フェムテックのInneが妊娠・避妊のためのホルモン追跡プロダクトを来年展開

ドイツ・ベルリン拠点のスタートアップであるInneがいきなり登場し、800万ユーロ(約10億円)のシリーズAを発表した。そして、2020年第1四半期に提供開始が予定されている、妊娠や避妊のための購読ベースのホルモン追跡プロダクトを少し明らかにした。

シリーズAはBlossom Capitalがリードし、Inneを初期から支援しているMonkfish Equity、そして多くのエンジェル投資家も参加した。エンジェル投資家にはTransferWiseの共同創業者Taavet Hinrikus(
ターヴェット・ヒンリクス)氏、DSTでマネージングパートナーを務めるTom Stafford(トム・スタッフォード)氏、Trivagoの共同創業者であるRolf Schromgens(ロルフ・スクロゲンス)氏が含まれる。

女性の健康アプリは近年テクノロジーがフル活用され、フェムテックというカテゴリーが確立された。月経や月経周期を追跡するClueFloのようなさまざまなアプリがある。一部のアプリは、女性が妊娠しやすい、あるいは妊娠しにくい日を予想する。こうしたアプリは、女性が自然な方法での避妊をしていたり、あるいは切実に妊娠を望んでいる場合に、体のシグナルを追跡するデジタルツールを提供してサポートする。

Natural Cyclesのような他のアプリはさらに一歩踏み込んで、自らのアプローチを「デジタル避妊」とブランド化している。追加の情報(通常は毎日の体温測定)から得られるサイクルデータに学習アルゴリズムを適用していて、これは従来の家族計画に比べてより洗練されていると主張する。しかし、若い女性をターゲットにした、押しが強くミースリードですらあるマーケティング戦略をめぐっては議論もある。

多くの女性がNatural Cyclesのメソッドを利用しながら妊娠した、との訴えを受け、Natural Cyclesのホームマーケットであるスウェーデンで医療機器を許認可する当局は数カ月にわたって調査を行った。その結果、避妊できなかった率はNatural Cyclesが小さく表示していた注意書きから外れるものではなかったが、Natural Cyclesは失敗するリスクを明記することに同意した。

問題なのは「デジタル避妊」という言葉が、簡単で手軽にできると意味しえること。便利なアプリという形で利用でき、往々にして誘惑するようなソーシャルメディアでの広告で広まっている。しかし現実として、ユーザーにとってはまったく楽なものではない。なぜなら、ユーザーたちはリスクすべてを実際に負っているからだ。

こうしたプロダクトをうまく生かすには、ユーザーたちは着実に行うようかなり専念する必要があり、約束された成功率をものにしようと鍵を握る項目に細心の注意を払わなければならない。

自然避妊はInneがうたっているものであり、ホルモン剤とは無縁の避妊という魅力的な約束をしている。ウェブサイトで同社はプロダクトのことを「革新的な自己認識のツール」と表現し、「体に負荷をかける避妊メソッドから守る」と主張している。妊娠しやすい(またはしにくい)期間を追跡するのに体温を活用しないというところにひねりがある。妊娠のしやすさ(しにくさ)を測る方法としてホルモン追跡にフォーカスしている。

Inneは、ホルモンレベルを測定するのに唾液を使ったテスト、そして診断デバイス(上の写真のもの)を開発した。このデバイスでは、自宅で行う使い捨てのテストからデータを抽出し、ワイヤレスでアプリに送信することができる。

創業者のEirini Rapti(エイリニ・ラプティ)氏は、プロダクトは小さく、ポケットに入れられるほどポータブルだとして「ミニラボ」と表現する。同氏のチームは2017年から研究・開発を行っている。スタートアップを立ち上げたことを声高に言うよりも、生化学に正面から取り組むことにフォーカスしてきた(Inneは本ラウンドの前にシード調達しているが、額は公表していない)。

現時点で、Inneは医療機器としての欧州の認証を取得している。しかしこれはまだ正式には発表されていない。

最初のプロダクトである大人の女性向けの自然避妊は、28〜40才の女性に最も適しているとされている。すなわちパートナーと定期的に関係を持つ年代だ。このプロダクトは来年、スカンジナビアでなど欧州のいくつかのマーケットで展開が始まるが、ユーザーのフィードバックに基づいて試行錯誤するため初めのうちはベータ版となる。

