SpaceXとボーイングは、NASAと協力して独自の宇宙船を開発している。その狙いは、民間開発の宇宙船による宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)への輸送だ。
宇宙開発の民間企業へと委託の一環として進められているこの計画だが、その道のりは平坦ではない。
民間企業による宇宙船開発のメリットと、その現状を紹介しよう。
ロシアに依存する現状
現在NASAの宇宙飛行士は、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から国際宇宙ステーションへと向かう。これは、ロシアの「ソユーズ」宇宙船を利用するためだ。
以前、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送には、ソユーズとスペースシャトルが利用されてきた。しかしスペースシャトルが2011年に引退したのにともない、アメリカはロシアに宇宙飛行士の輸送を委託することになる。
現在、アメリカはソユーズの座席をロシアから購入している。この価格は年々上昇しており、アメリカが宇宙開発にてプレゼンスを示せないだけでなく、予算確保という意味でも頭の痛い問題となっている。
輸送計画の民間委託
そこでNASAは、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送を民間企業に委託する「商業乗員輸送プログラム(CCP)」を表明する。民間企業のコスト感覚とスピードを、宇宙開発に持ち込むのがその狙いだ。
そして商業乗員輸送プログラムに選ばれたのは、SpaceXとボーイングの2社。それぞれがNASAから26億ドル(約2900億円)と42億ドル(約4700億円)の契約を結び、宇宙船を開発することになる。
上の画像は、SpaceXの宇宙船「Crew Dragon」だ。国際宇宙ステーションへの物資補給に利用されていた「Dragon補給船」を発展させたもので、最大7人の乗船が可能だ。また船内には多数のタッチパネルが搭載され、先進的な操縦システムを実現している。
ようやく実現した打ち上げ
SpaceXとボーイングの宇宙船開発は、数度の延期を繰り返した。宇宙飛行士の輸送に利用される宇宙船は高い安全性の基準が設けられており、それをクリアする難しさがうかがえる。
まず、宇宙船の打ち上げにこぎつけたのはSpaceXだ。2019年3月に無人のCrew Dragonを自社のロケット「Falcon 9」にて打ち上げ、軌道投入から国際宇宙ステーションへのドッキング、分離、そして海上への着水と回収という、難しいミッションを1発で成功させた。
宇宙船の内部には、宇宙飛行士を模したダミー人形「リプリー」と、「ゼロGインジケーター」と名付けられた人形が搭載された。宇宙船からの動画配信では、このダミー人形が宇宙空間で浮かび上がる様子も確認されている。
さらに、国際宇宙ステーションにドッキングしたCrew Dragonには、当時の長期滞在クルーだった宇宙飛行士も乗り込み、ゼロGインジケーターを回収している。宇宙船は気密性なども問題なく、SpaceXの技術が非常に高いレベルにあることが実証された。
しかし、今年4月に実施されたエンジンテストにて、Crew Dragonは大きなトラブルに遭遇する。事故の詳細は明かされていないものの、テストの際に宇宙船から煙が上がったのだ。また、非公式ながら爆発の模様を捉えた動画も出回った。
Crew Dragoの側面には、小型エンジン「Super Draco」が搭載されている。これは、宇宙船にトラブルが発生した時に動作し、緊急脱出のために利用されるエンジンだ。例えば、ロケットの打ち上げの最中にトラブルが発生した場合、そこから離脱するといった使用方法が想定される。
宇宙飛行士を輸送する宇宙船にとって、緊急脱出装置は必須の装備となる。つまり、このSuper Dracoの安全性が確認されない限り、Crew Dragonの運用が始まることはない。公式声明は発表されていないものの、このトラブルによりCrew Dragonの計画が遅延する可能性が出てきた。
なお、SpaceXはCrew Dragonに搭乗する宇宙飛行士のために、専用の宇宙服もデザインしている。上の宇宙服は、マーベル映画のコスチュームも手がける「Ironhead Studio」のデザイナーが手がけたものだ。このようなスタイリッシュな宇宙服の登場も、宇宙開発が新たな時代に突入したことを予感させてくれる。
SpaceXの宇宙船に比べて話題に上ることは少ないが、ボーイングも宇宙船「CST-100 Starliner」の開発を進めている。
CST-100 Starlinerは7人乗りの宇宙船で、かつて人を月へと運んだ「アポロ宇宙船」にも似た円錐形となっている。内部には貨物を搭載することもでき、最大10回の再使用が可能。またスペースXと同じく、ボーイングも専用の宇宙服をデザインしている。
先述のようなトラブルや開発の遅れにより、SpaceXとボーイングの計画は常に流動的だ。最新のスケジュールでは、SpaceXのCrew Dragonは7月に有人テスト飛行を実施する。また、ボーイングのCST-100 Starlinerは有人テスト飛行を11月に実施する予定だ。そして、実際の宇宙飛行士の輸送ミッションはその後に実施される。
民間開発の宇宙船で宇宙飛行士を輸送するという野心的な計画には、今後もさまざまな困難を乗り越える必要があるだろう。しかし、それを実現しようとしているアメリカ企業のダイナミズムには、感服せざるを得ない。
(文/塚本直樹 Twitter)