フリマアプリ「Fril」創業者がエンジェル投資の課題解決へ「ANGEL PORT」ローンチ

ANGEL PORTの開発チーム。写真左からtakejune氏、堀井翔太氏、堀井雄太氏。3人は「Fril」を立ち上げたFablicの創業メンバーだ。

近年、国内スタートアップの資金調達ニュースに“エンジェル投資家(個人投資家)”の名前を見かけることがグッと増えてきた。それこそ数千万円規模であれば、VCや事業会社ではなくエンジェル投資家のみから資金を調達するようなケースも珍しくなくなってきている。

特に最近はここ数年でエグジットを経験した20〜30代のエンジェル投資家が目立つ一例をあげるとフリークアウトの創業に参画し現在はヘイの代表取締役を務める佐藤裕介氏、エウレカ(Pairs)創業者の赤坂優氏、コーチ・ユナイテッド(サイタ)創業者の有安伸宏氏、ペロリ(MERY)創業者の中川綾太郎氏など(カッコ内は代表的なサービス名)。

起業家側からすれば、資金だけではなくリアルな起業経験を踏まえた知見や独自のネットワークを持つ投資家に応援してもらえるのであれば、かなり心強いだろう。

前置きが少し長くなってしまったけれど、今回紹介するのはこの“エンジェル投資”に関するミスマッチや情報の非対称性を解消することを目指して立ち上げられた「ANGEL PORT」だ。

運営するのは2016年に楽天へと会社を売却したFablicの創業メンバー(当時フリマアプリ「Fril(フリル)」を開発)。特に同社で代表取締役を務めていた堀井氏は現在個人で複数のスタートアップに投資をしていて、冒頭で紹介した面々と同様にTechCrunchでも“投資家”として紹介したことがある。

本日正式ローンチとなったANGEL PORTは、いわば現役のエンジェル投資家であり起業家でもある堀井氏自身が感じた課題から生まれたサービスだ。2018年5月に先行登録を開始して以来、現在までに150社以上のスタートアップが登録。30名以上のエンジェル投資家が自らの投資先を公開している。

エンジェル投資家と起業家を繋ぐコミュニティ

ANGEL PORTはエンジェル投資家と起業家を結びつけるコミュニティだ。良質なマッチングを実現する仕掛けとして、大きく3つの特徴を備える。

  • エンジェル投資家が自身のプロフィールとポートフォリオを公開できる機能
  • 起業家が自身のアイデアをまとめられるピッチブックとメッセージ機能
  • エンジェル投資家の思考や原体験を掘り下げた長文インタビュー

機能自体は非常にシンプル。まずエンジェル投資家は、自身のプロフィールと投資先のポートフォリオを公開できる。これまでどんなスタートアップに投資をしてきたのか、どんな経歴を歩んできたのか、どんな領域の事業に関心があって、年間でどのくらいの会社に、どのくらいの金額投資をしているのか。

起業家はここに書かれた情報を基に自社にマッチしそうなエンジェル投資家を探し出す。とはいえ、プロフィールだけでは各投資家の個性や考え方まで把握するのは難しいこともあるだろう。それを“補完”する役割を担うのが、エンジェル投資家のインタビューコンテンツだ。

なんでもこのインタビューには堀井氏がどっぷりと関わっているそうで、人生の生い立ちから起業の原体験、投資をする際の基準までかなり細かく掘り下げている。堀井氏曰く「エンジェル投資家の人となりがわかること」が目的だ。

ここまでは起業家がエンジェル投資家の情報を得るための機能。一方でエンジェル投資家が起業家のことを理解するための機能として搭載されているのがピッチブックになる。

これは起業家向けのプロフィール作成機能に近い。「サービスのカテゴリ」「進捗状況」「(ユーザーの)課題/解決策」などあらかじめ用意された項目を埋めていくと、投資家が最低限知りたい内容を網羅したコンパクトなピッチ資料を作成できるというもの。中身は一度作ってしまえば何度でも使える。

