テクノロジによる失業増大は労働と経済の(人類史上初めての)新しい行き先を示しているのだ

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[筆者: David Nordfors](Vint Cerfと共に仕事のイノベーションのためのサミットi4j(innovation for jobs)を主催。彼の前の記事。)

機械がチューリングテストに合格すると人間がロボットにリプレースされてしまう、と心配する人たちがいる。すでにそのリプレースは始まっているから、激しく心配する人がいても不思議ではない。

チューリングテストでは、二つの部屋にひとつは人間、もうひとつには機械…コンピュータ…を入れておく。どちらに機械が(人間が)いるかを知らない質問者が両者にさまざまな質問をして、その答を聞いた質問者が、どちらが機械か正しく判定できなかったら、その機械はテストに合格となる。そして、ロボットが人間の仕事を奪う

質問者がレストランのボスだったら、どうだろう。二つの部屋では、それぞれ人間と皿洗い機が皿を洗っている。ボスは汚れた皿を渡す。どちらの部屋からも、きれいな皿が返ってくる。皿洗い機は、チューリングテストに合格した!

“おい、それはチューリングテストじゃないぜ”、とあなたは言うだろう。“ボスは何も質問してないだろ”。でも、そんな苦情はぼくじゃなく、そのボスに言ってくれ。“皿洗い機は皿を洗うためにある。話をするためじゃない”、と彼は言うだろう。

彼の言うとおりだ。質問は正しく答えられる必要があり、そして皿は、もっとも安くもっともきれいに洗われる必要がある。今の私たちは、そういう、作業中心型(task-centered)の経済を生きている。作業中心型の経済では、皿洗い機がチューリングテストに合格する。機械が人間をリプレースする。物が、より安く作れるようになる。しかしどれだけ安くなっても、人間がそれを買うためには収入が必要だ。でも機械にリプレースされた人間には収入がないから、経済は縮小する。

これに対して、人間中心型(people-centered)の経済は、人間の価値を最大化し、近未来において作業中心型経済を打倒できる。人類史上初めて、一人一人の人間の技能や才能や情熱に合った仕事を、作り出せるようになる。労働経済はいわゆるロングテール型になり、そこでは仕事のためのeBay(job-eBays)や仕事のためのMatch.com(job-Match.coms)が、今日のMonster.comsをリプレースする。

人間中心型経済でも、チューリングテストはチューリングテストでしかない。レストランのボスは、今度は話をし、質問をする。すると彼は、人間と皿洗い機をすぐに区別できる。機械は皿を洗うが、ボスは人間とチャットして、レストランの評価を高めるために一緒に何をすべきかを話し合う。そのためには、人間にしかないクォリティをすべて活用しなければならない…そのために未来のITには新しい巨大な市場が生まれ、Vint Cerfとぼくが前に “How to disrupt unemployment”(失業をディスラプトする方法)でスケッチした“Jobly”のようなツールが次々と生まれる。

人類史上初めて、一人一人の人間の技能や才能や情熱に合った仕事を、作り出せるようになる。労働経済はいわゆるロングテール型になり、そこでは仕事のためのeBay(job-eBays)や仕事のためのMatch.com(job-Match.coms)が、今日のMonster.comsをリプレースする。

人間中心型の経済は、前に書いたように、労働市場に新たに提供される”140兆ドルの巨大なイノベーションの機会”だ。作り出される新たな価値の量とその生産性が、急上昇する。経済成長率は指数関数的に増大する。人びとの新しい消費機会には必ず、労働者の収入を増す新しいイノベーションが伴う。収入が増えれば支出も増え、ミドルクラスの活況が戻ってくる。

テクノロジが失業を増やすという説には、誤解がある。そもそも、失業者が増えれば収入が激減し、作業中心型経済も成り立たなくなるはずだ。ロボットが人間の仕事をすべてリプレースし、次は消費行動もリプレースするのか。そしてわれわれ人間は崖から谷底へ落ちてしまい、作業中心型経済は人間抜きで黙々と動き続けるのか。

