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1歩進んで、2歩下がる
テック業界におけるD&Iの問題は、多少改善されてきてはいるが、後退した部分もあることは否めない。改善された点として、人々は何が起きているのかをよく理解するようになり、進んで発言するようにもなった。また、人口動態から見たレプリゼンテーションという点でもいくらか進展はあった。
「こうした変化のペースは本当にゆっくりだが、性別、人種、民族性の点で改善が見られている組織があることは確かだ」とParadigm(パラダイム)のJoelle Emerson(ジョエル・エマーソン)CEOは言う。
「もう1つ変わったのは、ある種のニュアンスが会話に加味されるようになったことだ。単に前年と比較するのではなく、従業員のライフサイクルの段階ごとに明確な目標を設定する企業が増えている。こうした企業は、給与、採用、昇進、社員の感情について、より具体的な細かい質問をしている」とエマーソン氏は語る。
ここ数年、スラックやピンタレストなどのテック企業で、ダイバーシティ・インクルージョン関連の職に就いていたエマーソン氏は、こんなことは4年前には見られなかった、と話す。同氏によると、4年前は、エンゲージメント、帰属意識、意見の表明、リソースの利用などについて従業員が実際にどう感じているかを比較検討することはなかったという。
「今ここにいるのはどんな人間なのかという点ばかりに注目して、そこに至るまでの過程について考えることはなかった。社員の内面を見ていなかった」とエマーソン氏は語る。
「3つ目は、ダイバーシティとインクルージョンのニュアンスを加味した会話が行われるようになった点だ。注目すべきグループ、交差性、年齢、障害、経済状態などに関する会話が行われるようになった。非常に率直で遠慮のない会話さえ行われている。そうしたことの多くを推進しているのは、従業員アクティビズムだ」とエマーソン氏はいう。
従業員アクティビズムは、会社が間違った方向に歩を進めることでさらに活発化する。2019年11月、セクハラ疑惑で告発されていた2人の幹部に会社が1億500万ドル(約112億2000万円)を支払ったことに抗議するために2万人のグーグル社員がストライキを行った。社員たちは5つの要求を出したが、グーグルが対応したのはそのうち1つだけだった。
2019年2月、グーグルは、差別に関するいかなる事案についても社員に仲裁を強制することをやめるという決定を下した。これで厳密には社員側が勝利したのだが、この取り決めはグーグルの一時契約社員には適用されなかった。一方、グーグルは他の4つの要求には応じなかった。具体的には、給与や機会の不平等の撤廃の確約、セクシャルハラスメントに関する事実に即したレポートの公開、匿名で性的不品行を報告するためのプロセスの策定、ダイバーシティ最高責任者をCEO直属とすることの4つだ。
しかしその後、事態は悪化する一方だった。グーグルの社員は5月に再び決起せざを得なかった。今度は、社員が上司から受けたとされる職場報復に座り込みで抗議した。
2019年5月、ストライキを計画したために職場で報復を受けたとして2人のグーグル社員が会社を告訴した。グーグルのオープンリサーチ部門のリーダーでストライキ主催者の1人であるMeredith Whittaker(メレディス・ウィテカー)氏は、自分の役職が大きく変わったと話している。同じくストライキ主催者であるClaire Stapleton(クレア・ステープルトン)氏は上司から、降格処分と、部下を半分に減らすことを言い渡されたという。
当時、グーグルの広報担当者は次のように語った。
「グーグルは職場での報復を禁止し、明確なポリシーを公開する。申し立てられた苦情が無視されることのないよう、匿名で行う場合も含め、社員が懸念事項を会社に報告する経路を複数用意し、報復があったというすべての申し立てを調査する。」
その後、グーグルの社員はAlphabet(アルファベット)のLarry Page(ラリー・ペイジ)CEOの介入と、グーグル側が社員の要求に応じることを強く要請した。
しかしマイリー氏は、グーグルが当時からほとんど変わっていないことに驚いていない。社員の約20%がストライキに参加したが、もし50~60%の社員が参加していたらもっと強いインパクトがあっただろうとマイリー氏は考えている。
「ストライキとその目的には賛同する。社員たちが提示した問題と彼らの要求も支持する。ただ、やり方が間違っていたと思う」とマイリー氏はいう。
