【編集部注】執筆者のDesmond Lim氏はQuickForceの創設者。
Uberがアメリカ各都市の移動手段に変化をもたらし、SpaceXがアメリカ国民に火星旅行を提供しようとしている。Oscar Health Insuranceが、健康保険をアメリカ国民にとって身近なものにし、ZocDocが医者のアポ取りを簡素化している。Razerが世界中のゲーマーから愛される製品をつくり、FanDuelは、スポーツファンが楽しめるファンタジースポーツのプラットフォームをつくり出した。これらの先進的企業の共通点に気づいただろうか?実は、創設者のうち最低ひとりが外国生まれの起業家なのだ。
ヴァージニア州アーリントンを拠点とする、無党派シンクタンクのアメリカ政策国家基金(the National Foundation for American Policy)のある調査によると、アメリカ国内の10億ドル規模のスタートアップのうち、51%(87社中44社)を移民が創設しており、さらに70%以上(87社中62社)で移民が重要なポストについている。
さらに同調査では、これらの企業が合計で6万5000以上もの雇用を生み出したことがわかっている。ここから、移民がアメリカの雇用創出や起業家精神、スタートアップのエコシステムに関して、大きな役割を担っていることが見てとれる。しかし、アメリカでは厳しい移民政策が敷かれており、「スタートアップビザ」に関する法案も未だ可決されていない。スタートアップビザに関しては、現在の情勢を考えると、段々法案可決が難しくなっているとさえ言える。
私は、最近修士課程を修了し、キャリアに関する様々なオプションについて模索する中で、自分で会社を立ち上げるか、スタートアップで働こうという決意を固めた。ほとんどの留学生のように、当初私は、アメリカに滞在し続けて起業やスタートアップでの勤務を行うことは不可能だという印象を持っていた。
私の友人の多くが、H-1Bビザのスポンサーとなり得るような信用力のある会社で勤務した方が良いだろうという思いから、AppleやGoogle、Facebookへ就職していった。さらに、毎年4月1日に行われるH-1Bビザの抽選システムのせいで、ビザを取得するチャンスは一度しかないとも聞いていた。
移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしい。
そのため、外国生まれの起業家精神溢れる人たちにとっての「安全策」は、スタートアップの道へ進む前に、大企業で数年間働くというものであった。学生によって運営され、学生が立ち上げたスタートアップへの投資を行うDorm Room Fundという投資ファンドも、留学生が自らの事業を続けたり、スタートアップに就職したりするのではなく、大企業への就職という選択肢に走る1番の理由は「移民問題」だと語っている。
しかし、私のメンターや移民問題に詳しい弁護士と話をしていくうちに、このような話のほとんどが嘘であり、次のSpaceXやUber、Palantirとなる企業の立ち上げや、スタートアップでの勤務を目指し、アメリカ滞在を決意した起業家たちにとって、以下のような都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について知っておくことが大切だと学んだ。
H-1Bビザの抽選結果は、勤めている企業のサイズやブランドで決まる
真実:私の経験からいって、FacebookやTeslaで働いているH-1Bビザの申請者に許可が下りる確率は、その他の条件が全く一緒だとして、社員5人のアーリーステージスタートアップで働く申請者と同じである。確かに、FacebookやTeslaの人事部の方が申請書の準備については頼りになるかもしれないが、重要な点は、抽選結果が全くのランダムで決まるため、勤務先のサイズやブランドに関わらず申請者全員にとって、H-1Bビザがおりる確率は同じだということだ。
H-1Bビザの申請は、オプショナルプラクティカルトレーニング(OPT)期間の一発勝負
真実:2016年3月11日にアメリカ合衆国国土安全保障省は、新たなルールを制定し、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Math)(略してSTEM)の学位を持っている一定数の留学生については、全学部の留学生に許可される12ヶ月のOPT期間に加えて、さらに24ヶ月間の延長が認められることとなった。これによって、1回目の申請でビザがおりなくても、2年目以降に再度申請のチャンスが与えられることになる。