チューリングテストの部屋に、皿洗い機でなく究極の人工知能が入るようになれば、人間のやることがすべて機械にできるかもしれない。

そうなるとボスは、どんな質問をしても人間と機械を区別できない。このテストが終わったら一緒に飲みに行こうよ、とボスが言うと、テストに合格したい機械は“いいですね、楽しみです”、と言うだろう。ボスは駆け寄ってドアを開ける。そしてびっくり仰天する。

だからコンピュータは“チューリングテスト”には合格しても、ぼくが“ブーバーテスト”(Buber test)と呼ぶテストには合格できない。ブーバーとは、“I and Thou”(我と汝)を書いた哲学者Martin Buber(マルティン・ブーバー)のことだ。

経済を論ずるときには、ブーバーテストがチューリングテストに劣らず重要である。人間的な経済は人生の意味を定義する。そして意味は、人と人との結びつきを強くし、ほかの生き物のことにも関心を向けさせる。

関係には二つのタイプしかない、とBuberは言う: “I-You”と“I-It”だ。“I-You”は、ほかの生き物と結びつける。その感覚は、物との関係とはまったく違う。ぼくの友だちは“You”だが、ぼくのコンピュータは“It”だ。ブーバーテストは、何を‘するか’ではなくて、何で‘あるか’をテストする。

人間は、一人では生きられない。私たちは、“You”なくして自分であることはできない。孤独感は、“You”によってのみ癒やされる。孤独は、一日にタバコを15箱吸うのと同じぐらい、健康を害する。そしてイギリスでは高齢者の5人に2人が、テレビが唯一の友だちだ、という。これを危険と見なさない経済を、健全な経済と呼べるだろうか?

むしろ、経済を論ずるときには、ブーバーテストがチューリングテストに劣らず重要である。人間的な経済は人生の意味を定義する。そして意味は、人と人との結びつきを強くし、ほかの生き物のことにも関心を向けさせる。一方、何かを‘する’ための方法は、物(アイデア、対象物、活動など)に関心を向けることによって作り出す。

そんな曖昧なものを経済とは呼べない、と思う人もいるだろう。それを、数字で表せるのか? 友情や親密さや親しい人間関係にドル記号($)はつけられない。だから“You”が経済になるためには、それを“It”として扱わなければならない、と彼らは言うだろう。

もっとも有能な人が仕事を取るのは当然だ、という考え方がある。仕事は、友だちと分け合うことができない。仕事が、血縁集団やOB集団に独占されることも、少なくない。

しかしそれでも、仕事は、好きな人や信頼できる人と一緒にした方がよくできる。友情や友好関係を経済価値と見なさないのは、間違っているだろう。われわれが、作業中心型経済という沈みゆく船に乗っているかぎり、そんな価値観は生まれないし普及しない。

OB集団が醜いのは、彼らが仕事を友だちに渡さないからではない。醜いのは、OB集団が新しい友だちを迎え入れないことだ。OB集団は、排他的だ。

でも、インスピレーションの源泉は他者への共感であり、それが何かの選択や企画のベースになり、チームワークと文化を育てる。

私たちには、ドルを目的ではなく手段とみなし、人間間(かん)の結びつきを良くすることを意図とする経済が必要なのだ。

共感。それがあれば、世界を多面的に見ることができ、同僚やクライアントやユーザや(今および将来の)顧客のそれぞれに、その人の世界があることを理解できる。

“まず最初に人間のことを考える‘people first’主義によって、デザイナーは、潜在的なニーズにもマッチした本当に求められているデザインに到達できる”、IDEOのファウンダでCEOのTim Brownは、そう語っている。

だから人間的な経済は、ほかのどんな経済よりもベターな経済だ。ただしその経済を量るための、新しい測度を見つける必要がある。たしかに人との共感は売上を増すためのレシピだが、人と人との結びつきを手段と考えたり、売上を作り出すことを意図とする罠に、陥ってはならない。

私たちには、ドルを目的ではなく手段とみなし、人間間(かん)の結びつきを良くすることを意図とする経済が必要なのだ。

共感のような、“I-You”のクォリティを測度とする経済モデルを考えることは可能だ。そしてそれを、有意な経済的価値に翻訳することもできる。心理学者たちを連れてきて職場やチームを量らせれば、彼らは、最良の経済は最良の方法で人びとを結びつける経済だ、と確言するだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

投稿者:

TechCrunch Japan

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