社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由

編集部注:本稿はJohanes Lenhard博士による寄稿記事である。Lenhard博士は、ベンチャーキャピタル業界における倫理を専門にしたケンブリッジ大学の研究者だ。

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ロンドンにある有名企業のVCパートナーの1人が率直にこう話してくれた。

ベンチャーキャピタルは金そのものだよ(笑)。ハイリスクで、おそらく最も先が読めない資産クラスだけど、リターンは最高だね。

他の記事で詳しく書いたことがあるが、筆者は、しばしば株主価値資本主義に起因する即時回収のメンタリティを超越して、それよりさらに価値のあるものに関心を向けることは(経済的にも倫理的にも)意義深いことだと考えている。ただし、筆者の議論は規範的、イデオロギー的なもので、VC投資の現状を説明するものではない。これまで、ベルリンからシリコンバレーまで150を超えるVCにインタビューする機会があったが、彼らの話を聞けば聞くほど、ほとんどのVCは環境・社会・ガバナンス(ESG)、社会貢献、サステナビリティ、環境保全技術(Nicholas Colin(ニコラス・コリン)氏が言うところの Safety Net 2.0)など気にもかけていないことが明確になってくる。昨年のVC資金の大半は、フィンテックに投資された。不動産、オートメーションにも引き続き多額の資金が投資されている。これらの分野で少しでも「社会貢献」事業と言えるものはわずかしかない。

では、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、BlackRock(ブラックロック)、JPMorgan Chase(JPモルガンチェース) などの、決して進歩的ではないとされる大手資産運用会社や投資ファンドが、社会貢献投資に関心を示す(意向がある)と宣言し始めているのは一体なぜだろうか。

資本主義の中心に鎮座するこれらの企業が、ESGガイドラインに注目し、規制強化を叫び、気候にやさしい企業をポートフォリオに加えているのは何を目論んでのことだろうか。大企業のCEOが株主価値だけを追求するのを止めて、すべてのステークホルダーの利益を考えるようになったのはなぜだろうか。その理由が金であること、つまり新しい投資機会が絡んでいることは間違いない。「社会貢献すること」が利益に結び付く時代になりつつあるのだ。しかし、先進的なビジネスモデルで時代を先取りして投資することを常とするはずのVCが、この大波に乗ろうとしないのはなぜなのか。

誤解しないでほしいのだが、社会貢献投資や「ソーシャルグッド(社会や地球環境を良くしようとする活動・製品・サービスなど)」への投資に特化する決断を下した新しいクラスのVCは確かに存在する。DBL(ディービーエル)は例外としても、こうした新しいクラスの投資ファンドの多くは最近設立されたものばかりだ。現時点で大手ファンドと呼べるものは1つもない。例外は、ルールが存在することを示すだけだ。

Twitter(ツイッター)の共同設立者Ev Williams(エヴァン・ウイリアムス)氏などが率いるB-Corp認定企業Obvious(オブビアス)がBeyond Meat(ビヨンドミート)のIPOを成功させる一方で、Greylock Partners(グレイロックパートナーズ)などの既存大手投資ファンドでは、投資チームの性別多様性を達成できていない(同社投資チームの女性メンバーは1人のみ)。ドイツでは、社会貢献投資に特化していることをうたう投資会社はAnanda(アナンダ)1社のみで、Holtzbrinck(ホルツブリンク)、Earlybird(アーリーバード)、Point9(ポイントナイン) などの大手投資会社は今でも、eコマースとSaaSから今後も利益をあげるために奮闘を続けたり、3倍のリターンが得られる方法としてゲーム業界をやっと見いだしたりしている。

なぜなのか。考え得る最大限の利益を追求するためだけに集められたバカみたいに莫大な運用資金を扱うKKRがESGガイドラインを適用する一方で、頭の切れる何百人ものVCジェネラルパートナーたちが、まるで見て見ぬふりをするかのように、過去の成功例にとらわれて、「ソーシャルグッド」と「社会貢献」以外のあらゆる分野で革新的企業を追いかけているのはなぜなのだろうか。