マイリー氏が言っているのは、ストライキ主催者がストライキの計画を事前に公表してしまったことだ。
「私だったら、ただストライキを決行し、会社に戻ってこちらの要求を突きつける。グーグルが正しいことをしたいと思っていると信じたいのだろうが、そうはいかない。グーグルも企業だ。企業は社員の力を制限する方法を知っている」とマイリー氏は語る。
ハラスメントが報告された後に社内で混乱が発生したのは何もグーグルだけではない。Riot Games(ライアットゲームズ)でも2019年5月に、やはりハラスメント問題をめぐって社員がストライキを起こしている。
ハラスメントで問題なのは、残念なことだが、告発された側には、非を認めた後でも復帰する道があるという点だ。さらに、数百万ドルもの退職金が支払われることもある。こうしたことはすべてオールド・ボーイズ・クラブと関係している。
オールド・ボーイズ・クラブに属する多くの人たちは、自分が犯した過ちの報いを受けるということがほとんどない、とパオ氏は言う。Dave McClure(デイブ・マクルーア)氏は、後に自身でも認めた性的不品行の後、500 Startups(500スタートアップス)の経営から身を引いたものの、のちに新しいファンドの設立に向けて資金を集めている。本記事の執筆にあたりマクルーア氏にコメントを求めたが回答はなかった。
「我々は、こうした人たちが問題を起こしたコミュニティに復帰するのを許している。そのまま居続けるのを許すことさえあり、復帰するためにいったん身を引く必要すらない」とパオ氏はいう。
SoFi(ソーフィ)の前CEO、Mike Cagney(マイク・キャグニー)氏は、性的不祥事のために会社を追われたが、新たに会社を設立しようと動き始め、2018年にはそのために5000万ドル(約53億4000万円)を調達した。キャグニー氏は2019年初めに、さらに6500万ドル(約69億5000万円)を集めている。
「ハリウッドでMe Tooハッシュタグ問題が起き、ベンチャーキャピタルやテック企業でも同様の事件が起きたのに、ハラスメント事件は相変わらず後を絶たない。ハラスメント加害者は、被害者よりも簡単に窮地を脱してしまう。それが大きな問題だ」とケイパー・クライン氏はいう。
ケイパー・クライン氏は例として、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏、Steve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏、Justin Caldbeck(ジャスティン・カルドベック)氏といった投資家の名前を挙げた。
「いくらでも白人の名前を挙げることができる」と同氏は言う。
ジャーベンソン氏とカルドベック氏は、本記事へのコメントを拒否した。サッカ氏にもコメントを求めたが回答はなかった。
このようなセクシャルハラスメント事件と、その後に加害者が復帰するという現状について考えると、人が本当に変化して名誉を回復することは可能なのか、という疑問にぶち当たる。最も大きな疑問は、こうした人たちがテック業界に残ることを許すべきなのか、それとも永久にブラックリストに載せるべきなのかという点だ。
「私は、人は変わることができると信じている。ただし、半年とか1年半で変わるとは思えない。彼らの新しい雇用契約にそうした条項が記載されたという話を聞いたことがない。ぜひそうすべきだと思う」とケイパー・クライン氏は語る。
2018年以降はっきりしてきたのは、労働者はもうだまっていないということだ。多くの労働者が、自分たちの力で会社は収益を出すことができるのだから、自分たちは会社に対して大きな影響力を行使できることに気づいている。ただし、本当の変化を起こすにはもっと組織的な取り組みが必要だとマイリー氏は指摘する。
「ごくわずかな人が握る並外れた影響力に対抗できるだけの組織的な構造、支持体制および機動力がなければ、変化は起こらないと思う。従業員が一致団結することが必要になるだろう。現行の体制から恩恵を受けている人たちが、それを変えようとするはずがないことは明らかなのだから」とマイリー氏は語る。
日本版編集部注:本稿は米国版TechCrunchが2019年6月に公開した記事を翻訳・再構成したものです。
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(翻訳:Dragonfly)