さらに、申請期限が4月1日であることから、もしも学部4年生、または大学院の最終学年在籍中に就職先が決まれば、OPTがはじまる前にH-1Bビザの申請ができるので、実質的にビザ申請のチャンスが1回分増えることとなる。
アメリカに滞在するには、H-1Bビザしかオプションがない
真実:H-1Bの他にも、B-1、 O-1、 E-2、 J-1、 L-1、F-1など取得できるビザには様々な種類が存在する。B-1(商用ビザ)であれば、出張者として6ヶ月間アメリカに滞在が可能だ。また、もしも科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で、これまでの実績や評価をサポート材料に、申請者が卓越した能力を持っていることを証明できれば、O-1ビザがおりる可能性もある。また、新規・既存問わず、もしもアメリカ企業に多額の投資を行っていれば、E-2ビザが取得可能だ。L-1ビザは、同企業内での転勤者向けのビザで、母国で登記された会社の社員を、子会社設立のためにアメリカへ派遣する際などにぴったりだ。
抽選がH-1Bビザを取得するための唯一の方法
真実:H-1Bビザ取得には他の道もある。マサチューセッツ大学ボストン校のVenture Development Centerでは、the Massachusetts Global Entrepreneur-in-Residence (GEIR)というプログラムが提供されていて、外国生まれの起業家が、事業を継続しながらGEIRのメンターとして活動することで、発行上限無しのH-1Bビザを取得し、アメリカに滞在できるようサポートを行っている。GEIRプログラムは、2014年にマサチューセッツ大学とMassachusetts Technology Collaborativeの試験的プログラムとしてはじまった。さらに、シンガポールまたはチリ生まれの人については、H-1B1と呼ばれる非移民ビザ(永住を認めていないビザ)を取得でき、このビザが発行上限に達することはほとんどない。
外国人はアメリカで会社を設立できない
真実:私の会社の顧問弁護士から聞いた話によると、外国人でもアメリカで会社を設立することができる。実際、私と同じ大学にいた外国人の同級生たちの多くが、在学中もしくは卒業後に会社を登記している。しかし、労働に対して正当な報酬を受け取るためには、労働が許可されているビザをもっているか、OPT下になければならない。
自らが共同設立者のひとりである会社を通して、H-1Bやその他の非移民ビザの申請を行う際は、外国人が株式の過半数を保有することが認められていないため、牽制力のある取締役会や、申請者以外の主要株主の存在から、申請者が会社に対して支配権を持っていないということを証明しなければならない。
弁護士に法外な費用を払うことがビザ取得の唯一の手段
真実:アメリカに滞在して働きたいという外国人のための情報が、オンライン上でだんだん増えてきている。そのため、ビザ取得を目指す人は、オンライン上の情報にアクセスしたり、最近増えてきているClearpath ImmigrationやLegal Heroなどの法律系スタートアップに相談することができる。
その他にもアメリカ国内には、外国人起業家をサポートし、彼らの野望を叶える手助けをしているスタートアップ関連プログラムがたくさん存在する。その中でも、ミッション重視の外国人起業家向けファンドであるUnshackledは、選別された外国人起業家の、労働ビザや永住権獲得に必要なスポンサーに関する問題対応のサポートを行っている。
アーリーステージスタートアップへの就職や起業を志す、熱意あふれる起業家たちにとって、自分のキャリアにおける次のステップにふさわしい場所を決める際には、移民政策に関する都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について理解することが重要だ。移民に関する情報は分かりづらい上に、オンライン上の情報は片手落ちであることが多い。しかし、ひとつだけ確かに言えるのは、もしもあなたが、自分のスタートアップのアイディアに真の情熱を持っているなら、移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしいということだ。
著者注:私は、最近ハーバード大学を卒業したシンガポール生まれの起業家です。私自身は弁護士ではなく、アーリーステージスタートアップにおける勤務経験のある起業家として、私の個人的な経験をもとにこの記事は書かれています。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)