Falcon Heavyは1年前に飛行テストに成功しているが、米国時間4月7日の日曜に予定されているのは、本番の商用衛星打ち上げだ。ライバルの宇宙企業は固唾をのんで成否を注視している。SpaceXの新ロケットが成功すれば、大重量のペイロードを経済的かつ頻繁に軌道に送り込むことできる時代の幕開けとなる。我々は打ち上げを、(ロケット発射場の)ケープ・カナベラルの現場から報じる予定だ。
来る4月7日(日本時間4月8日の月曜)に予定されているFalcon Heavyの打ち上げは、昨年2月のテスト成功以来、初の飛行となる。テスト飛行のときのペイロードはイーロン・マスク愛用の電気自動車、赤いTeslaロードスターでデビッド・ボウイの曲をBGMにダミー宇宙飛行士のスターマンがハンドルを握っていた。今は火星軌道を過ぎているはずだ。この成功によりSpaceXはローンチ・カスタマーを獲得できた。日曜の打ち上げはロッキード製のArabsat-6A通信衛星を静止軌道に送り込む予定だ。下は昨年、私(Coldeway)と同僚のEtheringtonがFalcon Heavyのテスト打ち上げを取材したときのものだ。
今日の地上テスト噴射も成功しているので天候に問題がなければ打ち上げは予定どおり実施されるはずだ。SpaceXのCEOであるイーロン・マスク氏もツイートしているとおり、今回のFalcon Heavy Block 5(つまり商用バージョン)はオリジナルに比べて推力が10%アップしているという。つまり安全率もそれだけ向上しているとみていいだろう。
なぜFalcon Heavyは宇宙産業にとって非常に重要なのか?アポロ計画の成功以来、何百トンという衛星が地球周回軌道に(あるいはそれを超えて)打ち上げられている。簡単にいえばFalcon Heavyが革命的なのは打ち上げ費用だ。
衛星打ち上げはそれ自身きわめて複雑、困難な仕事であり、重量と軌道高さが増えると難しさは指数関数的に増大する。ロケットの素材、燃料が大きく進歩したことは、中型、小型のシステムに最大限のメリットをもたらした。ミニ衛星、マイクロ衛星はきわめて安価に可能となり、われわれは何千もの小型衛星のネットワークが地球を取り囲む新しい時代の入り口に差し掛かっている。
Rocket LabのElectron(使い捨て)やFalcon 9(再利用)などのシステムは中小型衛星の打ち上げコストをそれまでの何分の1にも引き下げた。
しかし大重量の衛星を高い軌道に打ち上げる能力がある大型システムのコストは依然として極めて高価なままだった。多数の小型衛星10トンぶんを軌道に投入することはスタートアップにも可能になったが、100トンを打ち上げる能力は依然として超大企業に限られる。
Falcon Heavyは大型衛星の打ち上げコストをミニ、マイクロ衛星並みに引き下げられる可能性を初めて示したシステムだ。Falcon Heavyのコストは1億ドル前後と推定されている。これは小銭とはいえないが、ライバルのDelta IVが3.5から5億ドルすると考えられているのに比べれば画期的に安い。
これほどの価格引き下げはあらゆる宇宙事業を根本的に変える。NASAは同じ費用ではるかに多くの惑星探査ミッションを実行できるだろう。もちろんDelta IVの打ち上げ実績は優秀で、過去15年以上にわたって100%の打ち上げ成功率を誇っている。この信頼性がDelta IVのプレミアム価格の理由の一部となっている。しかしFalcon Heavyが実績を積めば状況は変わってくる。
大型衛星の打ち上げは(ミニ衛星の場合も同様だが)、 極端にサプライサイド優勢だ。つまり打ち上げ能力が最大の制約要因となっている。政府や巨大企業は衛星(ないし惑星探査機)打ち上げの順番を待つために何年も行列に並んでいるのが現状だ。SpaceXではFalcon Heavyのペイロード・スペースをロケットが製造される端から埋めていくことができる。Flacon Heavyの中央本体は使い捨てだが、両側のブースターは再利用可能だ。これはライバルに比べてはるかに大きな供給能力を約束する。Falcon Heavyが成功すれば巨額のビジネスとなるだけでなく、その影響は宇宙産業全体に及ぶだろう。
低軌道への衛星投入50トン以上というFalcon Heavyの能力には、今のところライバルがほとんどいない。しかしこの閾値の下は競争が激しい。ロッキードとボーイングの共同事業であるULA、EUの宇宙事業、Arianeをはじめ、ロシア、中国、さらにはジェフ・ベゾス氏のBlue Originのようなスタートアップも低価格の次世代衛星打ち上げシステムの開発に全力を挙げている。この宇宙事業の将来も我々にとって重要な課題だが、詳しく論じるのは別の機会に譲りたい。
現時点ではFalcon Heavyは桁外れの打ち上げシステムだ。能力を高めたほか、大きくコストを引き下げ数多くの宇宙事業を手の届くものにするというのは、野心的であるだけでなく歓迎すべきビジョン。現地時間日曜の打ち上げはこの変化が起きる瞬間を目撃するチャンスになるかもしれない。
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