ギグエコノミー企業は、ワーカーに提供しているフレキシビリティや自由を謳うのが好きだ。しかしInstacart(インスタカート)、Uber(ウーバー)、DoorDash(ドアダッシュ)、Lyft(リフト)などを通じて仕事を探す人にとって、経済的そして物理的なリスクは報酬を上回る。
新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックによってソーシャルディスタンスが求められる時代に、リッチな顧客のための必要不可欠なサービスのフロントライン提供者となっている請負人は、福利厚生の欠如(未訳記事)、チップや賃金の逸失(未訳記事)、バックエンドサポートの欠乏(未訳記事)に苦慮してきた。
フードデリバリー分野のスタートアップであるDumpling(ダンプリング)は、ワーカーに「自営権」をもっと与えることでギグエコノミーの現状を変えようとしている。DumplingはInstacartプラットフォームから離れて自分のパーソナルショッピング事業をスタートさせるのに必要なリソースをショッパーに提供する。
Dumplingはフードデリバリーにフォーカスしている。パンデミックによってフードデリバリーが家にこもりがちな市民にとって必要不可欠なサービスになったからだ。これまでのところ、米国50州のショッパー2000人超が「個人Instacarts」を展開している。
Dumplingの共同創業者であるJoel Shapiro (ジョエル・シャピロ)氏とNate D’Anna(ネート・ダナ)氏は大学で出会い、一緒に働く方法を探していた。
それぞれNational Instruments(ナショナル・インストラメンツ)とCisco(シスコ)で働いていたシャピロ氏とダナ氏は、Dumplingを立ち上げるために企業での仕事に見切りをつけた。
「ギグワーカーの問題を解決する企業を実際に立ち上げたらどうなるだろうを考えていた」とダナ氏は話した。
Dumplingの仕組みについて語る前に、まず明らかな点について述べたい。すべてのギグワーカーがビジネスオーナーになりたいわけではなく、これはスタートアップが成功するために必要とすることと正反対だ。連邦準備銀行の最新レポートによると、過去10年間のギグエコノミーの激増にもかかわらず、主な収入源としてギグワークをしていると答えた人は成人の3%にすぎない。この数字は成人の10人に1人がフルタイムのギグワーカーであるという割合より少ない。
ギグエコノミーに関する大きな問題はワーカーの位置付け(分類)であり、ショッパーをさらに支えるために労働組合や協同組合の興隆につながっている。
Dumplingも未来がどうなるかを示すものの1つだ。
シャピロ氏は、すべてのギグワーカーがDumplingを必要とするわけではないことを認めている。しかしギグワーカーが自分のビジネスを始める場所としてDumplingをアピールする代わりに、同氏はスタートアップがワーカーにより多くの金をもたらすことができると考えている。
「複数のデマンドアプリを何年も利用し、ワーカーがある段階で搾取され、ワーカーへの支払いは大幅に減るだろうということを我々は知っている」とシャピロ氏は述べた。「我々は、ワーカーが足元をすくわれないよう自身でコントロールできるようにしたい」。
Dumplingの仕組み
まず初めに、Dumplingはユーザーが自前のLLC(有限責任会社)を作るのをサポートする。そしてショッパーが顧客のグローサリー買い物代金を建て替えられるようにするクレジットカードや、配達や顧客とのコミュニケーションを一元管理できるアプリ、メンターシップやワーカーサポートのためのフォーラムなど、さまざまなプロダクトを提供する。
Dumplingによると、ショッパーは主に他のデリバリーアプリの注文の品を届ける時のマーケティングと自己宣伝を通じて顧客を獲得する。一部の客は最近、自分が住むエリアから注文するのにショッパーを探そうとDumplingに直接アクセスするようになった。
Dumplingではチップは全額ビジネスオーナーの取り分だ。Instacartと違ってDumplingでは、ビジネスオーナーが顧客にどのようなチップオプションを提示するかを決めたり、デフォルトのチップ最低額を設定したりできる。また顧客がレビューを残せるようにもなっている。
Dumplingはいくつかの方法で利益を上げている。まず、ショッパーに1度限りの設定料10ドル(約1070円)を課金する。ここにはDumplingクレジットカード、ウェブサイトでのリスティング、ショッパー検索ツールが含まれる。そしてDumplingは決済費として月39ドル(約4180円)もしくはショッパーが仕事を予約するごとに5ドル(約540円)を課金する。一方、顧客は決済手数料として注文額の5%を払う。