「Inneは基本的に3つのパートで構成される」とラプティ氏は語る。「ハードウェアは小さなリーダーを備えている。前に空いている部分があり、私たちはここをリトルマウス(小さな口)と呼んでいる。これを見るといつも笑ってしまう。このリーダーでホルモン濃度を測定する。これとは別に、唾液を使ったテストがある。30秒口の中に入れて唾液を集める。これをリーダーの中に入れるだけ」。

「テストをどこで行うかで違ってくるが、リーダーはBluetoothまたはWi-Fiでスマホとつながる。データを読み、それをスマホに送る。ユーザーはスマホでいくつかのことができる。まず最初に、ホルモンデータを見ることができる。そして月経周期の中でのホルモンがいかに変動するかをチェックできる。つまり、ホルモンが増えたり減ったりするのを目にする。これは排卵や女性の健康全体を示すものだ。我々は黄体ホルモンを測定するが、黄体ホルモンはあなたの体の内側の多くのことを教えてくれる。そうしたものをどのように追跡し、そしてそれが意味するところの理解の仕方について我々が案内する」。

避妊したい人と同様に、妊娠しやすい日を追跡する要素は当然、妊娠を望む人にも使えるものだ。

「このプロダクトはトラッカーではない。我々はあなたのデータを集めて、翌月にどのように感じるべきかを伝えようとしているのではない。ホルモンを追跡できるようにし、そしてこれがあなたの体の中で起こっている基本的な変化だと伝えるようデザインされている。なぜならそうした変化は、あなたが何かしらを感じるのだから。だから、そうした変化を感じるか、あるいは感じないか。もし感じないのだとしたら、それは何を意味するのか。あるいは変化を感じるのなら、何を意味するのか」。

「Inneではあなたのホルモンベースラインを構築する。なので、あなたがホルモンの測定を始めるとあなたのベースラインを示し、ベースラインから外れたものを見つける。それが何を意味するのか」。

もちろん、妊娠のしやすさ(しにくさ)を予測するためのメソッドとして、唾液を使ったホルモンのテストがどのくらい正確なのか、という点が鍵を握る。これについて、ラプティ氏はプロダクトの精度についてのデータを共有するのはまだ早い、と話す。しかし、数週間のうちにCEマーク(EUの基準適合マーク)認証の一環として実施したさまざまな研究についての詳細を公開する、としている。

「数週間で、軸となるデータが明らかになる」と同氏は話す。ホルモン測定がどのようになっているのかという点に関しては「生化学反応とそれを読むことの組み合わせ」とのこと。テストそのものは純粋に化学だが、ホルモン測定を解釈するためのアルゴリズムが適用される。その際はユーザーの月経周期の長さや年齢、テストを行なった時間帯といった要素も加味される。

妊娠しやすい(しにくい)時期を予測するためのベースラインとしてこのプロダクトが頼りにしている生化学のホルモンテストは、スティックに尿をかけて妊娠しているかどうかを検査するスタンダードな妊娠判定テストと同じような原理に基づいている。「我々は妊娠のしやすさに関係するホルモンに特にフォーカスしている」とラプティ氏は語る。

「我々のデバイスは医療機器だ。欧州のCE認証を取得し、その取得のためにはあらゆる種類の立証や評価の研究をしなければならない。彼らは間もなく認証を発表する。詳しくは語れないが、認証を取得するためにしなければならなかった検証研究やパフォーマンスの評価研究などはすべて完了した」。

社内でアプローチを開発して実証した一方で、テストを最適化するために多くの外部の診断企業と協業した。「ここで使われているサイエンスは極めてシンプルだ」とラプティ氏は言う。「ホルモンは特定の動きをする。分泌量が少ない状態から多い状態になり、また少なくなる。ユーザーがしたいのは傾向を把握すること。そして我々が構築しているのは、個人それぞれのカーブ曲線。バリューという点においてはスタート時とゴール時では異なるかもしれない。しかし、サイクル全般にわたっては同じだ」。

「アウトサイダーとして生化学のような分野に足を踏み入れると、将来できるかもしれない、信じられないようなことについて多くの学術機関が教えてくれる。本当にたくさんのことについて」とラプティ氏は付け加えた。「ただ、私が思うに、他社と差別化を図れているのは、製造可能性を常に持っていることだ。『ホルモンを測定する方法はたくさんある』とあなたは言うかもしれないが、開発には10年かかり、ましてやそれなりの規模で生産するとなるとさらに時間がかかる。なので、私にとってそうしたことを効率的に行え、そして低コストでの生産を可能にするテクノロジーを見つけることが重要だった。だからすべてを新たに作っているわけではない」。

