編集部注:Jonah BergerはWharton Schoolのマーケティング教授で、New York Timesのベストセラー書籍、”Contagious: Why Things Catch On“の著者。Twitterアカウントは@j1berger。
なぜ、会社や製品やサービスによって、クチコミの多いものと少ないものがあるのだろうか。それは運ではない。科学だ。ソーシャルメディアの専門家は、つまらない製品やつまらないアイデアについて話す人はいないと説明する。だからみなさんは、面白い製品やブランドほど話題になると考えるたろう。驚いたことに、そうではない。
スタートアップはクチコミ次第で生きも死にもする。新しいウェブサイトであれ、革新的リクルーティング・サービスであれ、B2Bサイトであれ、スタート直後の消費者認知度は常に低い。誰もあなたの存在に気付かない、だからクチコミで広げる必要がある。しかし新しいベンチャーの殆どは大きな広告予算を持っていない。オーガニックに成長しなければならない。既存の顧客やファンに新たな客を呼んできてもらう ― ひとりずつ。
ではなぜ、他より早く話題になる会社や製品やアイデアがあるのだろうか? クチコミを得るには奇跡が必要であるかのように考える人がよくいる。幸運でなくてはいけない。市場環境が最適でなくてはならない。3つか4つの説明不能な要素が不可解な方法で組み合わさってマジックが生まれる、等々。
それは面白い理論ではあるが、完全な誤りである。
人はよくクチコミを得るには奇跡が必要であるかのように考える。幸運でなくてはいけない
クチコミにはそれを支える科学がある。それはランダムではなく、人がある物より他の物について話す理由は運ではない。行動経済学によって人がなぜ特定の選択をするのかが研究されているように、あるいは統計学者が「ビッグデータ」から人間行動に関する洞察を引き出すように、研究者たちはわれわれが何を話題にしシェアするかを決める際の人間行動の分析に懸命だ。
例えば最近のある研究で、私は同僚と共にコカコーラ、ウォルマートから小さなスタートアップにいたるまで約1万種類の製品やブランドに関するクチコミデータを分析した。ハイテク企業からサービスまで、B2Bから消費者向けパッケージ製品まであらゆる物を対象とした。別のプロジェクトでは 約7000件のオンラインコンテンツについてバイラル性を分析した。政治や国際ニュースから、笑いのネタやスポーツやファッションまで。
しかしこれらの研究の焦点は、どの商品がよく話題になるか、あるいはどのタイプのオンラインコンテンツがバイラルに広がるのかについてだけにあったのではない。むしろ重要なのはこれらの結果の背後にある動機を理解することだった。ある物事が他よりよく話題になり、あるいはある物事がバイラルになる際に潜む人間行動。異なる感情(悲しみ対怒り等)が人々のシェアする内容に与える影響。オンラインとオフラインのコミュニケーションにおけるトップ・オブ・マインド[意識の一番上にあるもの]について話すかどうかに与える影響の違い。会話の心理学。ソーシャル伝達の科学、等々。
例えば「トリガー」を考えてみる。ディズニーは、Cheerios(シリアルのブランド)より面白い。それはハマりやすく感情に訴える体験だ。しかし、問題は人々がそれを頭に浮かべることはあまり多くないことだ。たしかにテーマパークに行った直後はそのブランドを多く口にするが、何週間何ヵ月たってからは、思い出すトリガーがない限り、話題にはしない。
Cheeriosは面白さには欠けるが、人は1日1回365日朝食を食べる。たとえCheeriosを買わなくても、毎週シリアル陳列棚の前を通るたびに目に入る。その結果Cheeriosの方がずっと多くトップ・オブ・マインドになる。製品やアイデアがいくら面白くても、人々がそれを思い出すトリガーがなければ、頭に浮かばない。トップ・オブ・マインドは即ち、口をついて出てくるかということだ。
この研究で発見したクチコミ促進要因は、トリガーだけではない。私たちは人々が話しシェアするのを推進する6つの原理が働く様を、繰り返して見てきた。6つの原理の頭文字をとってこれをSTEPPS(Social Currency、Triggers、Emotion、Public、Practical Value、Stories)と呼ぶことにする。
Social Currency[ソーシャル流通性]。普段乗っている車や着ている服と同じように、われわれが何を言うかによって、人々がわれわれを見る目が変わる。ある物事によってその人が良く見えれば見せるほど、人はそれを伝えたくなる。
Triggers[トリガー]。最初に頭に浮かぶものが、最初に口から出る。ピーナツバターからジャムを連想するように、ある製品やアイデアを思い出すことが多いほど、よく話題に上る。
Emotion[感情]。人は気にかけているものをシェアする。ポジティブ(ワクワク感やユーモア)であれネガティブ(怒りや心配)であれ、感情の高ぶりはシェアを促進する。
Public[公開性]。人は他人の真似をする。しかし、猿が見たものを真似ると言われるように、見えやすいものほど、真似しやすい。公開の場で見えやすいものほど、真似を促進する(例:iPodの白いヘッドホン)。
Practical Value[実用価値]。人は自分の見栄えを良くしたいだけではなく、人の役にも立ちたいと思っている。だから役に立つものほどシェアする。資金調達10の方法や、交渉に役立つ5つのヒント、などを思い浮かべてほしい。
Stories[物語性]。誰も自分を歩く広告塔とは思われたくない。もっと大きな物語の一部について話したい。だから「トロイの木馬」物語、即ち自分のブランドが便乗するためのメッセージを作るのである。
これら6つの原理には、クチコミを増やすための処方が含まれている。これは伝染コンテンツを作り、より多くの人々が製品やアイデアついて話すようにするためのレシピだ。
このレシピ通りにすればバイラルなヒットが保証されるのか? ノーだ。しかし、打率を上げることはできる。毎打席ホームランを打てる人はいないが、打撃の理論を理解することによって、ヒットや二塁打、時にはホームランを打つことによって打率を上げることができる。
クチコミに関しても同じだ。なぜ人が話題にしシェアするかの科学的根拠を理解することによって、企業や組織は製品やアイデアのクチコミを増やし、ヒットになるのを助けることができる。
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(翻訳:Nob Takahashi)