わたしたちはモバイルデバイスによりどこででも仕事のできる環境を手に入れた。BYODは機器の持ち出しに伴う面倒な申請からの解放をもたらした。これらは一見魅力的だが、プライベートな時間とのトレードオフを余儀なくされているビジネスパーソンも多い。
どこででも仕事ができるが、プライベートタイムも確保したい――、それらを両立できるサービス「Dialpad」が日本でローンチした。
「Dialpad」とはどのようなサービスなのか。ダイアルパッドとソフトバンクによる合同記者会見の模様と、来日したDialpad CEO Craig Walker(クレイグ・ウォーカー)氏、Dialpad Japan President 安達天資氏へのインタビューから全貌と詳細をお届けする(取材日は2016年12月13日)。
フレキシブルな働き方へのニーズに応える「オフィス電話」
「個人向け通信システムには優れたプロダクトが増えているが、ビジネスコミュニケーションのためのものには不足がある」とWalker氏。「Dialpadのミッションは「ビジネスコミュニケーションに最高のエクスペリエンスをもたらすこと」だという。
Walker氏は2001年にDialpad CEOに就任したが、Dialpadは2005年に米Yahoo!に買収された。Dialpadとともに米Yahoo!に籍を移したWalker氏だが、ほどなくして同社を退職。その後創業したGrandCentralも2007年にGoogleに買収され、そこで『Google Voice』を2000万ユーザーにまで成長させた。
Googleに在籍していた3年の間、メール、カレンダー、ドキュメント作成アプリなどさまざまなサービスがクラウド化し、生産性を高めてきたのを目の当たりにしたWalker氏。電話システムもクラウド化したいとのことでGoogleを退社。Google VoiceのメンバーたちとともにDialpadを設立した。
2012年にはテレビ電話会議システム『UberConference』をローンチ。2015年には米Yahoo!から買い戻した「Dialpad」という名称でサービスの提供を開始した。
「Dialpad」が目指したものは「フレキシブルな働き方へのニーズに応える」こと。それには“Work anywhere”つまり、場所に制約されないということが求められるが、組織以外の人ともコミュニケーションを図れるよう“Connect everyone”(だれとでもつながること)、“Any Device”(どの端末でも使えること)も求められる。
「それらビジネスフォンとしての要件を満たすべくデザインされたのが『Dialpad』というサービスだ」とWalker氏は語る。「電話やビデオ通話ができるのはあたりまえ。テキストでメッセージのやり取りをしたり会議システムが使えるだけではなく、『G Suite』をはじめとしたクラウドツールとも接続でき、ビジネスフォンよりはるかに高度なコミュニケーションが図れる」と説明した。
アカウントの増減にフレキシブルに対応可能な“Cloud Telephony”システム
続いて記者会見に登壇した安達氏は「Dialpad」サービスの概要が説明した。
日本ではソフトバンクを通じて提供。ユーザーごとに「050」ではじまる13桁の電話番号が付与され、月額基本料は800円。初期費用不要で通話料は従量制だ。「03」や「06」ではじまる番号については1ユーザーごとの月額基本料が1300円で、2017第1四半期にサービスが提供開始される。
「Dialpad」アプリにログインすればその番号で受発信可能。ログインにはGoogleアカウント、Microsoftアカウント、または別のクラウドサービスアカウントでログインでき、アカウントには複数の番号を紐付けることもできる。
「Dialpad」はWindows、Mac、iOS、Android OSに対応しているため、それらどの端末からでもログイン可能。複数端末で同時にログインしておけるため、オフィスのPCで「Dialpad」の電話を受けた後、スマートフォンに切り替えて会話を続けるといったことも可能。
安達氏はこれを“Cloud Telephony”と呼ぶ。これまでのIP電話は、クラウド上のPBXをホストとして使うことで機能してきたが「PBXをホスティングせず、Googleプラットフォームを使った“ピュアクラウド”で成立。PBXという物理的な制約を受けないため、スケーラビリティがある」と説明した。
アカウントがクラウドサービスと紐付いていることには別のメリットもある。
Dialpadの番号にかかってきた電話を取ると(相手も同じクラウドサービスを使っている場合には)、発信者から直近で送られたメールや、やりとりしたドキュメントリストなどを右カラムに表示。通話中に相手とやり取りしたメールやドキュメントなどを探す手間が省け、スムースなコミュニケーションがとれる、というわけだ。
システム管理者にも導入のメリットは大きい。管理画面は『G Suite』や『Office 365』同様、Web UI。ユーザーの追加/削除、グループ管理(グループは既存の「部署電話番号」に類似。グループあて電話番号への呼び出しがあった場合、どのユーザーの「Dialpad」を鳴らすかを設定できる)、保留音設定、呼び出し可能時刻設定、時間ごとの応対方法(音声自動案内で担当部署につなぐ、対応時間以外に留守電メッセージを預かるなど)設定などおよそビジネスフォンに必要な設定が簡単に行える。
さらに、「Dialpad」にはアナリティクス機能も備わっている。これにより通話やメッセージの利用頻度、通話レーティング、社内外利用比率、不在着信比率などをチェックできる。営業部署などを抱えている企業であれば重宝するだろう。
「Dialpad」の導入でコスト削減が見込めるわけ
――:よろしくお願いいたします。モトローラではアメリカ、イギリス、ポーランド、ドイツ、デンマーク、フィンランドでリプレースを完了し、1000万ドル近いコスト削減につながったとのことですが、具体的にはどのような理由で減らせたのでしょうか。
