既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない——Y Combinatorユニス氏

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2016年11月17日〜18日にかけて渋谷ヒカリエで開催された「TechCrunch Tokyo 2016」の2日目朝、「シリコンバレーの最前線ー増える大企業との提携・買収」と題したセッションが行われた。シリコンバレーを語るのに欠かせない著名アクセラレーター・Y CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏と、Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏が登壇した。

Y Combinatorは2005年に設立されたシリコンバレーのアクセラレーターで、スタートアップに投資を行い、3カ月のプログラムを通じて、様々な支援を行っている。最終日にはDEMO DAYが開催され、他の投資家へプレゼンし、資金調達を行っている。プログラムの卒業生には、Airbnb、Dropboxなど世界的に活躍するスタートアップがいくつもある。ユニス氏自身も起業家で、顧客と店主を結び、店に対しフィードバックメッセージを送信できるサービス「TalkBin」を2010年にGoogleに売却した経験があり、またY Combinatorのプログラムにも2011年に参加するなど、起業家のバックグラウンドを持つ。

一方、Scrum Venturesは2013年に設立された、サンフランシスコを拠点をおくベンチャーキャピタル。幅広い分野のスタートアップ50社以上に投資し、またアメリカのスタートアップのアジア進出の支援も行っている。宮田氏も元起業家で、日本とアメリカでエグジットを経験しており、自分に似た著名人を教えてくれるサービス「顔ちぇき!」を提供するジェイマジックの創業者で、その後2009年にモバイルファクトリーへ売却している。

この元起業家であり、現在はシリコンバレーを代表する投資家が、シリコンバレーの動向と〜について語った。

基準は「エンジニアリングのタレントがあるところ」

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Scrum Venturesゼネラル・パートナーの宮田拓弥氏(左)とY CombinatorのパートナーのQasar Younis(キャサー・ユニス)氏(右)

Y Combinatorは前述の通り、多くの成功したスタートアップを生み出している。今やシリコンバレーに限らず、全世界のスタートアップが応募しており、その応募数は6000〜7000に及ぶという。その中から約500社へインタビューを行い、約100社がプログラムに参加でき、「ファンディングは10分で決めている」という。

ここ2〜3年で、更に参加するスタートアップの多様化が進んでいるように感じられる。応募は全世界から受け付けており、実際に国やバックグラウンドは関係なく、またテクノロジー企業だけでもないが、ユニス氏は選考基準について、「エンジニアリングのタレントがあるところ」と述べた。また「YCモデルを他の地域で展開しないのか?」という宮田氏の質問に対しては、「中国、インドでは考えているが、エコシステムが異なるので、現地にオフィスを構えてやる必要がある」と話した。

現在、Y Combinatorのメンバーはパートナー(編集注:VCにおけるパートナーとは、投資担当者を指す)が18人、スタッフが20人。ユニス氏自身は、2013年からY Combinatorでスタートアップへ関わり、2014年に正式にパートナーに就任しているが、この時期に組織が強化され、メンバーが増えたという。ユニス氏自身が「私たちもスタートアップだ」と話していた。

内部組織を強化しながら、更にスタートアップエコシステム構築を進めるY Combinatorが、2015年7月に発表した「YC Fellowship」についての話題を宮田氏が投げかけた。TechCrunchの読者であればご存知かもしれないが、YC Fellowshipとは、8週間のプログラムでまだプロダクトがないスタートアップに対して、助成金(株式を取得せずに提供される)を与えるもの。従来プログラムとの違いは、対象がアイデア段階のスタートアップであること、プログラム期間が短いこと、助成金があること、またシリコンバレーへの移住が必須でないことが挙げられる。

ユニス氏はYC Fellowship開始の背景を、「昔に比べて、Y Combinatorに入るのも難しくなってきたことと、入る前から起業家が成長できる場を作ること」と話す。幅を広げるという意味で、規模は年間200社程度を想定しており、リモートで支援、教育を行うという。インターラクティブにしていきたいと言いながらも、規模が大きいだけに、難しさは見える。なお通常でもパートナー1人あたり、15社程度を担当しているという。

既存事業の成長は、未来に価値を生み出さない

近年、日本で注目されている大手企業とスタートアップの連携について、シリコンバレーに目を向けると、同じように大き動きがいくつもある。自動運転システム開発を手がけるCruiseのGMによる買収、ライドシェアの通勤バンを運営するChariot(宮田氏のScrum Venturesの投資先でもある)のフォードによる買収などが挙げられる。

これら大手企業による買収の中でもとくに自動車領域が活発であると宮田氏は述べ、ユニス氏は「ソフトウェア、機械学習が自動車業界に必要とされ、(ハードに強い)大企業による買収が行われた。自動車業界は10〜20年で大きな変化が起きる」と話した。ちなみにユニス氏のキャリアは、自動車業界出身で、GMやBoschでプロダクトマネージャーも経験している。また、他の業界についても、今後スタートアップの持つ技術が必要となり、今日自動車業界で多く見られた買収・連携の動きは現れるとユニス氏は話した。

スタートアップが持っているものとは何だろうか。予算や人員で考えると、当然ながら大企業が強いのだ。この点について、「従業員と起業家は異なる。いかに利益をあげるのか(=従業員の役割)というのはイノベーション(=起業家の役割)ではない。」と言い、「Googleは検索サイトに始まり、その後は様々な事業を展開をしているが、ほとんどが買収によるものだ。これをGoogleの終わりと批判する人もいるが、イノベーションを会社(大企業)のなかで行うことは難しい」と話す。その理由として、「新しい会社にはレガシーなどなく、5000人よりも20〜30人が勝る」とユニス氏は述べた。

では、大企業はどのように動くべきかという宮田氏の問いかけに対し、ユニス氏は続けてGoogleを例に挙げながら、「キャッシュフローを戦略的に使っていくべき」と言い、資金を既存事業の成長にあてることは、未来に価値を生み出さないと話した。営利企業である以上、利益を出すことは大前提であり、当然ながら、利益は重要でないと言っているわけではないが、イノベーションが最も尊敬される、まだにシリコンバレーの考えのように思われる。ユニス氏のメッセージは、半分は失敗覚悟ででも、戦略的に買収を進めるべきだというものだ。

起業家をヒーローとして扱うべき

最後にユニス氏はメッセージとして二つ述べた。一つは、スタートアップを産み出していく全体へのメッセージとして、「エコシステムの中で起業家をヒーローとして扱うべきだ。大企業の経営者がヒーローなのではない」と話した。もう一つは、今日日本でも度々話題にあがる働き方について、「長時間オフィスにいることが生産的でないと気づくべきだ。1日4〜5時間のほうが生産的という調査もある」と話していた。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。