企業にデジタル戦略は要らない。必要なのは、デジタル企業に転換すること

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編集部記 :Tom GoodwinはHavas Mediaで戦略イノベーションを担当するシニアバイスプレジデントだ。

2015年現在、企業がデジタル戦略やモバイル戦略を考えることは滑稽に思える。本当に必要なのは、今の時代に則したビジネス戦略だ。Uberは交通ビジネスの再発明し、Instagramは写真の役回りを変革し、Netflixは動画コンテンツのあり方を刷新した。これらの企業に共通することは、ビジネスの中枢にデジタルの考え方を持ち込んだことだ。デジタルはただのツールではない。

Tesla、Instacart、Hotel Tonight、Twitter、BuzzFeedやWhatsAppに至るまで、高い成長率と利益率を誇り、評価されている輝かしい企業のいずれもが、たった一つのことだけを考えてきた。それは、いかにして「今の時代」に則するかということだ。

これらの企業は、人々が今までとは違う全く新しい行動習慣を身につけた世界に誕生し、最新テクノロジーに触発され、新しい市場のダイナミックスの中で開花してきた。同じ分野に存在した既存の企業は眼中にない。かつてそれらの企業を潤した、同じ要素、資産、知識、学習能力を超え、彼らは急成長する力を手にした。

「私たちが形作ったツールは、その内私たちを形作ることになる。」マーシャル・マクルーハンの有名な言葉は、今の時代のビジネスを表すぴったりの言葉だ。これらの企業は、現代においてスマートフォンが全ての物とつながる最も重要な接点であり、現代はそこから生まれた豊富なつながりの中で、人々の注意を奪い合う時代であると理解している。お金を含めた全ての物がデジタルになり、利益はインターフェイスから生まれ、物理的な物と従業員が資産となった。現代では、効率的な方法で人々に最高の顧客体験を提供することがビジネスを成功させる条件である。

これらの企業は最新テクノロジーが全てを作り、全ての企業と人がテクノロジーのもたらす無限の可能性を認知する重要性を理解している。しかし、世界は過去から学ぶのが得意ではない。新しいテクノロジーというものは、私たちの生活の基盤に溶け込むものだということを忘れてしまう。

例えば産業革命の後、電気はどこでも利用できるようになったが、電気は一晩にして世界に変革をもらしたのではない。何十年もかけて徐々に浸透し、世界を変えていったのだ。電気は最初、既存の物を少し良くするために、部分的に使われていた。工場では一つの電気モーターを導入し、固定の場所に据えられた機械にゴムベルトで動力を伝えていた。

今こそ、当時の電気の使い方について助言することができるが、それは過去を振り帰った時にしか分からない。20数年余りが経過してようやく、人々は電気が全ての中核となることを理解し、電気によって可能になることと、それをどのように実現できるかが分かった。電気の本当の効果は、工業のあり方を根底から覆したことにある。従業員を減らし、24時間機械を回して新製品を作り出すことができるようになった。最も重要なのは、これにより燃料のある場所に縛られることなく、従業員を人口の集まる場所や港などの拠点に配置することができるようになったことだ。

2015年の現在、電気を宣伝する広告代理店はないし、どの企業も電気戦略を掲げたり、電気担当役員を据えたりしない。全員が使うものだと考えているからだ。なぜデジタルに対してはそのように扱わないのか?

テクノロジーはビジネスを加速させるための燃料ではない。テクノロジーは、ビジネスに変革をもたらすアイディアを育てる酸素そのものだ。現代のビジネスは、人々の新しい行動習慣に着目し、最新技術で可能となることを見据えた上で、自社のビジネスを根幹から見直す必要がある。銀行は現代に則した役回りを果たすべきだし、スポーツジムはテクノロジーを駆使して人々の健康をサポートするパートナーになるべきで、自動車製造業は交通ソリューションを提供するようになるべきだろう。なぜ、通信会社がWhatsAppを発明しなかったのか?なぜ、GMがUberを、KodakがInstagramを、BlockbusterがNetflixを発明できなかったのか?

デジタルへの移行はデジタル部門だけの問題ではないし、モバイル戦略担当が会社を救ってくれることもないだろう。取って付けたような部門が、デジタルに無頓着の企業を市場のリーダーに押し上げることはできない。これは、全ての企業が身につけなければならない哲学であると言える。物理的な商品を扱う小売業を営んでいるのなら隣の商店より優れたアプリを制作するのではなく、ユーザーが商品を購入するまでの一連の工程を見直す所から始めるべきだろう。それは、配達や返品への対応、そしてユーザーがサービスを利用し終わるまでの間にユーザーとどのように関係を築いていくかということまで含まれる。

ホテルを運営しているのなら、テクノロジーを今の時代に相応しいもてなしやその人に最適なサービスを提供するために利用すべきだ。例えば、スタッフはフロントに常駐するのではなく、iPadを持たせて接客を行うようにするなど、フリーランスやリモートワークする人が増える将来のことを見据え、ホテルの役割について考え直すことができる。

レンタカー事業を展開するHertzはテクノロジーを活かしきれていない一つの例だ。アプリからはレンタカーを予約することができ、デジタルディスプレイの特集にはゴールドメンバーである私の車が掲載されることもあるが、それだけだ。

レンタカーの予約の時間と場所を変更するには、面倒なことに電話をしなければならない。アップグレードしたい場合でも、車を借りる時に何時間にも感じる手続きをしなければならない。テクノロジーを事業とより深く連携させた場合、例えばiBeaconを使用してアップグレードの提案を表示し、ユーザーがスワイプ一つで承認することができるようにすることもできるだろう。最新テクノロジーを活用し、借りた場所以外の店舗でも車を返せる彼らのワンウェイレンタカービジネスをより魅力を与えることができる。所有する多くの車を上手く活用することで数時間単位のレンタルも可能となる。テクノロジーを部分的に使うのではなく、このような施策を実施することで持っている資産を有効活用し、利益を劇的上げることが可能になるだろう。

デジタル担当やデジタル部門は不要だ。「デジタル」という言葉さえ、過去の遺物である。企業は、変革の時代にいることを認識し、テクノロジーがもたらす可能性と脅威を鑑みた上で近い将来の自社の立ち位置について検討すべきだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook

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TechCrunch Japan

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