大規模VCファンドが小粒のラウンドに参加するという2020年の逆説

1月17日に、最近、VCがどれほど疲弊しているかについて書いた。ディールの数が多すぎること、1ディールあたりにかける時間が少なすぎること、同じ出資案件を巡る他のVCとの果てしなく激しい競争などについて触れた。

友人の創業者は、昨晩、「過去1年間に90人以上の投資家から次のラウンドへの参加申し込みを受け取った」と筆者に打ち明けた。彼は資金調達なんて始めてもいない。「僕はいくつかメールを見逃したかもしれない」と表情を変えずに言った。そもそも見逃さない方がおかしい。

そうした熱狂的ともいえる動きが、2020年のベンチャーキャピタル業界の機軸となる次のパラドックスへと導く。すなわち、大規模ファンドがアーリーステージで少額の小切手を切る。

大規模ファンドは投資機会として大きなラウンドを必要とするから、これはパラドックスだといえる。10億ドル(約1100億円)のファンドが、マネジメントフィーを差し引いた残りを、100万ドル(約1億1000万円)の小切手800枚に換えてシード投資に充てる、といったことはできない(できないことはないが、煩雑な上、管理不能になる)。通常のパターンはそうではなく、ファンドの規模が大きくなると、マネージングパートナーらが資金を効率的に投資できるよう、レイターステージのラウンドにどんどんシフトする。2億ドル(約220億円)のファンドが1件800万ドル(約8億8000万円)の資金を複数のシリーズAラウンドに投資していたとする。これが10億ドル(約1100億円)のファンドになれば、複数のシリーズBやCラウンドに1件4000万ドル(約44億円)で投資するようになる。

これはこれで論理的だが、現実世界のロジックはもう少し複雑だ。ポイントは、どのファンドも巨額の資金を集めつつあるということだ。

全米ベンチャーキャピタル協会が先に発表したぶ厚いレポートが明らかにしたように、2019年は多くの点で大規模ファンドの年だったと言える(ソフトバンクのファンドが資金調達しなかったにも関わらず)。ただ「メガファンド」(5億ドル=約550億円以上の規模と定義)に関して言えば、2019年に立ち上げられたファンド数は2018年を下回った。

あらゆるレイターステージのファンドは、レイターステージのディールを求めているが、単純にそんなにたくさんのディールはない。確かに、すばらしい企業やリターンの機会はそこら中に転がっているが、キャップテーブルに載せてもらおうと画策しているファンドは数十とあるし、バリュエーションは投資家が競争から抜け出すアピールポイントの1つにすぎない。

これは、多くの点でPlaid(プレイド)の物語そのものだ。Plaidはフィンテック関連のAPI開発会社で、Crunchbaseによると、2018年後半にIndexとKleinerからシリーズCで2億5000万ドル(約275億円)を調達した。その後、Visaが53億ドル(約5800億円)で買収することを発表した。複数のVCの情報筋によると、「誰も」がシリーズCに注目していたという(その「誰も」が疲弊していたに違いない)。

シリーズCラウンドで「ノー」と言った1人のベンチャーキャピタリストが先日、「2019年のバリュエーションは信じ難いほど高かった」と筆者に打ち明けた。同社は2018年に数千万ドル台後半(数十億円台後半)の売上を計上していた。筆者もそう聞いていた。シリーズCのバリュエーションとして報じられた26億5000万ドル(約2920億円)と合わせると、売上高マルチプルは30〜50倍あたりになるということだ。同社が今後ユーザーの口座データへのアクセスを確保するために、銀行と戦っていかなければならないことを考えれば、これは非常に割高だ。

ForbesのJeff Kauflin(ジェフ・カウフリン)氏によると、2019年の売上高は今や数億ドル台前半(数百億円台前半)の数字になった。つまり、Visaも同様に高いマルチプルでPlaidを買収した可能性が高い。KleinerとIndexの投資は1年ほどで2倍になったが、だからといってIRR(内部収益率、投資の利回りの指標)に関してとやかく言われる筋合いはない(特にグロース投資においてはそうだ)。だが、相手がVisaでなければ、そしてイグジットのタイミングがこれほど良い結果をもたらす錬金術のようなものでなければ、すべては違った展開になっていたかもしれない。

高いバリュエーションよりもさらに悪いのは、こうしたレイターステージのラウンドが非常に独占的かつ排他的になる可能性があることだ。聞きおよぶ限り、PlaidのシリーズCラウンドは、かなりオープンなプロセスだったようだ。そのため、多くの企業がディールを検討でき、アーリーインベスターと創業者の希薄化を抑えながらバリュエーションを引き上げることができた。だが、プロセスがこう進むとは限らない。

早いラウンドで投資したファンドが、続くラウンドでも投資しようとする傾向がある。シリーズAで500万ドル(約5億5000万円)を投入した投資家が、5000万ドル(約55億円)をシリーズBで、さらに2億5000万ドル(約275億円)をシリーズCでも投入したいと考える。結局、彼らには資金があり、すでに会社を知っていてCEOとの関係も構築済みだから、資金調達のプロセスで時間を浪費するのを避けることができる。

そのため、最近、多くのディールで、レイターステージのキャップテーブルから新規投資家が実質的に締め出されている。なぜなら、キャップテーブルの周りにはすでに多くのファンドがよだれを垂らして座り込み、賭け金を増やそうと狙っているからだ。

ここにパラドックスが現れる。レイターラウンドに参加するには、すでにキャップテーブルに載っている必要がある。つまり、アーリーステージのより小規模ラウンドに参加しなければならない。突如、グロース投資家がスタートアップの資金調達での参加の選択肢を得るために、シードを含むアーリーステージのラウンドにまで参加することになるわけだ。

あるベンチャーキャピタリストが先週筆者にこう説明した(以下、言い換えしている)。「昨今、妙なのは、シードラウンドにSequoiaのようなファンドが登場しても、バリュエーションや契約条件などには見向きもしないことだ。すべてはレイターステージのラウンドのためだ」。明らかに少々誇張されているとは思う。ただ、大規模ファンドにとって100万ドル(約1億1000万円)の小切手というのは、四捨五入で生じる誤差くらいの金額でしかない。本当のリターンはその先のメガラウンドにある。

では、シードファンドは消滅してしまうのか。それは違う。しかし競合他社が文字通りどうでもいい投資であると考えたり、あるいは投資をマーケティング費用や次回以降のラウンドへの参加費として捉えるなら、バランスの取れた、リスクを加味したポートフォリオを構築することは難しい。一方、創業者にとっては、正しいベンチャーキャピタルを選べるならば、今も本当にすばらしい時代だと言える。

画像クレジットHalfdark / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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