独自の合意形成アルゴリズムであるCI(Consensus Intelligence)技術を用いたプロダクトを展開するVISITS Technologies(以下VISITS)。同社は1月30日、未上場スタートアップや新興上場企業の経営支援を行うシニフィアンと資本業務提携を締結したことを明らかにした。
VISITSでは今後CI技術に注力しながら相性の良いマーケットを探っていくとともに、2017年10月に発表した「ideagram」など同技術を組み込んだ複数のプロダクトをリリースしていく計画。資本政策や組織構築、事業開発などのナレッジを持つシニフィアンとタッグを組み、さらなる事業成長を目指す。
独自の合意形成アルゴリズムで定性的な価値を可視化する
VISITSが開発するCI技術は人の創造性やセンス、アイデアの価値など従来は不確かだった「定性的な価値」を定量化できる仕組みだ。
一例をあげるとこの技術を用いたideagramはクリエイティビティや目利き力を定量化することで、企業内の人材発掘や育成、イノベーションの創出を支援するプロダクト。これを使えば「社内でイノベーションに繋がるアイデアを出せる人材は誰か」「破壊的イノベーションに繋がるアイデアはどれか」といったことが可視化できる。
具体的には「アイデア創造」と「アイデア評価」という2つのオンライン試験を通じて、メンバーがアイデアを出し合うとともに、出されたアイデアを相互に評価する。このプロセスを通じて各自のアイデア創造力や目利き力、各アイデアの価値が数値化されるわけだが、その際にアイデア創造の結果を教師データとして参加者の目利き力を予測し、アイデア評価の結果に重み付けを行う点がポイントだ。
つまり「必ずしもみんなから好評なわけではないが、目利き力が高いメンバーが評価しているアイデア」など、単純な多数決では埋もれてしまっていたイノベーションの種や価値あるアイデアを発掘できるようになる。
表現を変えれば、本当に高い目利き力を持った人の判断を重くすることによって「意思決定の質を上げられる仕組み」と言ってもいいかもしれない。
AIでは解決することが難しい問題を解く技術
CI技術は定性的な価値を定量化する仕組みだと紹介したように、この技術が真価を発揮するのは「教師データがない(教師データが変動する)ためにAIでは解決することが難しい問題」に直面した際だという。
「今の価値観に合わせたオシャレとは何なのか、今の価値観に合わせた時の課題は何なのかなど目的変数すら動的な場合でも、(ideagramのようなプロセスを通じて)適切なインセンティブを与えながらそれを抽出し、最適な方法を考えることができる」(VISITS Technologies代表取締役の松本勝氏)のが特徴だ。
またデータを基にしたパーソナライズがAIの強みとすれば、松本氏いわくCIは「もっとも人が共感する重心を探す」ことによって全体最適を実現できるのがウリ。合意形成を経てアイデアを1つに絞らなければならない場合に有効活用できる余地があり、ものづくり(新製品のアイデアを1つに決める)やマーケティング(CMのクリエイティブを複数案から決める)などと相性が良いという。
「イメージとしては服作りにおけるZARAとユニクロのような関係性に近い。ZARAのようなファストファッションは細かいニーズに合わせて何十通り、何百通りのパターンの服を用意していくという点でAI的。一方でユニクロはみんなが本当に求めるものに絞って、その品質を高めていくスタイル。CIはこちらのアプローチだ」(松本氏)
AIとの違いでいくと、CIは中央から外れた端っこにある価値を汲み取りやすいという側面もある。「AIは過去のデータを参考にしすぎると教師データに引っ張られて真ん中に寄りがち」だというのが松本氏の見解。CIの場合はideagramで紹介した例のように、一部の人が支持した奇抜なアイデアでもウエイトが高ければその価値を見逃さずに済む。
もちろんAIが万能ではないのと同じようにCIも万能ではない。定量的で固定の教師データがあるような場合はAIの方が適しているし、そもそも合意形成をする必要がないシーンではCIを使うまでもない。その意味でAIを代替する技術ではなく、共存・補完する技術と言えるという。
松本氏によると、特にここ半年ほどは「CIという合意形成アルゴリズムがどのマーケットにおいて大きなインパクトを与えられるのかを探っていた」期間だったようだ。ideagramはあくまでCI技術を組み込んだプロダクトの第1弾という位置付けで、今後は他のマーケットに焦点を当てた新しいプロダクトも予定している。
すでに中小企業庁の補助金審査プロセス高度化や、厚生労働省及び経済産業省が事務局を務める有識者会議の効率化に向けてCI技術の提供を発表しているが、これはideagramとはまた異なる仕組みなのだそう。ゆくゆくは正式にサービス化する計画だ。
CI技術を手がけるスタートアップとしてアクセルを踏む
大雑把に分類すると、これまでのVISITSは“HR Tech”領域のスタートアップだったと言えるだろう。
2015年にリリースしたOB・OG訪問プラットフォームの「VISITS OB」は、アナログな部分が多く残る人材業界の課題をテクノロジーで解決しようというプロダクトであり、2017年にはパーソルホールディングスと資本業務提携も締結していた。
ただ会社としてはこれらの事業を継続しつつも、HR業界はもちろん幅広い業界にインパクトを与えられる可能性を秘めたCI技術により多くのリソースを投下し、CI技術を手がけるスタートアップとして事業成長を目指していく計画だ。
今回はシニフィアンの共同代表である朝倉祐介氏(TechCrunchの読者には以前ミクシィで代表取締役社長を務めていた朝倉氏と言った方がピンとくるかもしれない)と村上誠典氏にも話を聞けたのだけど「すでに着手しているマーケット以外でも意思決定の精度が上がったり、新たな価値が形成される現場がもっとたくさんあるのではないか」(村上氏)とCI技術のポテンシャルを高く評価していた。
特にVISITSの場合はこれまでに累計で二桁億円の資金を調達していて、ミドル〜レイターステージに当たるスタートアップ。そういった企業の組織構築や事業開発をサポートしてきたシニフィアンとしては会社のフェーズ的にもマッチしたため、今回の資本業務提携に至ったようだ。
「日本に閉じた話ではなく、世界の社会課題解決につながる可能性を秘めた事業。シニフィアンとしては『あの時あんなことをしなければもっと上手くいったのに』など、踏まなくて良い落とし穴や地雷を除去していく役割を通じて、事業の成長に貢献していきたい」(朝倉氏)
なおVISITSではCI事業の拡大に向けて年内にも大型の資金調達を予定していて、その点でもシニフィアンと連携を進めていくという。