自動運転技術の普及に伴う新たな自動車保険のかたち

Long exposure photograph captured with a front-mounted camera. Streaking reflections in the car's surface and streaking city-background.

【編集部注】執筆者のKevin Wangは、世界最大級のテクノロジーイノベーションプラットフォームPlug and Play Tech Centerの保険テック下部組織であるPlug and Play Insuranceに所属している。Plug and Play Insuranceは、業界トップの保険イノベーションプラットフォームで、Munich Re、USAA、State Farm、SOMPO Digital Lab、Farmers、Nationwide、Deloitte、Travelers、Aviva、AIGといった世界的な保険機関とのパートナシップによって最近誕生した。Kevin自身は、Case Western Reserve Universityでファイナンスを学び、製造や流通、戦略コンサルティングの世界で経験を積んだシリアルアントレプレナー(連続起業家)。

モビリティ業界での技術革新によって、より安全に、より早く、そしてより便利に移動ができるようになった。様々な調査からもその功績が見て取れる。Insurance Information Instituteによれば、過去三年間で自動車関連の死亡事故は33%減少し、9つのモデルに関して100万台単位で見たときの1台あたりの死亡者数は0だった。さらに、UberやLyftといった配車アプリの登場がモビリティサービスの裾野を広げ、今では60ヶ国以上で一日あたり合計100万回以上も利用されている

このようなポジティブな面が存在する一方、イノベーションには犠牲が伴う。今年の5月7日、あるドライバーがTeslaのオートパイロット機能を利用中に命を落としたのだ。彼の車は後方から迫ってくる白いトラックと空の景色を識別できず、トラックに衝突してしまった。この事故で自動運転技術に関する論調や世論が変わってくるかもしれない。また、この事件が、自動車の未来と現在が実際どのくらい離れているかや、社会が今後そのような未来を完全に受け入れるのかどうかということを見直すきっかけとなった。

そもそも自動運転車は事故の減少に繋がると考えられている。昨年アメリカでは3万5000件の交通死亡事故が報告されており、これはアメリカの人口の0.01%にあたる。この数字は大したことがないように映るが、全て人間が原因で起きた事故であり、ソースコードに人の命がかかったアルゴリズムによるものではない。ここから、プログラマーや彼らの書いたコードに与えられることになる、自動運転車を購入した消費者の生死を決める力に関する問題が浮上してくる。そして究極的には、自動運転車関連の事故や命に関わる事象が起きた際に誰がその責任を負うのだろうか?

その次の重要なステップが、自動運転技術の拡散といかに安全にその技術を私たちが住む社会のフレームワークに埋め込んでいくかという課題の解決だ。これらの問題を念頭におきながら、企業や政府関連組織が自動運転車の普及を目指したステップを踏もうとしている。Googleは自動運転技術のテストを進めており、彼らの自動運転車隊はこれまでに150万マイルの路上走行テストを行ってきた。

2014年にアメリカ合衆国運輸省は、自動車の衝突に繋がることの多いヒューマンエラーを防ぐべく、自動車同士が「会話」できるよう自動車間の通信テクノロジーの利用を認可した。そして今年の3月、General MotorsはCruise Automationと呼ばれるスタートアップを10億ドルで買収した。当時同社は既に、Cadillac CT6のラインに高速道路での走行に特化したスマートクルーズ制御システムを導入しようとしていた。ここから自動運転車の技術・制度的インフラは既に成熟しようとしているのがわかる。

自動運転技術が人間のドライバーを完全に代替することはないかもしれないが、事故の減少には貢献する可能性が高い。

しかし、未だに自動運転技術が実際に広く普及するかどうかを決定づける課題の多くが未解決のまま残されている。消費者の受容がそのひとつだ。必ずしも全ての消費者が自動運転車を必要としているかどうかはわからない。そもそもアメリカ人は車好きで、Experian Automotiveの調査によれば平均で2.28台の車が各家庭に存在する。もしも自動運転車が本当に普及していくとすれば、エンドユーザーはそのうち車の所有権と移動を分けて考えなければならず、このコンセプトはElon Muskのマスタープランでも強調されている。

Deloitteによれば、モビリティ業界の未来には4つのステージが存在する。漸進的な変化、カーシェアリング、ドライバーレス革命そして自動運転技術の普及の4つだ。現在私たちが進んでいる道はドライバーレス革命のステージに向けられたものだと考えられ、そのステージに到達する頃には消費者の中に未だ車を所有している人もいるかもしれないが、その車には自動運転を可能にする技術が備わっていることになる。4ステージ全てが同時期に存在する可能性もあるが、全人口の各セグメントが平等に全てのステージに到達するとも限らない。また、ドライバーレス革命に向けてGMのCadillacに備えられる予定の新たな自動運転技術のように、今私たちのいる地点から漸進的な変化が起きるかもしれない。

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そして自動運転技術の普及ステージに到達する頃には自動車保険にとてつもなく大きな変化が起きることになるだろう。まず、事故の件数が減ることで保険金請求の数が減り、それが保険会社の払い出し額の減少に繋がる。Insurance Institute for Highway Safetyのエグゼクティブヴァイスプレジデント兼チーフリサーチオフィサーのDavid Zubyは、「前面衝突防止テクノロジーを備えた自動車の場合、対物賠償保険の請求頻度が7〜15%低いことが分かっています」と語っている。つまり、テクノロジーの力で事故の件数が減るだけでなく、保険会社の払い出し額も減るというWin-Winな状況が生まれるのだ。

さらに保険会社は自動運転車が広く普及する前に新しく革新的な商品を生み出す必要が出てくるだろう。ドライバーレス革命のステージにおいて、衝突防止テクノロジーは保険料の低減に関して大きな役割を担うことが予想されるが、保険会社はそれに合わせて新たな商品の開発を行わなければならない。カーシェアリングステージでは、保険会社がUberやLyftのような企業に対してギャップ保険やライドシェアリングポリシーを販売することができた。ドライバーが車にお客をのせる際の保険を必要としていたのだ。

しかし新たなポリシー下では保険料が増加することになる。Geicoを例にとると、シカゴに住む男性ドライバー向けの個人保険の料金は1140ドルである一方、同じ人がライドシェアリング用の保険に加入するとその金額は3743ドルに増加する。自動運転車用のポリシーにも同じような値上げ戦略が適用される可能性があるのだ。

Tesla車の事故によって、大衆が自動運転車を完全に受け入れる道が遠のいただけでなく、社会が自動運転技術の普及ステージに到達せずに自動運転が拡張機能として導入されるだけになるかもしれない。また、ドライバーは自動運転車を利用していても事故の責任を問われることになる可能性が高い。つまり自動車保険のニーズが無くなることはないだろう。結局のところ、自動運転技術が人間のドライバーを完全に代替することはないかもしれないが、事故の減少には貢献する可能性が高いのだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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