人型ロボとVRで1万キロ先に瞬間移動――テレプレゼンスの実現へGITAIが約1.4億円を調達

GITAIは人型ロボットとVRヘッドセットを通じて、実際に行かなくても、その場にいるように感じられるテレプレゼンス・ロボットを開発している。GITAIは本日、ANRIと500 Startups Japanより総額125万ドル(およそ1億4000万円)の資金調達を実施した。

アメリカではすでにSuitable TechnologiesDouble Roboticsといった企業がミーティング用のテレプレゼンス・ロボットを販売している。どちらもタブレットに自走する車輪がついたようなプロダクトだ。ユーザーは自宅などから、オフィスにあるこのデバイスにビデオ通話をすることで、会社の人と話したり、ミーティングに参加したりできる。

GITAIはこのようなテレプレゼンスを、より人に近いロボットで実現したい考えだ。GITAIのプロダクトでは、ユーザーはVRヘッドセットを通じて、360度カメラを搭載したロボットの視界を共有する。センサーのついた触覚グローブを装着すれば、ロボットの腕の動きや触覚の一部も共有可能だ。

これが実現すれば通勤時間をなくすことができるだろう。「人は一生のうち約544日、およそ一年半という時間を通勤に使っています」とGITAIの代表取締役を務める中ノ瀬翔氏は話す。こうした移動の無駄を、「人の体の方を増やすことで解決したい」と話す。

GITAIのヒューマノイド・テレプレゼンス・ロボット

通信技術がテレプレゼンスの要

テレプレゼンスの実現に取り組む企業は他にもいくつかあるが、GITAIの強みは、ソフトウェアと通信技術にある。ユーザーが実際にそこにいるかのような感覚を得るには、ロボットの映像とユーザーがVRで見る映像の遅延を限りなく少なくする必要がある。しかし、360動画動画は容量が大きいため、汎用規格のWebRTCでは遅延が1秒ほど発生し、解像度やフレームレートも落ちてしまう。

GITAIではこの通信の課題を解決したいと考え、データ削減技術とより早くデータを送れる通信技術の開発に着手した。データ削減については、360度動画の全てをヘッドセットに送るのではなく、ユーザーの見ている範囲に限定し、なおかつフレームごとの差分がある部分のみを送信するようにした。通信の面では、独自のPSP通信技術を開発(P2P通信は、サーバーを介さずコンピューター同士が直接通信する方式でSkypeなども採用している)。データをベストな状態で送るためのGITAI OSも構築した。

こうした技術により、GITAIではフレームレートと解像度を維持しながら遅延を0.08秒までに抑えることが可能になった。「1万キロ離れた場所でも、リアルタイムで乗り移れることにこそ価値があると思っています」と中ノ瀬氏はGITAIがソフトウェアと通信に力を入れている理由について話す。

テレプレゼンスは“実質的な瞬間移動”

来年の後半には、開発者向けに一部のソフトウェアをベータ版として公開する予定だ。コンシューマー向け以外にも、災害救助や宇宙開発といった法人向けの提供も想定しているという。宇宙開発に関しては、すでに2017年9月、360度カメラ付き小型衛星などのハードウェアを開発するSpaceVRとの提携を発表している。宇宙空間では通信が貧弱になり、船外活動用のロボットや探査機などの遠隔操作が難しくなる。そうしたロボットとの通信と遠隔操作にGITAIの技術を活用する予定だ。

最終的には、人型ロボットでのテレプレゼンスを実現したいと中ノ瀬氏は話す。そう考えるきっかけになったのは、親を亡くした時、駆けつけるのが間に合わずに後悔した経験があるからだと言う。最初は趣味の延長で開発したロボットだったが、プロトタイプを見て、手軽に相手の様子を見たり、駆けつけたりできるデバイスになると感じたそうだ。「実質的に瞬間移動ができる。この価値を世の中に提供したいと思っています」と中ノ瀬氏は話している。

中ノ瀬氏は2013年にインドで起業し、開発したサービスを売却をした経験がある連続起業家だ。GITAIは2016年7月に設立した。同年9月、Skyland Venturesより1500万円を調達。今年の夏には、シリコンバレーのシンギュラリティ大学が提供する起業家向け育成プログラム「Global Solution Program 2017」に参加した。

左からGITAIのCEO中ノ瀬翔氏とエンジニアの宇佐美健一氏

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。