【編集部注】著者のValery KomissarovはSkolkovo Foundationのポートフォリオマネージャーである。そこで彼は航空宇宙産業やドローンのスタートアップたちのビジネス開発と資金調達をサポートしている。またロシアの宇宙機関であるRoscosmosの、次世代宇宙技術に関する顧問を勤めている。
いよいよフライングカーのスタートアップたちが、Twitterのようなお馴染みのテクノロジー企業としてみなされるようになり始めたようだ。EUを拠点とし、オール電化の自律フライングタクシーを手がけるスタートアップのLiliumは、Tencentが主導し、多くの著名なVCたち(Atomicoを含む)が参加したシリーズBで、9000万ドルを調達した。フライングカーが魅力的なコンセプトから成熟したテクノロジーへと変化し有望な投資対象になりつつあることは明らかだ。
しかし、私たちは世界でフライングカーを見ることになるのだろうか?そして、市場環境はどのように進化して行くのだろうか?
これらの質問に答えるために、まず現在のフライングカーのエコシステムを眺めてみよう。
会社名 |
国 |
創立年 |
|
代表的な投資家 |
ドイツ |
2014 |
101.4 |
Tencent, Atomico, e42 Ventures, Obvious Ventures |
|
ドイツ |
2012 |
29.5 |
Daimler |
|
中国 |
2014 |
52 |
GGV Capital, GP Capital, ZhenFund, LeBox Capital |
|
米国 |
2009 |
15.5 |
8VC、Capricorn Venture Partners |
|
ハンガリー |
2010 |
3.2 |
LRJ Capital, InfraPartners Management |
|
米国 |
1983 |
N/A |
N/A |
|
米国 |
2010 |
100 |
ラリー・ページ |
|
米国 |
2015 |
N/A |
ラリー・ページ |
|
米国 |
2006 |
6.56 |
Haiyin Capital, Transcendent Holdings |
|
オランダ |
2001 |
N/A |
N/A |
|
日本 |
N/A |
N/A |
トヨタ自動車 |
|
イギリス |
2013 |
2.53 |
Schübeler Technologies GmBH |
|
ロシア |
2014 |
N/A |
N/A |
|
イギリス |
N/A |
N/A |
N/A |
|
米国 |
N/A |
N/A |
N/A |
出典:Crunchbase、PitchBook、Bloomberg、各企業のプレスリリース
ここから分かることをいくつか挙げてみよう:
エコシステムは成熟している。すでに15のスタートアップが、異なるコンセプトのフライングカー(ホバーバイクを含む)に取り組んでいる。そしてさらに多くの企業が極秘裏に、あるいは初期段階として取り組んでいる筈だ。これに加えて、エアバスやトヨタなどの複数の大手企業も、この技術を開発している。
地理的に言えば、3分の1程度の企業が米国に拠点を置いている。しかし、最近フライングカー業界最大のニュースとなった、LiliumとVolocopterという2つの巨額調達スタートアップを含む、EU系企業の存在感も強い。
資金調達の詳細を見ると、フライングカーのスタートアップたちはこれまでに、ベンチャーキャピタルエコシステムから3億1070万ドルの資金を調達している。その構成は通常のVC(Atomicoなど)、企業(Daimler、トヨタ、Tencent)、そして有名エンジェル(ラリー・ページ)などだ。今年2017年には、この領域で最大の資金調達が行われたことに言及しておくことには、意味があるだろう。これは主に巨額なLilium(9000万ドル)とVolocopter (2950万ドル)のラウンドによりもたらされたものだ。
このデータを要約すると、フライングカーのスタートアップの数は多く、投資家からこの分野への注目が集まっていて、それが今年大幅に増加したということである。
この背後にある力学は何だろう?何故いまそれが起きたのだろう?以下では、この分野を推進する主な2つの要因について概説したい、すなわち大いなるマーケティングの勢いと、必要とされる技術の成熟だ。
まず最初のポイントを解説すると、フライングカーのコンセプトは、近年大手の企業たちの目に留まってきている。例えばUber(Elevateプロジェクト)やUAE政府(初の公共フライングタクシーのテスト)などだ。このことは、特に航空宇宙に着目しているわけではない投資家、例えばAtomicoやTencentを引き寄せている。
もう1つの側面は、ドローン関連技術の急速な発展だ。この技術はビジネス上の価値を証明し、消費者向けの玩具から変貌し、建設や農業などのさまざまな産業で利用される有益なツールとなった。同じようなプロセスが、現在はフライングカーの世界でも起きている。配送業務や、緊急業務アプリケーションなどにとどまらず、モビリティ業界全体を混乱させるほどの勢いを持ちつつあるのだ。
実際、フライングカーに必要な技術が、ついに出揃ったのだ。最大の課題――安全で効率的な垂直離着陸(VTOL)機(ヘリコプターと飛行機を組み合わせたようなもの)を作ること――は、航空機デザインの革新によって解決されつつある(詳細に関しては分散推進コンセプトを参照)、そして自律フライトと電動モーターとバッテリーに関する最近の進化は、ソーラーパワーで飛行する自律フライングカーが、都市や田園地帯の上空を飛び回る幻想的な未来を描かせる。
しかし、技術の準備が整い、業界と投資家の双方から大きな関心が寄せられているにもかかわらず、まだいくつかの障壁が残されている。その中でも最も大きくて最も難しいものは、フライングカー(とドローン)を、公共の領空に統合することだ。これは様々な観点を含む大変に複雑な問題である。規制という意味でも(フライングカーは人間によって遠隔操作されるべきか、あるいは自律的に運行することを許されるべきか?)、必要とされるインフラストラクチャという意味でも(どのように無数の無人フライングカーを追跡し管制すべきか、そしてこれらのサイバーフィジカル資産をどのように保護すべきか?)、そしてテクノロジーという意味でも(何千もの飛行経路をリアルタイムで調整し、衝突回避を行なうには?)。
政府機関と大企業の両方がこうした課題に取り組んでいる(例えば米国では、Google、Intel、Verizonなどの支援を受けてNASAによって推進されている);こうしたシステムは、世界的にはまだ国を挙げて実施されているとはとても言えない。
フライングカーは間違いなく関心の的になりつつある。市場環境がこの先どのように進化するかについての見通しを、示すことにしよう。
- フライングカーを大衆市場で見るようになるには10年から15年かかるだろう、これは公共領空への統合問題の解決と、人びとにこれはICOやVRゲーム以上におかしな考えではないのだ、と納得させるのに必要な時間なのだ。
- フライングカーは興味深い投資機会を提供しており、さらに多くの戦略的投資家やVCたちが、この分野に資金を提供することになるだろう。さらに、多くの企業がフライングカーに関心を寄せていることを考えると、さらに多くのM&Aも行われることだろう。例えば自律飛行を可能にするテクノロジーに取り組むAuroraを、ボーイングが買収したように。
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(翻訳:Sako)