トウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ(TDMS)は4月24日、アナログレコードの販売やデジタル音源のダウンロード販売、ストリーミング試聴ができるプラットフォーム「Qrates」を正式オープンした。
伸びるアナログレコード市場とその課題
最近、アナログレコードの販売枚数がまた伸びているらしい。そもそもCDが音楽メディアの主流となったのが1999年頃だそうで、そこからレコードの販売量が減少。DJやオーディオマニアをはじめとした根強いファンが市場を支えているものの、存在としてはマイナーなものになっていった。
でも今じゃデジタル音源のダウンロード販売がCDに取って代わろうとしている状況。そんな動きの反動か、今度はアナログレコードの価値が音楽ファンから見直されている。もちろんCDやダウンロード販売のからすれば微々たる数字であるが、アメリカとイギリスでは2007年頃から再び売上が増加。アメリカでは2014年、アナログレコードの販売枚数は前年比52%増の920万枚になった。これは過去20年間で最も大きい数字だとか。
日本でもレコード人気は再燃しつつあるそう(とはいえ2013年で26万8000枚、2013年で40万1000枚さらに小さい数字)。家電量販店なんかを見れば、1万円程度で購入できるスピーカー一体型のレコードプレーヤーなんかも登場している。だが一方で課題もある。それはレコードの製造コストにまつわる話だ。
レコードは素材となる樹脂をプレスし、さらにカッティングして作るわけだけれども、日本でプレスが可能なのは東洋化成の1社のみ。
そこでは最低100枚からのオーダーを受けているが、レコードはロット数が少ないほど高コストになるもの。たとえば300枚程度をオーダーして1500円程度で販売しても、流通手数料や小売り店へのマージンを考慮すると(そもそも小さなレーベルや個人が流通パートナーと組めるのかという課題もある)、オーダーした音楽レーベルは赤字になり、アーティストには利益を還元することすらできないなんてケースもザラ。在庫を抱えるリスクだってある。Qratesはそんな“アナログ回帰”にまつわる課題を、音楽配信やクラウドファンディングの仕組みを組み合わせることで解決しようとしているのだ。
クラウドファンディングで“利益の出る”レコードの販売を実現
Qratesでは、アーティストがサイト上に楽曲をアップロードして、ストリーミングで配信したり、ダウンロード販売したりできる。ここからが最大の特徴なのだが、デジタルデータの試聴や販売に加えて、クラウドファンディングの仕組みを使ったアナログレコードの販売が可能なのだ。予約が集まれば、最低100枚から、在庫リスクを負うことなくプレスオーダーができる。
同社はこのために、チェコのプレス工場と提携しているそうだが、チェコからの空輸料金を差し引いても国内より安価でプレス可能なのだそう。製造原価に加えて販売手数料15%が差し引かれるが、小売り店を通さない直販モデルになっているし、前述の1500円程度、300枚のプレスでもちゃんと利益が出る設計(試算ではこの価格、プレス枚数で販売価格の35%程度が利益になるようだ)になっているんだとか。
Qratesでは、アーティスト向けに3Dデザインツールも提供しており、ジャケットやラベルなどを自由にデザインすることが可能。また製造枚数や販売単価などをシミュレーションできるマネージメント機能も用意。さらには、アナログレコード購入者向けの特典として楽曲を配信するといったボーナストラックの提供機能なども用意する。
音楽配信を6年、気付いたアーティストの課題
東京・表参道に拠点を置くTDMSは、これまで音楽配信サービス「wasabeat」を約6年間提供してきた。wasabeatは現在1万社のインディーレーベルと組み、クラブミュージックを中心に100万曲の販売を行っている。だが音楽配信をやればやるほどに、音楽ビジネスに課題や悩みを抱えることになったのだという。
やっぱりアーティストからすればダウンロード販売だけでなく、最終的にはレコードを作りたい。でも自主的に作ったところで儲からないワケだ。そうなると「結局息が続かなくて辞めてしまう。音楽業界不遇の時代を見てきた」(TDMS代表取締役のペ・ヨンホ氏)。
海外ではSoundcloudやBandcampのようにアーティストが自ら楽曲をアップロードし、プロモーションや販売をするというプラットフォームが登場しているが、日本にはまだそういった環境もほとんどない状況だ。レーベルではなく、アーティストが自ら発信できる場所——しかもデジタルとアナログ両方のニーズを解決できる場所を作るべく、Qratesが生まれたのだそう。なおTDMSはQratesの提供に先駆けて、IMJキャピタルとエクシングからの資金調達を受けている。