教育者たちはオンライン革命が実物の教室をいずれ圧倒することは知っていたが、でもここ数か月の、本当に革命に近いような急展開は、変化のペースが思ったよりも速いことを実証している。一か月前には、合衆国最大の大学機構(カリフォルニア州立大学)がオンラインコースに正規の履修証明を発行する(単位を与える)ようになり, またいくつかの名門大学が学位取得条件から履修時間(出席時間)を外し、また国公立大学の多くがコースのオンライン化を開始した。高等教育のオンライン化が副流ではなく主流になるという説は、もう、仮定的な未来ではなくなった。次期政権(第二期オバマ政権)の教育長官は、全省をあげて、この大きな変化に前向きに対応する必要がある。
これまでの10年あまり、入試などによって入学者を選別するタイプの大学(University of Phoenixなどは非選別型)は、人気の盛り上がるオンラインコースに単位を与えることを拒んできた。しかしMITの画期的なOpen CourseWareプロジェクトは、最初わずか50のオンラインコースによる概念実証事業を開始したが、その後の3年間で全世界的な複数大学のコンソーシアムができあがり、今では1700のコースを提供している[PDF]。 そして今日までの累積ビジター数は、1億2500万にものぼる。オンライン教育のスタートアップCourseraは、対話的ビデオと宿題と学生同士の協力型学習コミュニティで一流大学のコースを構成し、2012年の4月に立ち上げて以降わずか9か月で、250万あまりの学生たちにそのサービスを提供した。
そして先月は、世界最大の財政破綻教育機関であるCalifornia State University System(カリフォルニア州立大学機構)が、単位取得のできるオンラインコースを1コース150ドルという低価格で提供するパイロット事業を開始した。今年の初めにぼくは自分の記事で、カリフォルニア州とオンラインコースプロバイダUdacityとのこのパートナーシップは、成功するだけでなく、やがて全国の大学にその類似形が波及していく、と予言した。
でもぼくは、一つだけ間違っていた。たいがいのことに、科学的知見に基づいて慎重に対応するはずの高等教育機関が、そのパイロット事業に関しては結果と評価を待つことをしなかった。カ州がそれを発表してからわずか3週間後に、約1800の正規認可大学のコンソーシアムであるAmerican Council on Educationが、DukeやUniversity of Pennsylvaniaなど3つの大学で、低価格のオンライン科学コースのパイロットを開始する、と発表した。
そして、もっとも革新的と思われるのが、University of Wisconsin(ウィスコンシン大学)による、学位取得条件からの履修時間の排除だ。学生たちの要件は、テストに受かることと、学位取得関連費用を払うこと、これだけになった。だからこれからは、世界のどこからでもコースを学べる。
YouTubeのビデオなどから完全にオンラインの講義を提供しているKhan AcademyのSal Khanが、わざわざ大学の物理的な建物へ行って試験を受けるという大学のシステムを、Aspen InstituteのBig-think Ideas Festivalで批判したのはわずか2年前だ。そのときは、デジタル教育の最先鋒の人たちですら、彼が近未来に訪れる現実を語っているとは思いもしなかった。
やや残念なのは、この、教育とインターネットという分野では、思考よりも行動のペースが速いことだ。コースの評価には今後何年もかかるし、教育システム全体のリストラの評価再検討にはさらにそれ以上の年月を要するだろう。しかし教育省が行った調査は今すでに、“課目のすべてまたは一部をオンラインで受講した者の成績は、同じコースを従来の対面型授業で受講した者よりも良い”、と明言している。
また、物理学の講義を通常の物理学の教師からではなく、オンラインでノーベル賞受賞者から受けた者は、試験の点が倍近く高かった、という報告もある [PDF]。これもやはり、各大学によるMassively Open Online Community courses (MOOCs, 大規模オープンオンラインコミュニティコース)パイロット事業開始の動機の一つになっている。
しかし、教育の世界ではとくに、パイロットで成功した企画が大規模展開でこけることが多い。実験的な教育は最良の教師と最良の学生を揃えて行われるが、そこでは、それを一般化して本格展開した場合の問題が、事前対処されない。
したがって、教育のデジタル化とオンライン化がもたらす未来について、今のわれわれは無知だ。でも、その無知が今、きわめて急速に訪れつつある。