Inneはユーザーが測定する時間帯を管理することでテストプロセスにおける変動性をコントロールしている(しかしそれは明らかにきっちりとした管理下にあるわけではない。たとえアプリ内でユーザーにリマインダーが送れてもだ)。テストごとにどれくらいの唾液を抽出するのか、サンプルのどれくらいの量をテストするのか。「そうしたことはすべて機械的に処理されるので、ユーザーが行うことはない」という。

「ホルモンの素晴らしいところは睡眠不足の影響を受けないこと。そしてベッドから出ても影響を受けない。これこそが、ホルモンを測定することに決めた理由だ」と付け加えた。このアイデアそのものは、ラプティ氏が自然な避妊をしながらもっといい方法はないかと考えていた中で思いついた。ちなみに彼女自身は、医学あるいはライフサイエンスのトレーニングを受けていない。

「会社を始めたとき、私は(避妊のために)体温を測定する方法を利用していた。そして、ベッドで体温測定しなければならず、そうしなければ測定そのものが無効になってしまうというのはおかしいと考えた」。

しかし、ホルモン測定へのマイナスの影響を避けるために、Inneユーザーが守らなければならない別の種の決まりごとがある。まず最初に、毎回同じ時間帯にテストをしなければならない。朝でも夜でも構わない。しかし一度時間帯を選んだら、それを継続する必要がある。

また、少なくとも1回の月経周期の間、毎日テストしなければならない。加えて、テストしなければならない日がひと月のうち何日かある。

そしてユーザーはテストの前30分は飲食を避ける必要がある。この飲食制限にはオーラルセックスも含まれるとラプティ氏は言う。「なぜならこれもまた測定に影響を及ぼすから」。

「いくつかの特徴がある。プロダクトの使い方はかなり簡単だ。しかしこれは、避妊や体のことを考えたくない女性のためのものではない。そうした人にはIUD(子宮内避妊器具)が最適のソリューションだと思う。そうすると考える必要がないのだから。Inneはホルモン剤を服用したり体内に装置を入れたりしたくない女性のためのものだ。というのも、そうした女性たちはすでに痛い思いを経験したり、ホルモン剤を服用せずに自然に避妊することに関心を持っているからだ」。

現時点で、Inneはピルのようなすでに確立された避妊メソッドと比較する研究は行っていない。少なくともユーザーは、妊娠するリスクについてピルを使用しながら他の避妊メソッドに挑戦したりテストしたりして比較することはできない。

ラプティ氏は新たに調達した資金で今後さらに臨床研究を行うと話す。しかしこうした研究は、プロダクトの効果を示すテストからさらなる識見を引き出すことによりフォーカスされる。

Inneはまた、将来の米国マーケット参入に向けて、FDA認証取得の作業にも着手した。自然避妊や妊娠しやすい期間の追跡を超えて、Inneはホルモン追跡の幅広い活用を検討している。例えば、ホルモンレベルの長期追跡に基づいて閉経についての情報を女性に提供することなどだ。あるいは、Inneがさらに研究を進めたいと考えているエリアである、子宮内膜症のような症状の管理サポートだ。

意図するところは、バイナリ(編集部注:2つの要素から成るの意)の反対だ、とラプティ氏は語る。多機能なツールを女性に提供して、幅広い個人のニーズや目的のために体の中で起きている変化に注意を向けて理解するようサポートする。

「女性の体はバイナリという考え方を変えたい。我々の体はバイナリではなく、体は1カ月を通して変化する。だから今月は避妊したいけれど、翌月は妊娠したいということがあるかもしれない。これを実行するには体のことをよく知っていなければならないが、その体はいずれの場合でも同じものだ」と同氏は話す。

シリーズAに関して、Blossom CapitalのパートナーのLouise Samet(ルイーズ・サメット)氏は声明文で次のように述べた。「Inneは、女性があらゆる年代において体をより深く理解することを可能にする科学的な有効性と使用しやすさを兼ね備えている。最も感銘を受けたのは、科学的な有効性を有しつつデザインと使いやすさにおいて詳細に至るまでフォーカスしていること、そして世界中の女性に影響を与えたいという野心を持っていることだ」。

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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