「今は個人がスマホからTwitterやInstagramなどのSNSを通じて気軽に情報発信する時代。だからこそ“ファンクラブ”の仕組みももっと簡単にできるはず。スマホさえあれば誰でも気軽にファンクラブを作れて、ファンと交流できるような空間を作りたい」ーーそう話すのは8月5日にファンクラブ作成サービス「CHIP」をリリースしたRINACITA代表取締役の小澤昂大氏だ。
公開から約2週間が経った8月21日時点で同アプリ内には1700個ほどのファンクラブが開設。ユーザー数は約1.3万人で、実際に課金しているユーザー(同アプリでは“CHIPする”という表現を使っている)もすでに1400人ほどいるという。
多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが登録していることもあって、SNSでもちょっとした話題になった。
テーマは“ファンクラブの民主化”
冒頭でも少し触れたが、CHIPはスマホアプリ(現在はiOS版のみ)から誰でも自身のファンクラブを開設できるサービスだ。
ファンクラブを作るのに必要なのは、テーマ画像を選びファンクラブの名前と説明を入れて、会員費と会員証のテーマを設定するだけ。説明文をどれだけ丁寧に書くか次第だけど、おそらく数分あればファンクラブができるはず。試しに僕も作ってみたけど、かかった時間は3分ほどだった。
会員費は月額100円から10万円までの範囲で100円単位で選ぶことができ、特にリターンなどを前もって決めておく必要もない。一方でファンクラブを通じてでできることも現時点では少なく、基本的には開設者からテキストや画像を投稿し、それについてファンがコメントするのみ。
この辺りは今後アップデートして行く予定で、たとえばライブ・音声配信機能やコミュニティ要素を強化した機能などを検討しているようだ。
小澤氏によると、今はイラストレーターやデザイナーのファンクラブが1番多いそう。そのほか音楽系のアーティストやアイドル、モデル・俳優、YouTuber、写真家など幅広い。nanapi創業者の“けんすう”こと古川健介氏や、エンジェル投資家の有安伸宏氏など、TechCrunch読者の皆さんにとっては馴染みのある起業家も自身のファンクラブを作っている。
もちろんファンクラブという仕組み自体はずっと前からあるもので、Webベースでファンクラブを作れるサービスも存在してはいたものの「開設するのに敷居が高かった」というのが小澤氏の考えだ。
「事務所に入っているようなアーティストや影響力のあるクリエイターだけでなく、個人で活動していてまだファンが少ないアーティスト・クリエイターでもファンクラブを作れるようにしたかった。やりたいのは“ファンクラブを民主化”すること」(小澤氏)
近年では「CAMPFIREファンクラブ」や「pixivFANBOX」など、クリエイターが継続的に応援してくれるファンを獲得できるプラットフォームも増えてきている。CHIPでは“スマホ”にフォーカスすることで、クリエイターとファン双方にとってより身近でアクセスしやすい環境を作るのが狙いだ。
ドラムに打ち込んだ20歳の起業家が立ち上げたスタートアップ
RINACITAは2018年3月の設立。20歳の小澤氏を中心に若いメンバーで構成されるスタートアップで、これまでSkyland VenturesとEast Venturesから資金調達をしている(金額は非公開)。
代表の小澤氏は以前からドラムに打ち込んでいて、大学進学前にはアーティストの道に進むことも本気で考えていたそう。小澤氏の場合は最終的にドラマーではなく大学を選び、今は起業家としてチャレンジをしているけれど、同じように悩んだ結果アーティストやクリエイターの道を選んだ人達を支えるプラットフォームを作りたいという思いがあった。
「才能があって努力もしているけど、環境やお金が原因で夢を諦めざるを得ない人も少なくない。ニッチな領域だと注目を集めるのが難しいなど、活動しているジャンルにも左右される。お金になりやすいとか、人気を集めやすいジャンルとか関係なく、アーティストやクリエイターがもっと自由にチャレンジできるようにしたいと考えた」(小澤氏)
目指しているのは、クリエイターにとって新たな収益源にもなるのはもちろん、自分の活動や作品に共感して応援してくれようになったファンとのつながりが深まっていくようなサービスだ。
とはいえCHIPはまだまだ始まったばかり。上述した通り現時点の機能は非常にシンプルだし、一定数のファンを獲得できているのはインフルエンサーなど一部のユーザーだ(CHIPはファンがいなくても気軽に利用できるのがウリなので、それでもいいのかもしれないけれど)。
「まずは各ユーザーが興味のあるファンクラブとうまく出会えるような導線(検索性)を強化していきたい。ある程度ファンクラブを作る障壁は低くすることができたと思うので、あとはコミュニティの熱量を継続できる仕組みを作れるかどうか。たとえばライブ配信や音声配信機能なども検討してはいるが、アーティストやクリエイターがCHIPの運営に多くの時間を割かないと継続できないのは目指すべきところではない。そうしなくても盛り上がるような仕掛けを作ることが、今後の課題だ」(小澤氏)