東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は10月15日、国内リーディングカンパニーとのコンソーシアム型インキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」の第3回支援先を発表した。また新たな陸運業界のパートナー企業として、ヤマトホールディングスが参画することを明らかにした。なお、同プログラムは1年に2回実施しており、現在第4回の公募(11月25日まで)も実施している。
東大IPC 1stRoundは、米スタンフォード大学出身者によるアクセラレータプログラム「StartX」をベンチマークに東大IPCが開始したインキュベーションプログラム。その対象は、スタートアップの起業を目指す卒業生・教員・学生などの東京大学関係者や、資金調達を実施していない東京大学関連のシードベンチャーとなっている。
支援先となるスタートアップ企業には、パートナー企業の協賛による各社最大1000万円の活動資金を支援。このパートナー企業としては、先のヤマトホールディングス以外では、すでにJR東日本スタートアップ、芙蓉総合リース、三井住友海上火災保険、三井不動産、三菱重工業、日本生命保険、トヨタ自動車の7社が参画済みだ。
さらに東大IPCは、本格的な事業開始に必要なリソースを実証実験・体制構築・広報・資本政策策定などのハンズオン支援とともに6ヵ月間併走し、視線先事業の垂直立上げの実現を目指す。
東大IPC 1st Roundでは、すでに過去2年間に累計29チームを採択し、会社設立・資金調達を支援。採択1年以内の会社設立割合は100%、資金調達成功率は約90%、大型助成金の採択率は50%となっているという。
また同プログラムは、会社立ち上げと最初の資金調達を支援すると同時に、大手企業と有望な東大関連ベンチャーの協業関係の創出にも注力。すでに採択先とパートナー企業の資本業務提携など、パートナー企業と採択先企業のアライアンスが多数実現しているという。2020年からは採択先に対する東大IPCによる投資も開始しており、BionicMおよびアーバンエックステクノロジーズに対する投資を実行済みとしている。
今回支援先として採択された7チームは、以下の通りだ。
JIYU Laboratories: 学術論文の自動要約サービスによる情報収集の効率化
JIYU Laboratoriesは、学術論文をAI技術により要約し、非英語圏研究者の研究効率を劇的に向上させることを目指すスタートアップ。
一般に学術論文は英語で書かれており、非英語圏研究者の場合、何時間もかけてそれら論文を読んだ末に、結局自分にとって関係ない内容であることが判明することが多々ある。
そこでJIYU Laboratoriesは、論文要約サービス「Paper Digest(ペーパー・ダイジェスト)」を開発することで、文章全体を読むことなく、その内容がユーザーにとって有益であるかを判断できるようにした。
JIYU Laboratoriesのメンバー2名は、いずれも大学の研究者であり、多くの非英語圏研究者の目線を意識した開発を強みとしている。
セレイドセラピューティクス: 造血幹細胞の体外増幅技術を用いた医療への応用
近年、新たな治療法として、幹細胞を用いた医療への応用が注目されている。なかでも血液の源である造血幹細胞は、白血病などのがんをはじめ難治性の血液疾患や遺伝子疾患など、様々な疾患の治療に有益であるとされている。
しかし、セレイドセラピューティクスによると、現在の臨床現場では造血幹細胞を体外で増幅することは難しく、性質の良さを最大限に利用できていないという。
これを解決すべくセレイドセラピューティクスは、造血幹細胞の体外増幅技術を活用することで、これまでにない医療への応用方法を提案し、新たな治療法を開発することを目指すとしている。
SoftRoid: 建築現場を巡回しデータ収集するソフトロボットおよびアプリの開発
SoftRoidは、不整地などを走破可能なソフトロボットと、現場の可視化・分析アプリケーションにより、建設業界の労働生産性向上を目指すスタートアップ。
製造現場ではセンサーを配置し「データ収集→可視化→分析→改善」により生産性向上を図るものの、多くの建築現場では人手による断片的な写真撮影と目視による進捗管理が行われており、データ収集・活用が進んでいないという状況にある。
この課題の解決に向けSoftRoidは、建築現場で想定される不整地や階段を走破可能なソフトロボットと、現場の可視化・分析アプリケーションを開発。
センサーを搭載したロボットが建築現場を自動巡回することで、「データ収集→可視化→分析→改善」というサイクルを可能にし、建築現場の労働生産性向上を推進する。
ARAV: 重機の遠隔・自動化により現場をアップデート
ARAVは、既存の建設機械に後付で先進機能を追加することで、建設現場のDX・自動化を目指すスタートアップ。
ARAVによると、建設業界は、市場規模60兆円にもかかわらず、求人に対して16.6%しか働き手が集まらず、55歳以上が約35%かつ29歳以下が約11%と他業界よりも高齢化が進行し、深刻な人手不足が続いているという。
ARAVは、自動運転技術による協調無人施工建機、自動運転技術による協調無人施工建機、建機を含む現場の状況管理クラウドサービスを提供。
2020年6月には、油圧ショベルをインターネット経由でリアルタイムに遠隔操作する実証実験に成功、同システムの事業化を開始した。同遠隔操作装置は、メーカー・機種を問わずに既存の建設機械に後付けで搭載でき、インターネットに接続したノートPC、スマートフォンであればどこからでも遠隔操作が可能となっている。
HarvestX: 植物工場における自動受粉・収穫ロボットシステムの開発
HarvestXは、農作物の完全自動栽培による食糧問題の解決をミッションとして掲げるスタートアップ。その実現の一歩としてイチゴの完全自動栽培の実現に取り組んでいる。
現在、レタスやバジルといった葉物野菜の植物工場は多い一方、果菜類の植物工場はほとんど存在しない。その理由としては、一般的に受粉に用いられるミツバチの飼育が困難、工場内における受粉手段の欠如といった課題が挙げられる。
この受粉については、現状ほとんどの作物がミツバチによる虫媒受粉に頼っているため、代替手段となる技術開発が求められているという。
これら課題解決のため、HarvestXはロボットによる受粉・収穫技術を確立し、果菜類の植物工場、完全自動栽培を実現することを目指している。今後イチゴだけでなく多種多様な作物への応用など、研究開発および事業化を推進していく。
ヤモリ: 収益不動産を最適化するクラウド不動産経営管理ソフト
ヤモリは、「不動産の民主化」をミッションに、所有不動産の収支を可視化し、管理業務を効率化するクラウドサービスを提供するスタートアップ。すでに個人・法人の不動産オーナーと管理会社が利用しており、約100億円の不動産資産を管理している。
不動産投資に関する情報は閉ざされているため、不動産の所有は一部の人に偏っているという。これが空き家や建物の老朽化、低属性の方の入居拒否増加といった社会課題の根幹にあるとしている。
ヤモリは、デジタル技術を活用し、しっかりと賃貸経営を行える不動産オーナーを増やすことで、賃貸市場を活性化させ、透明性ある不動産市場の実現を目指している。
ORLIB: 二次電池および関連製品の企画・製造・販売・輸出入と知的財産許諾事業
ORLIBは、リチウムイオン電池の技術をベースに、多電子反応を利用した高エネルギーで、エコ・安全・低コストの新世代二次電池の実用化を目指すスタートアップ。
まずは軽量・高エネルギーの特徴を活かしドローン向け電池に取り組み、現在のドローンが抱える飛行時間が短いという課題への解決策を提示する。これにより新型電池としての実績を確保し、他の広範な用途への電池の展開の基礎とすることを目指している。
ORLIBの新世代二次電池は、従来よりも大きなエネルギーを手軽かつ安価に貯蔵し、必要に応じて取り出せるため、持続的で豊かな社会の実現に貢献できるとしている。
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