Walker:それまでモトローラでは既存の、しかも複数のプロバイダーと契約していましたが、そのコストがDialpadと比較して高かったことが挙げられます。複数プラットフォームの導入では、アップグレードやサポートなどメンテナンスに費用がかかるだけでなく、管理が複雑なので専任担当するITプロフェッショナルも必要でした。今では、それらメンテナンスが不要となり、担当者もパートタイマー1人で賄えるように。契約料、メンテナンス費用、人件費トータルでそれだけのコスト削減が実現しました。また、どこにいても電話が受けられ、仕事ができるようになったため、生産性も大幅に上がっています。
安達天資氏(以下、安達):付け加えると、これまでだと物理的なPBXを施設内に置く必要がありました。これらのハードにもメンテナンスが必要ですし、5年ごとに買い換える必要があります。Dialpadであればその両方が不要なため、その費用が削減できた、というわけですね。
“Cloud Telephony”はスタートアップ企業にも最適
――:PBXの話が出てきました。会見では“Cloud Telephony”という言葉が使われ、PBXに依存しないところが革新的という説明をされていましたが、もう少し詳しく教えていただけますか。
安達:現在でも「クラウドPBX」サービスを提供している会社では、非常に大きなハードウェアとしてのPBXをキャリアのデータセンター内に設置し、マルチテナントとしてホスティングサービスを提供しています。しかしそれは機器依存、PBXの性能にサービスの質が左右されてしまいます。それだとスケーラブルに対応できません。しかし、Dialpadの場合、いちからGoogleプラットフォームの上、つまりクラウド上にシステムを作っているため、アカウント数の増減にも、何十万何百万というアカウント数にも対応できます。どの場所にPBXがあるか? と機器に縛られていないため、グローバルなアクセスが可能になっている、という点が全く新しく、ほかにはない要素だと思っています。
――:利用企業にはモトローラやNetflixなど大企業から、スタートアップ企業も名を連ねています。グローバルアクセスが「Dialpad」の強みだと思うのですが、スタートアップ企業など規模の小さな法人にとっても導入のメリットはあるのでしょうか。
安達:スタートアップ企業の場合、その成長とともにオフィスも移転するものです。そのたびに電話回線を引き直すとしたら手間と費用がかかります。またBYODで自分の端末を使う場合、取引先に“自分のプライベートな”番号を知らせることになりますよね。でも、「Dialpad」であれば、ビジネス用の番号を月額800円で維持できます。どこにオフィスを移転しても使えます。メンバーの増減にも柔軟に対応できます。まとまった初期投資も不要ですし、スタートアップ企業にこそ導入のメリットが大きいのではないかと考えています。
――:管理画面から“ビジネスタイム”として電話を受けられる時間を設定できる、とありました。特に個人事業主や小さな企業では、時間外でもかかってくる電話が重要なものなのではないかと不安になるかもしれません。
安達:時間外にかかってくる、もしくは対応できないときにかかってくる電話に対しては留守電メッセージを残していただけます。そしてそのメッセージは「ボイスメール」としてユーザーに通知されます。音声を添付するものであれば、これまでの電話サービスでもありましたが、「Dialpad」では留守電の音声をテキスト化したものをメールとして送信します。これにより、例えば重要な打ち合わせ中や音を出せない場合などでもかかってきた電話の内容を確認でき、どのような対応を取るか決められます。また、後からテキスト検索できるというメリットもあります。
通話料はソフトバンクが提供するIP電話に準ずる
――:今回、ソフトバンクをパートナーとされましたが、その理由を教えていただけますか。
安達:出資を受けたということもありますが、ソフトバンクは2010年の頃から現在の『G Suite』を使うなど働き方変革に積極的な企業です。そのような中、足かせになるものとして電話がありました。代表番号や部署受付番号などにかかってくる電話を取るため、お昼休みに1人だけ事務所に残される、といった経験を見聞きしたことがあるでしょう。電話も含めてワークスタイルをイノベーティブにしたい……そういった考えがわれわれと一致し、ともに立ち上がることになったのです。
左からWalker氏、安達氏、ソフトバンク 法人事業統括 法人事業戦略本部 執行役員本部長 藤長国浩氏、同 技術統括 サービスプラットフォーム開発本部 本部長 折原大樹氏
――:ところで、今回の発表では「通話料」についての言及がありませんでした。「Dialpad」を利用した場合の通話料、また「Dialpad」番号にかけた場合にケータイキャリアによっては提供のある「カケホーダイ」の対象になっているかについても知りたいのですが。
安達:「050」ではじまる番号については、ソフトバンクが提供しているIP電話と同じ料金体系が適用されます。もちろん、「Dialpad」同士の通話は無料です。国内外問わずなので、場合によってはリースナブルですよね。
――:日本にもこれまでIP電話サービスがいくつかあり、その中でも固定電話や携帯電話にかけられ、なおかつ通話料を“格安”で提供しているViberなどもあります。
Walker氏:コンシューマー向けには充分満足できるプロダクトがあったかと思います。でもそれは個人対個人の場合です。「では、ビジネス用途としては?」というと充分ではない。なぜなら、グループナンバーをどうするか、営業時間外はどのように対応するか、留守電メッセージは? どのように管理する? といったところを解決してこなかったからです。Dialpadではビジネスフォンとして必要な条件を満たしている、という点でほかにはないプロダクトなのです。