のファンド、10人以上のVCを輩出してきたという。
このFoFの取り組みを切り出して、新たに50億円規模のファンドとする「IFLP」を年始にも開始する。IFLPには9人のジェネラル・パートナーを置き、それぞれにIFLPから5億円を出資する。各ジェネラル・パートナーは自らの裁量で外部LPから引っ張ってきた資金を足して最大10億円のファンドとして投資を行うことになる。
シード期投資ができるジェネラル・パートナーが日本には圧倒的に足りていない
ベンチャーキャピタルのファームは、戦略コンサルなどと同じでパートナーにならない限りは下積み。伝統的な組織型VCはパートナーになるまで何年もかけて組織階層の中で出世するモデルだったが、もともとインキュベイトファンドは金融系VCから独立した4人のパートナーが運営している「パートナー型」のフラットな形態。「アソシエイトには、いずれ辞めてもらう前提で入ってもらっている。最低3年、最長5年と言っている」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー村田祐介氏)というスタイルだ。一人前になったらファンドレイズ(ファンド組成のために事業会社や金融機関から出資を募ること)をやって独立しろ、ということだ。
ただ、駆け出しの若手VCにとっては、ファンドレイズはもちろん、ファンド管理業務やLP報告業務など「重たい」タスクが多い。だから、そうしたVC共通の業務についてはFoFならインフラを共有することで、より多くの若手VCが育つ土壌を用意する。初号ファンドを立ち上げるタイミングくらいの若手VCのプラットフォームを作る、というのがインキュベイトファンドがIFLPを開始する理由だという。
インキュベイトファンドの前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズを1999年に設立した赤浦徹氏は、シード期のゼロイチのフェーズで投資ができるジェネラル・パートナーを日本に増やしたいとの思いが強く、米国などスタートアップ先進国と、VCの質でも量でも差が開くばかりだという焦りがあるという。「1人のVCがピカピカの起業家10人を送り出せるとすると、ジェネラル・パートナーを増やしたほうが経済波及効果が大きいのではないかと思っています」(村田氏)
VCの多くは、経営や事業創造の手助けをする、いわゆる「ハンズオン投資」を行うが、インキュベイトファンドではシード期や、シード以前から事業アイデアについて起業家に近い目線で強力な支援を行うスタイルで知られている。
いま日本のスタートアップ界隈では資金が集まりすぎで、スタートアップ企業の数が足りていないと言われている。ただ、起業家が足りないというのは現実である一方、その理由としてVCが起業家となるべき人に出会って事業化の構想を一緒に考えるようなシード投資が少ないという面もある。昨今数も量も増えているCVCはシード期でのリスクを取りづらい。日本でも成功した起業家たちによるエンジェル投資が増えているが、それでも人数的にも金額的にも足りてないのが現状だ。こうした中、立ち上がるIFLPの取り組みがスタートアップ・エコシステムに果たす役割に注目が集まりそうだ。
若手VCによる丁寧なハンズオン型投資でシードのディールを増やす
インキュベイトの4号ファンドも含めて、日本のVCファンドの規模が大きくなっている結果、1回あたりの投資金額、いわゆるチケットサイズが大きくなっている。このためシード期の小さな投資領域が、いまの日本でエアポケットように空いてしまっている、というのが村田氏の見立てだ。本当は2、3000万円あればプロダクトを2回くらい作り直してキャッシュフローを作るところまで行けるチームがあるのに、そこへのシード投資が足りていない。インキュベイト3号ファンドの子ファンドによる出資は、そうした領域において、新しい市場やトレンドに敏感な若手VCが素早く投資して成長させるモデルがうまく行っている。中長期の継続投資になる研究開発型へ本体ファンドが踏み出すのと対をなすかのように、IFLPによる9つの子ファンドにより小回りの効くシード投資の領域もカバーしていくことになるかっこうだ。
ファンドへ出資するLPから見ると、FoFの仕組みは「ゲートキーパー」の役割も果たすことなるかもしれない、と村田氏は指摘する。小さなファンドに対して少額出資する判断を事業会社や機関投資家が個別にやるのは困難だ。多数の子ファンドを束ねた親ファンドであれば、機関投資家が資金を入れやすい。
インキュベイトファンドは、前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズの1999年の設立以来、累計300億円以上の資金で300社以上のスタートアップ企業へ投資している。また、創業期に近い起業家と、日本のVCを繋ぐ場としてシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を2010年から運営をしている。