ハードウェアのクラウドファンディングでは、約束のタイミングで製品を完成させ、実際に出資者に送付できるという一見当たり前のことが、往々にして最大の難関になる。このことを誰よりもよく知っているIndiegogoは、Arrow Electronicsと提携して起業家たちに技術的援助と市場化のためのサポートを提供し、製品が確実に世に出るように、働きかけようとしている。
少なくともガジェットと電子製品では、うちが起業家たちが真っ先に頼りにするクラウドファンディングプラットホームでありたい、とKickstarterへの対抗意識に燃えるIndiegogoは、これまでも、そのためのいろんな手を講じてきた。
起業家サポートをさらに充実
提携は両社にとって巧妙な戦略だ。
Arrowとの提携は、Indiegogoが製品の市場化過程に手を染める、ということで、クラウドファンディングの世界ではこれまでになかった新しい動きだ。一定の資格を満たした資金募集キャンペーンは、Arrowの設計ツールやプロトタイピングサービス、製造過程のサポート、サプライチェーン管理の援助、そして何よりも重要な専門的な技術力に直接アクセスできる。対象となるプロジェクトは、資金目標額最大50万ドルまでだ。
“Arrowが助けてくれることによって、製品の完成がより確実になり、より早くなる”、とIndiegogoのCEO David Mandelbrotは語る。“最近のIndiegogoではテクノロジー関連とIoT関連のプロジェクトがものすごく増えているが、それは最近のうちが、単なる資金募集を超えて、もっといろんな面で起業家を支援しているからだろう。Arrowとのコラボレーションは、それらの中でもとくに意義が大きい”。
Arrowはまず、Indiegogoのキャンペーンを見て、それの技術的な実現可能性(フィジビリティ)、製造可能性、良質なアイデアかそれとも起業家の妄想か、などを点検する。そしてOKになった企画にはArrowのバッジがつくので、できる人たちが背後にいるな、これならブツは無事に完成するな、ということが分かる。
昨年Indiegogoは、クラウドファンディングの段階から先の部分で起業家を支援するサービスを、いくつか導入した。たとえばInDemandは、クラウドファンディングの期間が終わっても予約を受け付けられる。Marketplaceは、Indiegogoがeコマースのように振る舞って、完成し製造可能となった製品を売ってあげる。
二社にとって賢明な戦略
Arrowとの提携はIndiegogoとしてはとても興味深いやり方だが、問題はビジネスの意思決定としてどうか、だ。Arrowバッジを導入したことによって、資金を得やすい企画と、そうでない企画の差別ができてしまうだろう。
ArrowとIndiegogoのつき合いは、これが初めてではない。大成功したSolar RoadwaysとCanaryはどちらも、製品の完成をArrowがヘルプし、どちらも200万ドルを超える目標額だったが、無事に納品にこぎつけた。今度の提携は、そういう関係の前例を正式に事業化したものにすぎない。
提携は両社にとって巧妙な戦略だ。ArrowはIndiegogoからお墨付きをもらったようなものであり、取引生成戦略の一環としてアクセラレータHighway1を創業したコンペティターのPCHなんかよりも、ずっと有利になる。一方Indiegogoのウィン(win)は、ハードウェアプロジェクトの成功率を高めることによって、起業家と支援者両方の信頼と評価を勝ち取ることだ。すなわちこれは、両社ウィンウィンの提携関係なのだ。
Arrowとの提携が独占的契約なのか、そこはまだ分からないが、ぼくの期待としては、ヘルパーは複数いた方がよい。とにかくどんなに素晴らしいプロジェクトが、どんだけ大金を集めても、期間内に無事、製造と送品までこぎつけなければ、せっかくのマーケットプレースも無駄な努力だ。