ANGEL PORT上で気になる投資家を見つけた起業家は、作成したピッチブックとともにメッセージを送れば後は投資家から返事を待つだけだ。

エンジェル投資に関する機会損失や情報の非対称性なくす

さて、少し話は変わるのだけれど堀井氏はANGEL PORTのインタビューで「人が本当に欲しがるプロダクトを作れているか、をすごく重視する」とした上で、「ユーザーがどんな課題でそのプロダクトを使うのかや、誰に、何を提供しているのかがはっきり分かるプロダクトが良いなと思っています」と話している。

ではANGEL PORT自体は一体誰のどんな課題を解決するべく生まれたプロダクトなのだろうか。そんな質問をしてみたところ、最初のきっかけは自身や周りのエンジェル投資家が抱えていた課題にあったという答えが返ってきた。

「周りのエンジェルに話を聞いても、基本的にはTwitterやFacebookのDMで投資依頼のメッセージがたくさん来ている。ただその中には投資を検討する上で知りたい情報が極端に足りないもの、反対に必要以上に情報量が多かったり構造化されていなかったりして読むのが大変なものも少なくない。これを解決できないかと考えた」(堀井氏)

堀井氏自身も少ない時でさえ週に3〜4件はSNS経由で出資の相談が来るそう。エンジェル投資を始めた頃は多少情報が足りなくてもメッセージのやりとりを通じて細かくフォローするようにしていたそうだけれど、何往復もしているとそれだけでかなりの時間を要する。案件が集中したり忙しい時期と重なると、1件1件時間をかけて対応するのには限界がある。

他の投資家も同じような状況にあるので「事業内容などの前に『そもそも相手のことも考えながら容量を得たメッセージを送れているか』を見て、出資の判断をする」投資家もいるそう。「とはいえ送り方一つで決まってしまうのは業界としてはもったいないし、機会損失でもある」(堀井氏)と思ったことが、ANGEL PORTを作るひとつのきっかけになった。

また堀井氏は起業家側にとって「誰がエンジェル投資家なの知れる場所」がなく、エンジェル投資家側としても「自分がエンジェル投資をやっていることをオープンに表明する場」がないといった“情報の非対称性”にも課題を感じていたという。

だからこそANGEL PORTではエンジェル投資家が実名でポートフォリオを掲載。加えてピッチブックを通じて出資の判断に必要な情報をどんな起業家でも整理できる仕組みを整えた。

「ANGEL PORT」では実名で各エンジェル投資家の投資先や経歴などが公開されている

日本におけるAngelListのようなプラットフォームを

冒頭でも少し触れた通り、ここ数年でM&Aによるエグジットを果たした起業家がエンジェル投資家として活動するケースが増え、従来は少なかった若い年代のエンジェルも生まれてきている。堀井氏によると「数十万円単位でもエンジェル投資をしてみたいというニーズがあることにも気づいた」そうで、今後さらにエンジェル投資のマーケットが広がっていくと考えているようだ。

これは国内スタートアップにおける環境の変化も関係する。近年AWSなどのクラウドサービスや起業のノウハウ、資金調達環境など起業する際に必要となるインフラが整い始め、プロダクトを立ち上げるハードルも下がってきた。

だからこそ「グロースのスピードを重視するケースが増え、いかにノウハウを持っているチームを作れるか、強い応援団を巻き込めるかが重要になってきた」(堀井氏)と感じる機会が増えたという。ある程度資金を集めやすいからこそ、より事業を加速させるスキルや経験を持つ起業家の“先輩”的なエンジェル投資家の需要が高まってきているわけだ。

現在のANGEL PORTはミニマムの機能しか実装されていないけれど、今後アップデートが予定されている。今回の話の中では方向性として「日本におけるAngelListのような位置付けのサービス」を意識しているという話もあった(AngelListは2010年にローンチのスタートアップと投資家をマッチングするサービス)。

あくまで検討段階とのことだけど、たとえば「テレビCMを実施したことがある」「C2Cのプロダクトが得意」など投資家の強みに応じて検索をかけられるような仕組みや、少額からでもエンジェル投資ができるシンジケート(共同出資)のような概念、AngelListと同様にスタートアップの求人を支援する機能なども考えているそう。

ゆくゆくはVCが参加したり、スタートアップの従業員メンバーを登録できるようになったりする可能性もあるという。

「まずは自分自身にとっても手触り感のある課題から解決していきたい。今後も広がっていくエンジェル投資を支えるようなサービスを通じて、日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献していきたい」(堀井氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。