以下に6つの仮説と口実を挙げてみる。

1.「社会貢献」の定義があいまいである。GIIN(グローバルインパクト投資ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、UN(国連)などが、ESGと社会貢献レベル測定基準を毎日のように更新している(関連する用語も改訂される)ため、現場の投資家たちはついていくのが難しい状況だ。筆者は社会貢献投資を専門とする多数の投資家たちに話を聞いたが、その基準の解釈は十人十色だった。筆者がインタビューしたVCの中には比較的安直な結論に達しているところもある。何を目指すべきか定義が明確でないのだから、取り組むことなどできない、というわけだ。

2.VC業界では、社会貢献投資の利益率について信頼できるデータがまだ存在していない。VCには強い群本能がある。VCは新しい分野への挑戦に慣れているように見えるが、財務的リターンのことになると、実績のない収益パターンは見て見ぬふりをする。リターンの点でも、LP出資者への説明の点でも、「社会的に優良な企業」がVC業界に財務的利益をもたらすことを証明するデータがない限り、多くのVCは動かないだろう。

3. 今のやり方で利益が出ているため変える必要性を感じない。テクノロジー業界やバイオ業界を中心にハイリスク投資を行うというVCビジネスモデルはこれまで非常にうまく機能してきた。実のところ現在、低金利の影響で、ますます多くの資金がそのような資産クラスに流れ込んでいる。まさに従来のVCモデルによって生み出されてきた平均以上の利益を得るためだ。今、この投資方法を変える必要性が見当たらない。

4. VC以外の投資企業も社会貢献投資を実行に移していない。多くの資産運用会社やプライベートエクイティ投資会社が「ESG投資への参入」や「社会貢献投資の実施」を広く表明しているが、具体的に多額の資金が投資された例はまだない。Bain(ベイン)の運用資産総額は300億ドル(約3兆2000億円)だが、同社の社会貢献投資部門Double Impact(ダブルインパクト)のファンド総額は3億9000万ドル(約‭417億円)である。また、KKRの運用資産総額は2070億ドル(約22兆円)にのぼるが、同社の社会貢献投資部門Global Impact Fund(グローバルインパクトファンド)のファンド総額は13億ドル(約1400億円)にすぎない。

5. 他の運用先への圧力のほうがずっと強い。LP出資者は大手資産運用会社に対してより強い影響力を持っている(その影響力が変化を推進する場合も多い)。しかし、その一方で、KKRやBlackStones(ブラックストーンズ)などの大手は、世間の悪評を埋め合わせるために過補償する必要がある。CSRのような美徳アピールは、(経済的な利益をともなう場合は特に)その良い方法だ。

6. 多くのVCはあえて社会貢献投資をしないという選択をしている。有名なSV企業の元パートナーの1人が「今の若者は『社会的に良い会社』を作るためではなく、財を成し権力を振るうためにVCになる」と話してくれたことがある。テクノロジー業界にもかつてはSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏のような理想を追求する経営者がいたが、今は、海上都市を建設し、ニュージーランドの土地を買い占め、(時として)トランプ大統領を支持する(そして、観察期間を延長することでそのコネから金もうけをする)ようなテクノ自由主義の経営者が多い。蒔かぬ種は生えぬ、のだ。

営利の社会貢献投資はまだごく小規模な資産クラスでしかない(最新のGIINの統計を参照)など、上記の理由のいくつかは納得できるものだとしても、VCというのは本来、誰よりも早く先陣を切るものではないのか。逆張り投資的に、従来の型を破るチャンスを探し求めるものではないのか。新たな投資機会や投資分野をいち早く見つけ出すことこそがVCの仕事ではないのか。そして何より、信頼性が高く社会貢献度が高い企業を求める消費者の声は強まる一方だが、そうした声をVCはいつまで無視し続けるのだろうか。

結局のところ、2000年代のKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)以降初めて、大手VCが「社会貢献テクノロジー企業」に特化した投資を発表するのは一体いつになるのか、という筆者の疑問に対する答えはまだ見つからないままだ。

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Category:VC / エンジェル

Tag:倫理 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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