エネルギー関連の事業を複数手がけるENECHANGE(エネチェンジ)は10月24日、昭和シェル石油や住友商事ら7社が同社に総額約7億円分の資本参加をしたことを明らかにした。
今回の資本参加は普段TechCrunchで紹介することの多い第三者割当増資によるものではなく、既存株主(VC)が所有する株式の一部を下記の7社が買い取った形。これらの会社とは業務提携も実施しているという。
- 昭和シェル石油
- 住友商事
- 大和証券グループ
- 東京ガス
- 北陸電力
- Looop
- SK GAS Co. Ltd.(韓国)
これまでENECHANGEでは2015年5月にエプコやB Dash Venturesから、同年12月に日立製作所と環境エネルギー投資から、2017年2月にオプトベンチャーズやIMJ Investment Partners、みずほキャピタルからそれぞれ資金調達を実施。VCをメインに累計で10億円以上を集めてきた。
ENECHANGE代表取締役会長の城口洋平氏いわく、今回の取り組みは「様々な事業会社とパートナーシップを結んで事業をさらに成長させることに加え、上場やその先を見据えた資本政策の一環でもある」とのこと。
その背景も含めてENECHANGEのこれまで、そして今後の方向性について城口氏に話を聞いた。
比較サイトからの脱却、デジタル化事業が成長
ENECHANGEは2015年4月に設立されたスタートアップだ(当初はエネチェンジでスタート、2018年5月に社名を英語表記に変更)。ケンブリッジ大学発で電力データ解析を専門とする研究所「ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ」がルーツになっていて、そこから電力比較サービスを切り出す形で始まった。
同社が事業領域として設定しているのは、Deregulation(自由化)、Digitalisation(デジタル化)、Decentralisation(分散化)、Decarbonisation(脱炭素化)という“エネルギーの4つのD”に関するものだ。
現在は自由化とデジタル化に関する2つの事業を運営。前者についてはエネルギーマネジメント事業として家庭向けの電力・ガス比較サービス「エネチェンジ」や、法人向け電力会社切り替えサービスの「エネチェンジBiz」が軸になる。
後者についてはエネルギーテック事業として電力・ガス小売事業者向けのマーケティング支援サービス「EMAP」やスマートメーターの解析サービス「SMAP」などを展開してきた(2017年7月に英国のスマートメーターデータ解析ベンチャーSMAP ENERGYと経営統合。なお同社も同じ母体からスピンアウトして始まった会社で、城口氏が共同創業者兼CEOを務める)。
もともとはエネルギーマネジメント事業の売上比率が高く、いわゆる“比較サイト運営会社”のイメージが強かったけれど、年を重ねるごとに売上におけるエネルギーテック事業の比率が上昇。2018年度の数値では、エネルギーテック事業の売上が4割を超える見込みだ。
そういった背景もあり「電気の比較サイトによる切り替え事業の一本足から脱却できてきた」(城口氏)状態だという。
また売上・利益ともに拡大していて2017年度の売上は5億円強。今年度についてはあくまで見込みであるけれど、売上は10億円を超え、通期で初の黒字化も実現できる勢いだという。
強力なパートナーを迎えてENECHANGEは第2章へ
そんな状況下において、今回新たに7社がENECHANGEの株主となった。
冒頭でも触れた通りこれまではVCからの調達がメインで事業会社は日立製作所くらいだったけれど、今回の7社は全て事業会社。それもエネルギー関連の大手企業が揃っている。
城口氏によると、エネルギーマネジメント事業が軸となっていたこれまでは事業会社ではなくVCからの調達を重視していたそう。それは電力やガス比較、切り替えサービスを運営していく上で、特定の会社の色がついてしまうのを避けていたからだ。
ただここ1〜2年ほどでエネルギーテック事業が伸び、会社としても4つのDをドメインに掲げ、自由化以外の取り組みを強化していくフェーズに変わってきた。そういった意味で城口氏は「今回の資本業務提携がENECHANGEの第2章の始まり」とも話す。
「この分野においては、ようやく大手企業と相互戦略的なパートナーシップを結べる段階まで会社を持って来ることができた。これからは強固な顧客基盤やインフラを持つ各社と連携を取りながら、今まで以上にデジタル化、分散化、脱炭素化を進めていく局面になる」(城口氏)
たとえばSMAPを通じたスマートメーターデータの解析サービスは今後の注力ポイントのひとつ。スマートメーターの普及やデータ活用は世界的に見ても日本が進んでいる分野のため、ここで培った知見やサービスは海外にも展開できる。今回韓国のSK GASが株主に加わっているのは、アジアでの事業展開を加速させる意図もあるからだ。
また自由化に関するエネルギーマネジメント事業に関しては金融機関グループとの連携を強める計画。すでに株主であるみずほキャピタルと連携して、彼らの法人顧客に向けてエネチェンジBizの展開を進めてきた。これが上手くいっているそうで、今後も地域金融機関グループとのパートナーシップを強化して事業を加速させていきたいという。
IPOやその後を見据えてVC比率を抑える判断
第三者割当増資ではなく既存株主からの株式買取という形で新たなパートナーを迎えたのは、上場やその先を見据えた上でVCの持ち株比率を抑える意味もあるようだ。
「初期にスピード感を持って事業を成長させていくためにVCからの調達を進めると、VCの持ち株比率は当然高まる。一方で彼らが上場後に一気に放出するのがみえてしまえば、今度は上場後の株価維持が大変になってしまう。経営者として向こう10年の経営を見据えたときに、VCの持ち株比率を上げすぎると苦しくなると考えた」(城口氏)
城口氏によるとENECHANGEではVCの持ち株比率が30%を超えていたそう。この半年は今後の同社にとって戦略的なパートナーシップが重要になることや、それが事業の成長にも繋がることも踏まえて、各VCと時間をかけて話を進めてきたそうだ。
結果的には各VCから一部の株式を売ってもらうことでまとまったそう。これによって「新たにいいパートナーに加わってもらいつつ、(VCの持ち株比率が下がることで)いろいろな資本政策のオプションも残せるのではないか」(城口氏)と話す。
今年に入ってからは欧州のエネルギーテックスタートアップと日本のエネルギー企業との提携を目指すアクセラレータープログラムを始めたり、中古蓄電池ソリューション技術を展開するイギリスの「BrillPower」とタッグを組んだりと新しい取り組みも始めているENECHANGE。
今回のパートナーシップを機に、世界のエネルギー革命に向けた同社の事業はさらに加速していきそうだ。