DumplingのプラットフォームではショッパーはInstacartの最大3倍稼ぐことができるとDumplingは主張する。しかし、計算してみよう。
月額手数料もしくは決済ごとの5ドルはチップの実入を減らすが、ユーザーは1回の注文ごとに平均33ドル(約3540円)稼ぐ、とDumplingはいう。一方のInstacartは、NerdWalletの記事によると、フルサービスのショッパーへの支払いレンジは1回の注文あたり7〜10ドル(約750〜1070円)と推定される。
Dumplingのショッパーは自分のレートを決めることができるため、顧客は単純にその日一番安いショッパーに集まるかもしれない。そうしてレートが安く保たれるようショッパーの間で競争原理が働く。
しかし、Dumplingがショッパー同士の争いにはならないと考えている理由がいくつかある。
まず第1に、顧客の大半は買い物を手助けしてもらうのに自分に合うショッパーを繰り返し利用する。このリピート性によってショッパーはフレキシビリティと安定性、収入を確保できる。ショッパーは1週間単位でグローサリー配達時間をスケジュール設定できるため、注文の管理が可能だ。Uberで車を走らせて運転時間を最大限長くする必要はない。
2つめに、シャピロ氏は顧客がショッパーを利用する際に価格だけがその理由にならないことを願っている。レビューやレーティングに加え、ビーガンや地元のファーマーズマーケット、食事制限、特別な食事などにフォーカスしていることも大きな売りだとシャピロ氏は説明した。具体例を挙げると、あなたがケトジェニックダイエットを始めたばかりなら、ケトに詳しショッパーに材料を選んでもらうことができる。
過去3カ月、Dumplingのプラットフォームにはショッパーに関する何万ものレビューが寄せられた。Dumplingショッパーの平均レーティングは5スターのうち4.9だ。
壊れたものは直せない
Dumplingはギグエコノミーにオーナーシップ(自営権)をもたらしたいと考えているが、成長中のネットワークをサポートする方法を実験している。1つは、健康保険と福利厚生の料金割引だ。間もなくDumplingはプラットフォームを利用する全ショッパー向けに詐欺防止の特典を提供しようとしている。
Dumplingはギグエコノミーを正すことはできないが、ギグワーカーの働き方やキャリアの築き方を大きく変えることはできる。特に唯一の仕事としてギグエコノミーに頼っている人にとってはそうだ。
シカゴにおける最初のInstacartショッパーの1人であるMatthew Telles(マシュー・テレス)氏はInstacartプラットフォームの初期について懐かしむ。すべての注文で平均20%のチップを受け取り、1回の配達で5マイル(約8km)以上運転することはほぼなかった。そしてスタッフのエンジニアリング会議に招かれてプラットフォームについてのフィードバックを求められたことすらあった。
その後、Amazon(アマゾン)がWhole Foods(ホールフーズ)を買収した。テレス氏はこの買収がInstacartに可能な限り早くマーケットのシェアを握るよう(節約も含まれる)プレッシャーをかけたと考えている。テレス氏はあちこちから注文を受けた。Instacartはチップ廃止で脅した。そしてエンジニアリング会議への招待は止まった。
それから5年、テレス氏はショッパーたちの思いを代弁するためにInstacartに残っている。彼の取り組みは、集団訴訟でInstacartから数百万ドル(数億円)引き出すのに貢献した。パンデミック中に独占度合いを高めたInstacartは最近、初めて黒字化を達成した。Instacartのショッパーネットワークは引き続き同プラットフォームのサポートの欠如を訴えていて、より良い賃金、デフォルトのチップ最低額の変更、個人防護具を求めてストを何回か実行した。
「Instacartとの戦いは今や私の趣味」とテレス氏は話した。「そしてDumplingが今の私の仕事だ」。
Dumplingは収益性については明らかにしなかったが、注文数は20倍に増えていると述べた。空前の成長により、Dumplingはつい最近、Forerunner VenturesがリードするシリーズAラウンドで650万ドル(約7億円)を調達した。本ラウンドにはFloodgateとFUEL Capitalも参加した。Dumplingの累計調達額は1000万ドル(約11億円)となった。
テレス氏はリピーター顧客のためにグローサリーとともに「感謝の食事」をピックアップすることができるフレキシビリティを愛している。彼はDumplingアプリでフルタイムで働くことで労働時間が半分になり、収入は倍に増えた。Instacartの初期の頃のように、Dumplingの共同創業者たちとの会議に招待されていることもまた彼にとって嬉しいことだ。
画像クレジット:Bryce Durbin