新しいサングラスのブランドFuturemood(フューチャームード)の共同創設者であるAustin Soldner(オースティン・ソルドナー)氏とMichael Schaecher(マイケル・シェカー)氏は、ハイエンドのオーディオ技術企業のBose(ボーズ)が新たに設立したサンフランシスコの研究開発ラボで出会った。
2人はBoseのサングラス型ウェアラブルの開発を任されていたが、スニーカーやファッションなど共通の趣味で仲良くなった。いろいろな話を交わすうちに、テクノロジーを使えばサングラスのあり方を変えられる可能性があることに気づき、サングラス業界ではOakley(オークリー)以来となる新ブランドを立ち上げて、市場に参入した。
さらにそこには、何十年間も本当の意味での技術革新がなかった業界にスニーカーメーカーがもたらしたものと同じ、素材科学と技術重視の戦略を持ち込む余地があった。
そうして登場したのがFuturemoodの「Auras」(オーラス)だ。同社はこれを、科学的な検査を経て実証された、気分を変えられる初めてのメガネと言っている。
レンズメーカーのCarl Zeiss(カールツァイス)が開発した技術を応用したFuturemoodの最初の製品には、リラックスできるグリーン、リフレッシュできるブルー、元気が出るレッド、集中力が出るイエローの4色がある。同社はこれを、四角い太めのフレームと、一般的な丸みを帯びたフレームの2つのスタイルで販売する。
気分を変える効果は、Zeissがずっと取り組んできたハロークローム・レンズ技術(論文も発表されている)によってもたらされる。フィルターを通した光で人の気分が変えられるという説に、Zeissは科学的は裏付けを求めてきた。
Zeissはそれ以前にもいくつかの研究を行っているが、科学的に証明されていない部分も多い(ヨーロッパの大学で2つの研究を主導してきた)。
シェカー氏とソルドナー氏は、その説の信奉者だ。長年、技術責任者を務めてきた2人は、そのレンズを、素材科学の実験と、Futuremoodから市場投入を目指す製品の開発という大きな世界への窓として見ている。
「スニーカーの世界では、Nike(ナイキ)やAdidas(アディダス)がすでにそこに到達しています。それは、製品デザイン、素材、ブランディング、マーケティングのイノベーションによって実現しました。そのすべてが、サングラスの世界には欠けていたのです」とシェカー氏は言う。
Airbnb(エアービーアンドビー)でマーケティング責任者として働き、それ以前は、すでに廃業したMuchery(マンチェリー)で最初にマーケティングを担当した経験を持つシェカー氏は、ブランディングには詳しい。一方、Playground.fm(プレイグラウンド・エフエム)の創設者であり、Jawbone(ジョウボーン)ではプロダクトデザイナーを務めていたソルドナー氏は技術の専門家であり、Futuremoodのすべてのフレームの主任デザイナーでもある。
「私たちは、技術的なイノベーションと製品のイノベーションの枠を押し広げるチャンスがあると確信しました」とシェカー氏。「サングラスの概念を広げるものを、私たちは在庫として準備しています」
サングラスは、じつに大きなビジネスでもある。市場調査会社 Grand View Research(グランド・ビュー・リサーチ)によれば、2018年には、消費者はサングラスに145億ドル(約1兆6000億円)を費やしている。Futuremoodは、そのユニークな捻りを加えたサングラスで、市場のほんの一部でも獲得できれば御の字だ。
優れた直販製品すべてに言えることだが、Futuremoodの製品は、まずパッケージからして違う。気分を変えてくれるこの「ウェアラブル・ドラッグ」の美観を踏襲する同社の製品は、サングラスと同じ鮮やかな色合いのパッケージに入ってくる。中にはサングラスを拭くための布、サングラスを入れるベルベットのポーチ、サングラスに合った香りの匂い袋、サングラスの説明が書かれたなんとなくタロット風のカード、そしてそのサングラスが呼び起こすことになっている感覚(それに合ったSpotifyのプレイリスト付き)が入っている。
シェカー氏はその感覚について、電子メールで「カンナビジオールほど曖昧ではなく、テキーラやロゼの1杯ほど強烈ではない」と説明してくれた。
「オースティンと私は、いろいろなセルフケアや時間の過ごし方を試すのが大好きなんです。そこで、(パッケージで)喜びや楽しい気持ちを届けることができると考えたのです」とシェカー氏。「サングラスを掛けるたびに、みんながSpotifyのプレイリストを聞いたり匂い袋を嗅いだりするとは期待していませんが」。
Futuremoodは、これまでほとんど自費で活動してきた。キリスト生誕から2020年目の今年、ご多分に漏れず、彼らの計画も新型コロナウイルスのパンデミックのお陰で後退せざるを得なくなった。
「私たちのレンズはZeissのイタリアの工場で製造しています。メガネは深圳の郊外で作っています」とシェカー氏。「私たちは最初の注文を2週間保留しました。Zeissは、イタリアでもっとも被害の大きかった地域にあります。そこから予定が遅れています。18カ月、必死に頑張ってきて、その挙げ句に発売を延期しなければならないなんて、言葉になりません」。
パンデミックの最中でも、彼らは次の製品のデザインに向けて動き出している。そこから、シェカー氏とソルドナー氏が事業を広げたい方向が見えてくる。「2つめの製品ラインがありますが、それは気分を変えるメガネではありません」とシェカー氏は言う。「昔ながらの普通のサングラスで、アイウェアでよりも航空機で一般的なチタン合金を使います」。
デザインは、より贅沢な美観を反映している。シェカー氏が冗談めいて話したところによれば、デジタル店舗で販売される一般消費者向けの直販ブランドというよりは、カルティエのショールームで寛ぐような感じだそうだ。
現在は、同社のウェブサイトを通して消費者に直販する予定だが、ビジネス活動が解禁されたなら、小売り業者とのコラボやフィールドマーケティングの可能性を探りたいと考えている。
気分を変える効果に関して、また「ウェアラブル・ドラッグ」が市場のシェアを勝ち取れるか否かについては、シェカー氏はきわめて楽観的だ。「かならず反響があります」と彼は言う。「これまで存在していなかった、楽しくて新しいものですからね」。
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(翻訳:金井哲夫)