この20年は消費者インターネットとモバイルのイノベーションが主役だったけど、その次はバイオテクノロジやバイオインフォマティクス(bioinformatics)だろうか?
ここサンフランシスコにも、バイオテクノロジの世界とコンピュータ科学の世界に橋をかけようとする一握りのスタートアップがいる。
その一つがBenchlingだ。
約90万ドルをYCombinatorやSV Angel、Founders Fund、Draper Associates、そしてそのほかのエンジェルたちから支援された同社は、DNAのエディティングと分析を行うソフトウェアを、バイオテクの研究所や研究者に提供している。チームは全員がMIT出身で、コンピュータ科学と生物学の知識を持ち、これまでのバイオテクを支配してきた古めかしくて使いづらいソフトウェアを駆逐しようとしている。
“ソフトウェアの質が、生命科学のイノベーションを阻害している”、と同社のCEO Sajith Wickramasekaraは言う。“これまでのバイオのソフトウェアは、研究の現実を知らない者がプログラムを書いていたから、がらくたが多かった”。同社のチームには、TwitterやPalantir、Google、Facebookなどに在籍した技術者もいる。彼らの研究経験は、遺伝学、神経科学、合成生物学など、多岐に渡る。
彼は、今の研究者たちは研究のコラボレーションを、ファイルをメールしたり、Excelのスプレッドシートを使って行っているから、効率が悪い、とも言った。
同社の出だしはDNAエディティングソフトだが、長期的には生命科学のためのアプリケーションストアになるつもりだ。
“今想像しているのは、研究室の実験装置や測定機器などのハードウェアがすべてBenchlingのプラットホームに接続されていて、実験の結果などがWebの画面にすぐに出る、という使い方だ。人間研究員が手書きで何かを書いたりしないから、エラーも少なくなる”。
つまりそれは、Benchlingが提供するクラウドソフトウェアによって、データの設計と分析と共有が簡単にできる、という状態だ。同社の次のプロダクトは、画像マシンにインタフェイスしてゲルの電気泳動の実験画像を分析するソフトウェアだ。
今現在、Benchlingのユーザは2000の大学・研究機関と10社の営利企業だ。研究者は無料で利用できるが、企業はユーザ一人あたり50から100ドルを払う。たとえば、イースト菌に石油化学製品を作らせる、新しい抗生物質を作る、バクテリアに関する大規模な計算処理を行う、といった研究に同社のソフトウェアが利用されている。
Wickramasekaraは、今後の市場はきわめて大きい、と考えている。フル(ホール)ゲノムシーケンシングの費用はムーアの法則よりも急速に安くなっているし、Illuminaのような企業は最近、それをわずか1000ドルでできる機械を発表した。このような低コスト化は大量のデータを生み出すことになり、これからの研究者はそれを研究しなければならない。さらにまた、合成生物学という新しい研究分野があり、生物の組織体や部位のありとあらゆる設計が作り出されるだろう。
今後Benchlingのユーザが増えれば増えるほど、データのリポジトリが大きくなり、研究者はそれを容易に共有して研究に利用できるようになる。
同社の競合他社としては、たとえばTranscripticはごく最近410万ドルを調達して生命科学の“Amazon Web Services”になることを志向している。Transcripticは、ソフトウェアベンダのBenchlingと違って、“ソフトウェアとロボットによるリモートラボ”を学生や研究者たちに提供している。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))